9 ◇週末
その週末の金曜日の夜のこと。
リビングで寛ぐ夫と私。
互いの存在を感じつつ、各々好きなことをしながらまったりしていた時のこと。
私は趣味のレース編みで、モチーフ作り。
同じものを30個くらい作る予定だった。
冬也は鼻歌が聞こえてきそうなほどご機嫌でゴルフパターを拭いてみたり
いろいろとゴルフ用具に手を入れていた。
それを横目にモチーフを5個程編んだところでたまらなくなり、
私は言いたいことを夫に吐き出した。
「ねっ?
しつもぉ~ん。
もし誰かに言動で傷つけられたりしたらあなたならどうする?
やられっぱなし? それともやり返す?」
「なんでまた今急にそんな話を……。
姫苺 ってたまにそんなふうに突拍子もない話するよなぁ~」
「いいからいいから……。
なんとなくね、子供時代に始まって大人になってからもだけど、
友達や他人から意地悪されたことなんかを思い出しちゃって……
そう言えばあの時はみたいにいろいろ思い出しちゃったのよ」
「俺はやりかえさないよ。人を傷つけるのはできない性質からね」
「そうなんだ」
へぇ~、ほぉ~、どの口がぁ……だっ。
『人を傷つけるのはできない性質からね』だってさっ。ケッ。
「 姫苺 は今までどんな感じできたんだ?」
「それがね、自分でも意識してなかったんだけど思い返すと、ふふっ……
すごいわ、我ながらあっぱれ。
意図してやったのもあれば知らず知らずに流れでそうなったっていうのもあるけど、
あれだね今思うと私って何かすごいそういうパワーが産まれながらに備わってるかも
って思うくらい、相手をきっちり型に嵌めてきてたわ」
「 そういえば、姫苺 の武勇伝って聞いたことなかったよな。
例えばどんなのがあった?」
「説明というか、話少し長くなるけどOK?」
「Oh,Yeah,OKOK!」
若い女子とキスできたんだもんなぁ~、ご機嫌で喜んでいいのか
悲しむべきなのか……私への反応もノリノリの夫だった。
「先に言っとく、絶対茶化したり笑ったりしないと誓って!」
「誓うよ!」
「私ね中学の3年間はほんとにほんとに大人しくて地味で、特に意識した
異性とは緊張してしまってなかなか普通に話すことができなかったのよ。
でもね、ある時ちょっといいなぁ~って思ってた石田くんって子が
たまたま隣の席になって、おまけにその石田くんの後ろが話しやすい
金本くんっていう子で、私にとってすごくLuckyな席順だったの。
金本くんが石田くんと仲良かったから、気がつくと私はふたりとしょっちゅう
軽い話で盛り上がって、楽しかったわ。
石田くんと変に意識しないで話せることがほんとにうれしかった。
まだ中学生だったし、付き合いたいとかそんなの一切なくって、
毎日学校行って3人で話せるほんの5分くらいの時間が至福のひと時だったの」
「それでそれで……?」
「なのに、吉田っていう女子がとんでもないことを私に言ってきたの。
たぶん吉田も石田くんのことが好きだったのかもしれない。
石田くんと金本くんのいないところで言われたの。
『斎藤さんって石田くんのこと好きなんでしょ』って。
私は『えっ? 』って言ったあと、黙って何も言わなかった。
言えなかった、が正解かもだけど。
それで、その時から私は石田くんとも金本くんとも話せなく
なってしまったの。
吉田のあの一言のせいで、私の中の自意識過剰が発動してしまって、
とうとうクラス替えで別れてしまうまで私は一言も石田くんや金本くんと
話せなかった。
とても悲しかった。
吉田のことを酷いヤツだって思ったわ」
「それでそれで……?」
「その一件で、私、思ってた以上のトラウマが残ってしまったのよ。
それはね、少しでもいいなって思う異性とは話ができなくなってしまうっていう、
自意識過剰病が異性相手だとすぐに発動してしまうようになって。
周りに好きだってもろバレしてしまうんじゃないかとか、
そんな考えばかりが先走りしてしまって普通にクラスメイトとして
会話できないっていうか。
いいなって思う相手に普通に話もできなくなってすんごい辛かったわ。
もちろん吉田を憎んだ。
同性にしろ異性にしろ自分がいいなって思う相手と話せなくなるって
すごく辛いことなのよ」
「そんなことがあったんだ」
「でもね、高校生になって転機が訪れた。
なんかね、高校に入ってすぐにめちゃくちゃクラスに馴染んじゃって私、
ものすごく活発で明るめ女子になれたんだぁ~。
自信がつくってすごいわよお~。
実は私には――幼稚園からじゃなくて、生まれた時からいつもそばにいた、
いや、ぶっちゃけ一緒に育ったような幼なじみがいるんだ。
私たちの関係を知っている同級生も何人かいたけれど、それは彼ら自身も
また幼なじみだったからで。
でも、高校で知り合った吉田だけは、そのことを知らなかった。
設樂慎っていう男子なんだけど。
私たちの場合は友達同士で仲が良いっていうのとはちょっと違ってて、
きょうだいみたいな感覚なのね。
無理に仲良くしてるわけでも皆の手前仲良く振舞ってるわけでもなくて、
自然な関係でぜんぜん異性でも気遅れせず話せる相手だったの。
私は小さな頃から彼のことを慎とかマリリンとかって呼んでた」
「へぇ~、その話初めて聞くよね?」
「そうね、たぶん。
2年になると、ほとんど1年の時からの仲の良い友達と同じクラスになれて、
おまけにマリリンとも同じクラスになれたの。
クラスの友達にはマリリンのことは説明してたから、誰も私に
マリリンとのことで冷やかしたり中学の時の吉田のように意地の悪い
セリフを吐くこともなくて、1年に続いて2年生になっても居心地のよい
環境だった。
小さい頃から顔立ちの奇麗なマリリンは男子からも女子からも
そこそこ人気があったんだけど、高校生になると断然背が伸びて、
イケメン高身長で一緒に歩いていると女子から羨ましいぞっと
羨ましい~光線が半端なく飛んで来るくらいカッコよかったのよン」
「それでそれで……」
「私とマリリンは中学では一度も同じクラスになったことがなかったし、
学校ではあまり親しそうにもしてなかったから、別の小学校から来てた
吉田は私とマリリンのことを知らないのはもちろんのこと、マリリンのこと
も何も知っちゃあいなかったの。
吉田の奴、高校生になるとなりふり構わず、こともあろうにマリリンに
執着しはじめて嗤えた。
私からすると、意地悪で性格の悪い女が自分の弟or兄に
ちょっかいを出されてる気分だった。
ほんとっ、むちゃくちゃ気分悪かったわ」
「その吉田さんのアタックはどうなったの?」
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