(コツ…コツ…)
中は結構広々としていて、開放的だ。なかなか金を持っている感じの装飾…この世界では大富豪に当たりそうだな。それに、中も紅い。主人は紅が好きなのだろうか。足音が館内へ響くとともに、俺を焦らせるような雰囲気を出す。かなり不気味だ。あの森と同様に、居心地が悪い。すぐにでもここから出たいが…
「ガチャン」
この館は、俺を逃がしてはくれなさそうだな。
少し絶望の感情を抱きながら前へ進む。
廊下を歩き続けると、エントランスホールのような場所に出る。さっきよりも広く、戦いを想定して作られたような場所だ。上にはシャンデリアが飾ってあり、両脇には階段、上は吹き抜けになっている。だが…窓が全くない。外からも見てわかったが、この館は、奇妙でおかしい。おそらく、“人間ではないもの”が住んでいるのだろう。それで…
「おい、出迎えるのにそれはちと…ないんじゃないか?」
…静寂が続く。はぁ、さっさと出てこればいいのに。
そう思った瞬間…
(パチッ…)
と。指が鳴る音が辺りに響いた。
「あら、気づかれていたのね。あなたが察知能力を持っているのは盲点だったわ。」
指が鳴った瞬間、背後に気配を感じた。
「おっと…っと、背後に回ってくるのは予想外だな。そういう能力でも持っているのか?」
その気配に、俺は問う。
「鋭いわね。流石、美鈴を倒しただけあるわ。」
「美鈴…?あの門番のことか?って、そんな話はどうでもいい。お前、名前は?」
「十六夜咲夜。紅魔館の主人、“お嬢様”の従者、そして、メイド長をやっている者よ。」
「俺はインク。アルトリス・インクだ。まぁ、背後に回ってくることなんだし、話し合いではなさそうだな。」
少し面倒くさそうな顔をしながら言う。
「あら、わかってるじゃない。そうと決まれば…侵入者から“お嬢様”を守るために、あなたを排除させてもらうわ。」
うわぁ…マジか。先程技を使ってかなり疲労しているのに。とりあえず…避けることを意識するとしよう。
「あら、避けてばっかり?つまらないわね。少し期待外れだわ。」
「うっせぇな。疲れていることぐらい分かってくれよ。」
「ふん。敵の心配なんて、するはずがないでしょう。でもあなた、本当に避けていることにしか集中してないのね。」
十六夜咲夜という女は、少しニヤリと不敵な笑みを浮かべ、こちらを向く。
「はぁ?どういうことだ。別に何も…っ…!?ガ…グ…ケホォッ」
俺は必死に腹を抑える。何が起きているのかわからない。俺は今何をされ、あの女は俺に何をした?
「つまらない。本当に期待外れだったわね。」
くそ…ここで終わるか…能力を使っても、それこそ死の近道を通ることになる。そうだ。部下たち…部下たちを呼ばないと。なんてこった。喋れない。本当に…あぁ、もうすぐか。
俺は何もできず、その場に倒れた。