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ジャケットの下に防弾ベストを着込み、抜かりなく準備する。
「あちー」
「しょうがないよ」
上下黒色のため、重ね着すると暑いのだ。でもスーツ自体は伸縮性のよい素材なので、十分に動ける。
今日はいよいよ作戦決行の日。6人の間には、ややピリピリとした緊張感が漂っている。
が、明らかにテンションのおかしい人が約1名。
「うっひゃーワクワクするねえ!」
北斗だ。いつもなら冷静沈着の頭脳派なのだが、自分が現場に出るとなるとこのはしゃぎよう。
「北斗うるせえ」
樹が言っても聞く耳を持たない。そんなに楽しいのなら毎回出てよ、と慎太郎は言うが、みんなで行くからいいのだそう。
普段は物置で管理している6つのピストルと小ぶりのナイフを、それぞれの懐やポケットに忍ばせる。
「用意できた? ジェシー早くして」
鏡を見ながら丁寧にオールバックを撫でているジェシーに、大我が声をかける。
「オッケー、もうできた」
実はみんなオールバックなのだ。怖さを引き立てるための髪型らしい。
「じゃあ行こう」
ただのドライブのときはお喋りが絶えないけれど、今日はそれを楽しんでいる余裕はない。
北斗を除き、5人は黙り込んでいる。
「最近組織の依頼なかったからな、撃ち合いできるっていうのが嬉しすぎる!」
一般人が聞いたらドン引きするだろう言葉を、彼は満面の笑みで放っている。
「お前いい加減静かにしろ」
運転中の高地が注意すると、やっと声のボリュームを落とした。
「ごめん…」
「ったく変な癖だよな。普通にしてたらクールなのに、なんか仕事に出るときだけハイになる。こないだの薬やった?」
樹が呆れたように言う。この間樹と慎太郎がやってきた男性の弱みだった。
「そんなわけねーじゃん」
「だよな」
すると、スマホのナビを凝視していたジェシーが急につぶやいた。
「ここだ」
北斗も反応する。「あっ、そうそうここ」
事前にロケハンしていたらしい。
山道を行った先に現れたのは、ツタで覆われた倉庫。ずいぶん古い。
車を人目につかない場所に置き、6人は降りる。
まだ誰も来ていない。物陰に潜み、敵陣を待つのが作戦だ。
「みんなバラバラの場所に隠れて」
北斗が指示し、各々スポットを見つけた。待つ間に拳銃に弾を込める。
それぞれの瞳には、すでに仕事人の光が宿っていた。
何やら物音がしたと思えば、入り口にはターゲットが複数人立っている。
先頭には組長だろうか、黒い服を着た男がいる。案外小柄だ。しかし、周りの男は背が高い。
「何だ、誰もいねえじゃねーかよ」
野太い声が聞こえた。しめしめ、とばかりにジェシーはにやつき、静かに立ち上がる。
「お呼びですかい、組長さん」
一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに睨みつける。
「誰だお前」
「忘れたんですか? 記憶力ないですねぇ。あなたたちが昔やった人の息子です」
あくまで余裕の顔だ。声にも遊びのトーンが混じっている。
「そんなん知らねえよ、俺らに何の用だ」
「もちろん、『お返し』です」
と言うと同時に、素早く拳銃を取り出す。それを合図に、5人も姿を現した。
「おいおい、1人じゃねえのか」
ジェシーのところまで行き、6人が横一列に並ぶ。いつの間にか真っ黒のサングラスまでかけていて、なかなかの迫力だ。
「何ビビッてんですか、もっとこっちに来たらいいのに」
手招きをする。だが、ストーンズより背の低い組長は動かない。
6人は一瞬のうちに顔を見合わせ、銃を出した。
先に撃ったのはジェシーだった。相手もすぐに反撃に出る。6人は上手くかわしながら、「的」をめがけて弾を放つ。
銃を得意としているメンバーは多い。
高地は組長を挟んでいた男を倒し、慎太郎は隙をついて近づき、発砲してからナイフで一突きした。
北斗はドラム缶の陰から狙い撃ちする。一発で命中した。
大我は相手のピストルを奪ってからとどめをさした。
ジェシーはギリギリのところで銃弾を避け、組長の胸をめがけて撃ち込んだ。組長はばったりと倒れた。
「しゃっ」とガッツポーズをした。
が、まだ数人残っている。あとから出てきたのだろう。
その中の一人の銃口が自分のほうに向いているのを、樹は認識した。
――やべっ……。
ちょうど弾が切れ、ベストをめくって裏に入れていた予備の砲弾を取り出そうとしていたところだった。
破裂音が鳴ったと思えば、強い衝撃が身体中に走った。
崩れていく足元の中、樹は自分の腹部から流れる赤い液体を見た。
痛いとわかったのは、冷たいコンクリートの感触を肌に感じてからだった。
続く