夜8時ごろ。
テレビは、つけたまま誰も見てなかった。
俺はソファに座って、スマホゲームをだらだらやってた。
るかは、隣で毛布にくるまって、
天井をぼーっと眺めてた。
無言が、もう日常になってる。
そんな中、
るかがふいに立ち上がった。
「ちょっと、外行ってくる」
「……は?」
思わず顔を上げる。
るかは、
スマホとイヤホンだけ持って、スリッポンをつっかけた。
「別に、すぐ帰るから」
「……」
俺は何も言えなかった。
どこに行くのかも、
何をしに行くのかも聞かなかった。
聞いたら、
たぶん、怒られるか、黙られる。
それがわかってた。
⸻
玄関のドアが静かに閉まったあと、
部屋に取り残された俺は、
スマホを伏せて、天井を見上げた。
さっきのるかと同じように。
(……なんだよ、別に)
なんでもない。
ただ、外に行っただけだ。
そう思うのに、
胸のどっかが、もやっとしていた。
⸻
10分、20分、30分。
音楽を流しても、
ゲームを起動しても、
るかのいない空気は、思った以上に静かだった。
(帰ってこないな)
そう思った頃、
カチャ、と鍵が回る音がした。
ガチャ。
ドアが開いて、
るかが無言で入ってきた。
ちょっとだけ、髪が風に乱れてた。
「……」
「……おかえり」
俺は、自然にそう言った。
るかは、
一瞬だけこっちを見て、すぐ目をそらした。
「ただいま」
それだけ言って、
またソファにごろんと倒れ込んだ。
何も話さない。
何も聞かない。
でも、
戻ってきたことに、ほんの少しだけ安堵した自分がいた。