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「初任務」
ややセンシティブ?
目を開けると、康二は俺に裸で抱きついたまま眠っていた。そうだ、昨夜は彼とまぐわったのだった。
腰や背中がやけに痛くて重怠い。取り敢えず何か着る物を身につけてから康二を起こした。
🖤康二、起きて。朝です。
🧡んぅ、、れん…?
🖤うん。
🧡蓮~
寝ぼけ眼で抱きつかれ、離れる素振りがないので諦めてされるがままにした。せめてもの抵抗で肩を揺り動かす。
🖤もう、起きて?朝ごはん食べよう。
🧡蓮抱っこしてやぁ…
🖤はいはい。
夜はあれだけ激しかったのに、今はもう甘えん坊な仔犬のそれに戻っている。その差に思わず苦笑した。
細い体に、用意されていた薄緋色の着物を着せてそっと抱き上げる。余りにも軽いのでちゃんと飯を食っているのか心配になる。
居間には、この家の使用人が用意してくれたのか、朝食の支度が整っていた。
完全に甘々な康二の頬を優しく叩き、それでも瞼を開けないので焦れったくて口付けした。
ぱちりと目を開けて、したり顔の康二は満足そうに笑った。
🧡もう、朝やで?
🖤知ってる。康二のせい。
🧡誰がや!
笑ってまた接吻を交わした。顔が離れ、交差する視線が熱を孕み、取り巻く空気も柔らかく緩む。
🧡蓮、愛しとる。もう一回しよ?
🖤今は腰が痛いんだって。俺も今すぐにでもしたいけど。また夜ね。
🧡む。
康二は膨れっ面でこちらを睨む。そんな彼もいじらしく可愛らしい。小動物のように膨れた片頬を指でつつく。
🖤そんな顔しても駄目。
堪えきれなくなったのか、吹き出すように康二は笑った。
🧡冗談やって。そんなに色欲には溺れとらんから安心しぃ。
🖤ふふ、なら良かった。
甘ったるく和やかな空気の中、突然康二の目付きが真剣なものに変わった。
片耳を軽く押さえて、遠くを見るような目をしている。
🖤康二?どうかした?
俺が訊くと、康二はにかっと笑い、俺の肩を叩いた。
🧡蓮、初仕事や。面は持って来とるな?
🖤勿論です。
🧡それなら話が早い。行くで、付いて来ぃ!
康二はいつの間にか手にしていた天狗の面で顔を覆い、颯爽と雪原へ飛び出していった。俺も慌てて黒鬼の面を被る。
🖤え、あ。はい!
遂に半年間の鍛練の成果を見せる時が来た。どんな敵でも返り討ちにしてくれる。
そう心の中で意気込んで、負けじと雪上を疾く走った。
向日葵の屋敷からそう遠くない湖畔で、争いは起こっていた。
「ついに出たな化物!退治してくれるわ!」
「散々兵達を亡き者にしやがって!」
幕府の配下なのか、松明や武器を手にした侍が、赤い鬼の面を着けた人に今にも斬りかかろうとしている。
??「ご機嫌よう、皆さん。朝から元気なようで素晴らしいですね。僕からも何か挨拶をせねば」
赤鬼面の、深紅の着物を纏った男は掌から炎を出し、一人の侍の刀身を火達磨にした。
「うあぁぁっ熱ぃ!熱い!助けてくれぇ!」
「ひ、怯むな!かかれ!相手は異能を使う化物だぞ!」
??「僕の名は化物ではありませんが…?ああ、まだ名乗っていませんでしたね。僕の名は”紅薔薇”です。以後お見知り置きを。」
??「以後っつったって、もうこいつら死ぬけど?」
青い刺青の入った狐の面を被った男が、いつの間にか俺の近くに立っていた。赤鬼の面の人と親しげに話している。
❤️そうだね。さっさと終わらせようか、葵。
💙俺は最初からそのつもりだし。
葵と呼ばれた狐面の男は手を広げ、池の水を天女の羽衣の様に操って、大勢の敵に向けて津波のように放った。
「ぎゃああああー!!」
炎で融かされた雪が雪崩に、水流は絡み付く大蛇となって敵を一掃した。
💙おい、そこの黒鬼。突っ立ってんなら帰れ。邪魔だ。
敵を片付け、一息ついた様子の狐面に睨まれた。面で顔が見えなくとも嫌悪を向けられているのがわかる。
❤️葵、やめてあげて。その子は華族の一員だよ。ね、黒蓮。
🖤あ…はい。済みません。お役に立てず…
名を呼ばれて漸く我に返った。呆気に取られて何も出来なかった自分の不甲斐なさを悔やむ。これでは詰問されて当然だ。
❤️いいよいいよ。黄菊から話は聞いてる。君は相当強いんだってね。
💙ふん。彼奴は話を盛る奴じゃないと思ってたのにな。弟を溺愛し過ぎた天罰だ。こいつは直ぐ死ぬ。
❤️葵。
💙彼奴は知らなくてもな、俺らは解ってる。この里じゃ、弱い奴は直ぐに死ぬんだ。華族だろうが関係無くな。己を強者だと勘違いした武士の端くれなんざ、雑魚に違いない。
赤鬼面の制止も聞かず、狐面はぺらぺらとよく喋った。悪口が水みたいに垂れ流されていく。
俺は腹の底で沸々と腸が煮えたぎるのを感じた。気づくと俺は狐面を睨み返していた。
🖤…撤回して下さい。
💙あ?
🖤俺を悪く言うのは構いませんが、兄を罵倒されちゃ俺も黙って居られません。お言葉ですが俺は、強いですよ。
確かに俺は武士の落ちこぼれの卑怯者なのかもしれない。だが、兄や翠仙は、こんな俺をも強いと認めてくれた。
自分を信じてくれた人を、俺も信じたい。
不敵に嘲笑う声が面の下からくぐもって聞こえる。
💙ははっ。なら証明してみろよ。
🖤お安い御用です。
間髪入れず答える。
俺は掌を広げて闇を操り、十数人程の敵を闇の中へ吸い込んで見せた。
敵達が悲鳴を上げる前に姿を消す。その光景をにわかには信じられなかったのか、狐面は暫く動かなかった。
❤️成程。腕は確かだ。
赤鬼面の男、紅薔薇はぱちぱちと拍手をした。俺を称えているらしい。
❤️仲裁出来なくてごめんね。口は悪いけど、葵に悪気は無いから。かくいう俺も君については半信半疑だったし。
そう言って紅薔薇は面を取った。艶のある黒髪に、形の良い唇が見える。瞳は燃えるような緋色をしていた。
❤️葵、君の言う程この子は弱くないよ。
💙…分かってる。
狐面の男、葵は唇をむぐむぐと落ち着き無く動かしてから、口を開いた。
💙その…悪かったよ。罵倒しちまったりして。でも別に俺、お前らの事嫌いじゃないから…
声がどんどん小さくなっていき、最後の方はあまり聞き取れ無かった。
どうやら俺を毛嫌いしているわけでは無いらしい。少し安心した。
俺も面を外そうとした時、聞き覚えの無い声が頭に耳鳴りのようにして直接響いた。
『紅薔薇。未だ面は取らないで。敵襲はまだあるかもしれない。警戒を解くな』
❤️…あ、つい。ごめんなさい、兄さん。
『俺ももうすぐそっち行くから!背後に注意してな』
💙❤️はい。
🖤誰なんですか?この声は。
❤️ああ、これはね…
「居たぞ!全隊!一斉射撃!」
紅薔薇と葵はさっと身構える。間違いない、敵襲だ。
遠くから火縄銃の弾が飛んできて、次々に雪上に着弾する。二人は軽い身のこなしで全て避けた。
俺は影に化け、姿を眩ませる。天へ高く昇る煙の様にして、俺は空中で浮遊していた。
🖤あれは…
天狗の面を被った、康二の姿を見つけた。あ、今は向日葵だった。
向日葵は崖の上から戦場を見下ろしている。俺が気になって少し見ていると、彼は面を取り、懐から神楽笛を取り出した。
~♪
美しい音色が戦乱へ吸い込まれていく。その笛の音を聴いた侍たちは、操り人形の様に自我を失い、自らの同胞へ攻撃し始めた。
音で敵を操っているのだ。
🖤(これが、康二の能力か)
顔を見られないように、ここまで離れた場所にいるのだ。そう言えば初めて康二に出会った時も、笛の音に誘導されるようにして彼と出会った。
俺は納得して地上に舞い戻った。
「うわ!?何も無い所から男が現れたぞ!」
俺は敵地の真ん中へ降り立ち、次々に唖然としている侍達を薙ぎ倒していった。
🖤(幾ら倒しても次々に現れる。予想以上に敵は大軍だな)
血生臭さの中に、不意にふわりと水仙の香りがして振り返る。嗅ぎ覚えのある香りにやっぱり、と思う。
おたふく面を被った翠仙がいつの間にか後ろに立っていた。
彼が片腕で持ち上げている敵の顎に、見たこともない蔦の様な植物が絡み付いている。しかもそれらは根を張るかのように四方八方の敵に向かって伸びていた。
💚曼陀羅華は神経毒を持つからすぐに死ねる。お仲間も一緒で良かったね。
🖤翠仙さん。
翠仙は俺に気付くと、にこやかに微笑みかけた。
💚やあ、蓮。調子はどう?元気?
🖤調子…?俺は元気です。
💚そう。なら良かった。
先程俺が葵にきつく言われていたのを見られていたのか、何故か心配された。別に俺は罵倒されるのにも慣れているからこのくらい平気だ。
💚蓮、また強くなったね。闇を使う色華の子は初めて見た。
🖤ありがとうございます。俺も翠仙さんの異能は初めて見ました。
💚これ?ちょっと気味悪いでしょ。
自嘲気味に翠仙は笑う。
🖤綺麗ですよ。俺は好きです。
俺は考えるよりも先に喋っていた。余計な事を言ったかと思ったが、翠仙は今度は優しく笑った。
💚ありがとう。
腕から伸びる白い花が揺れる。綺麗、と思ったのは確かだ。
「隙ありぃっ!!!」
突然、翠仙の後ろから槍を構えた巨漢が飛び出してきた。
🖤危ないっ!
俺は闇の中へそいつを引き摺り込もうとするが、翠仙の首に刃物が近づく方が速かった。
「ぐあっ!?!」
ドカッ、と鈍い音がしてはっとする。桜色の毛並みをした大きな猫が、巨漢を蹴り倒していた。
🩷珍しいね。油断するなんて。
桜色の猫は翠仙の肩に飛び乗り、男の声で喋りだした。俺は喋る猫なんて初めて見たが、翠仙は慣れているようだった。
💚桜が助けてくれると思ってたから。
🩷俺の気を引こうとしたの?かわいい。
桜、呼ばれた猫はゴロゴロと喉を鳴らして翠仙の頬に顔を擦り寄せた。
その間に俺は強敵の相手をしていると言うのに、彼らが目前で仲睦まじくしているせいで周辺の敵は残らず倒してしまった。
🩷お前、強いな。噂には聞いてたけど。
桜は俊敏に雪の上に降り立ち、俺に歩み寄る。足を踏み出す毎に、四つ足だったのがいつの間にか二足歩行になり、桜色の髪をした男の姿に変わっていった。顔には同じ色をした猫の仮面を着けている。
🩷俺は桜。随分と翠仙に気に入られてるらしいな。
こいつ名器だから腹上死しないようにな、と俺の耳元で囁いてから、にゃははと高らかに笑った。
💚ねえ、聞こえてる…
🩷あ、悪ぃわりぃ。許してって。
面を被っていても分かる膨れっ面で翠仙が呟く。桜は少し慌てた様子で口だけの謝罪を繰り返した。その魂胆が翠仙には見え透いていたのか、すたすたと歩き出してしまった。
💚今夜は一緒に寝ない。
🩷えー。やだよぉ、ごめんってば!!
💚もう知ーらない。
俺はこの瞬間以上に気まずい状況を知らない。
次回へ続きます。
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