上の階にはシングルファザーの父子が住んでいる。
同い年くらいの男の子がいて、一度その子の家で遊んだ記憶がある。
坊主頭にメガネをしたどこにでもいるようなお父さんだったが、
どこか影のある雰囲気が印象深かった。
ある日のこと、母と買い物に出かけていた時
母の携帯に着信が入った。
隣のマヤからだ。
「今どこ?すぐに帰ってきて!!大変なことになってるから!」
母は血相を変えて私の腕を引っ張るとスーパーから飛び出し車に乗り込んだ。
小さな私には何が起きたのか分からずだった。
家が近づくにつれ、見たことがない黒煙が登っていた。
アパートの周りには人集り。消防隊員が必死の鎮火活動に勤しんでいる。
勢いよく車を降りた母の後を追うように私も車を降りるが野次馬達に揉まれ先に進めないでいた。
「おーい、なんだよこれぇ、マジかよぉ」
声の方を振り返ると上の階のお父さんだった。
手にはコンビニの袋。買い物に出ていた帰りらしい。
お母さんはただ唖然と見ていることしかできなかった。
野次馬達の隙間から見える自分のお家が真っ赤。でも頭の中は真っ白。
お気に入りのオモチャも洋服もママと一緒に寝たお布団も全部。全部。
数日後
犯人が発覚した。
上の階のお父さんだ。
動機は「俺を誘ってくれなかったから。」
「どうやら私達とマヤとでお隣同士仲良くしていてワイワイ楽しんでいることに嫉妬したらしい。」
「何それ!訳わかんないわぁ」
あの後、マヤの家でしばらく世話になることになった。
火はうちで留まり、マヤや他の部屋には被害が出なかったことが不幸中の幸いだ。
「7箇所に火をつけたらしい。隊員がすぐ火を消してくれて全焼にはならず済んだものの・・・まったく頭おかしいよ」
母とマヤと元父がそんな話をしているのを幼いながらもしっかりと聞いていた。
当時私は1人でお留守番することも多かった。
もしあの時1人でいたら。
犯人と鉢合わせ逆上し殺されていたら・・・。
いや、その前に
「大人は馬鹿だ。」
7歳を目前とした私は当時ハッキリとそう思った。
大人の勝手で男女がくっついたり離れたり、
イライラしてるのか理不尽なことで突然怒鳴りつけ暗闇に閉じ込めたり、
一緒に遊びたいなら「ご一緒してもいいですか?」って一声掛ければいいのに勝手に羨んで、勝手に嫉妬して、勝手に仲間外れにされたと被害妄想して火をつけて、
大人とは何て勝手で馬鹿なのだろうか。
とにかくいつまでもマヤの世話になるわけにもいかない。
そこに住むことができなくなった私達はいよいよ新居を探し、そこに移り住むのであった。