テラーノベル
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チャイムがなり終える直前に比奈芽は戻ってきた。「咲久!愛莉と莉愛から伝言もらってきたよ!」「ありがとう!でも…比奈芽…授業…」「大丈夫!ギリセフ!」ギリセフとはギリギリセーフということだ。教室に飛び込んできて、慌てて比奈芽は自分の席についた。
「咲久、姉たちを連れてきたよ。」そういう比奈芽の後ろには瓜二つの女の子がいた。背丈といい、目といい、服といい、髪の長さといいほんとうにそっくりだ。咲久が二人の違いを焦って探していると二人が喋った。「わたしが姉の愛莉。」「わたしは妹の莉愛」声まで同じだ。あっけにとられてると、二人が声をあわせて言った。「わたしたち、子猫を飼いたいから探してるの」あまりにも声が似ていて、合いすぎて一人が言っているみたいだ。「それで、桜井さんが子猫の貰い手を探しているって言うからいいかなって」妹の莉愛が言った。「いい?」姉の愛莉が聞く。「わかった。でも、ほんとうに飼い主を探しているのはわたしの友達の暁桜。今度、桜にいい日時を聞くから、ふたりとも親にいい日時を確認してほしいの。それで、日時がきまったら教えてほしいの。」「わかった。じゃあ、聞いてくる。とりあえず明日、また伝えるね」
二人の面会はそれで終わった。「桜、子猫の里親になりたいって人がいたよ」咲久が桜に下校中言った。「ほんと!」桜が目を見開いて聞いてきた。「うん。愛三姉弟って知ってる?」「知ってるよ。元々うち、醍醐小学校にあがる保育園にいたんだよ。で、引っ越しで入って一ヶ月半でこっちの班猫保育園にきたんだよ。」班猫保育園は(はんびょうほいくえん)はそこの園長が元々、オンボロ屋敷と言って元は猫神様が祀られていた神社の跡地にいた白と茶色の班猫を引き取って飼っていたからだ。名前はめおまるといった。「その愛三姉弟が飼いたいんだって。後は言われた通りのことは言ったよ。」「わかった!ありがとう!」
翌日、愛莉が代表して伝えに来た。「咲久さん、次の土曜日だって言ってたよ」「次の土曜日?わかった。咲久でいいからね。」そういうなりボールペンでメモ帳にメモを取り始めた。「愛莉さん、桜の家ってわかる?」「桜の家はお母さんが知ってる」「わかった。」「家族全員で来れる?」「もちろん来れるよ!」「わかった。とりあえずはOKだよ。」「じゃあ!」こんな会話が続き、咲久はすぐさま桜に報告した。「…って感じなんだけど、どう?」桜は少し考え込むと明るく頷いた。「うん、わかった。それで。」そうして咲久は返事受取代表として来た莉愛に伝えた。もしかしたら、これではまぐりとしじみが幸せになれるかもしれない。そう思った。
さて、今日は面会の土曜日。
ピンポーン!ピンポーン!晴れ渡る土曜日の朝、桜の家のインターホンが桜のように元気に鳴り響いた。「来た!」と桜と、早くからお邪魔していた咲久は気を引き締めた。「はーい!」桜がドアを開けた。「桜!」愛莉と莉愛がにこやかに話しかけてきた。姉の愛莉の手には小学三年生の末弟の愛吉が抱かれていた。「ふう。愛吉、重い」愛莉はそう言って、愛吉を下ろした。「おはようございます」愛三姉弟の両親も来ていた。「おはようございます!」桜は元気に挨拶を返して中へ迎え入れた。「お母さん!来たよ!」桜が先にあがり、叫んだ。「わかった!スリッパはお出しした?」お母さんの声に桜は慌てて、「今出す!」と言った。そして慌ただしく部屋の中へ駆け抜け、スリッパを五足持ってきた。「どうぞ」と差し出したスリッパを愛三姉弟たちは履いた。咲久が、「こちらのソファへどうぞ」と案内した。「ありがとう」愛三姉弟の両親がお礼を言った。片側のソファには愛三姉弟と両親が、もう片方には桜と桜のお母さん、そして咲久が座った。「はじめまして。こちらの桜の母、暁邦子(あかつきくにこ)といいます。」桜のお母さん、邦子が言った。「突然ですが、貴方がたにはこちらの書類に記入をお願いします。」と紙を丁寧に愛三姉弟たちに差し出した。「はい」とお父さんが言って、お母さんと話しながら、時折、子どもたちとも話しながら書類を書き込んでいく。
さて、あの書類には、何が書いてあるかと言うと、家族の名前、家族の年齢、家族の性別、一戸建てかマンションやアパートやシェアハウスか、動物を飼ったことがあるか、あるなら何の動物か、ペットOKかどうか、家族全員が猫を飼うことを承知しているか、家族で猫アレルギーの人がいるか、お客様の出入りの有無、家の間取、猫は完全室内飼いか外中自由に出入りか外かなどが書かれています。里親希望の人はそれを慎重に記入します(これは団体により、変わります)。25分後、家族は書類を書き終え、わたした。桜の母、邦子は最終確認をしている。そして娘の桜や咲久と話し合った。
「では、書類審査が通りましたので、今度はトライアルに移れます。どうしますか?」邦子が聞いた。「トライアルっておためし期間だよね?」末弟の愛吉が聞いた。すると桜が「そうだよ。トライアル期間は子猫だから、3週間。」と答えた。(こちらも団体により、一週間だったり、二週間だったり、一ヶ月だったり二ヶ月だったりします)「やります!」お父さんが火のように力強く答えると、みんな、「やります!」「やりたい!」「やらせて!」と声があがりました。それを聞いて邦子は地毛の薄桃色の髪をゆらして「わかりました。手続きを進めさせていただきます。」とにっこりと笑った。そうして必要な手続きが終わり、最後に、はまぐりとしじみについて言います。「みなさんははまぐりとしじみの里親希望でいらっしゃいますね。ご存知かもしれませんが、兄、はまぐりは生まれつき、右前足が不自由で、動かせません。」「もちろん知っています。ですが、ハンディキャップがある猫も同じ命でかわいいじゃないですか」両親は微笑んだ。そして「では、はまぐりとしじみのご対面ですね」邦子がそう言って桜と咲久に目配せした。桜と咲久は頷き合って、走っていった。「お母さん!連れてきたよ」桜と咲久が早足でキジトラの子猫を一匹ずつ抱きかかえて来た。「今、娘のさくらが抱いているのが兄のはまぐりで、娘友達の咲久が抱いているのが妹のしじみです。」 邦子は言った。「かわいい!」みんな口々に言った。「この子が右前足が動かせないはまぐりです」桜が抱いたまま、愛一家に見せる。咲久も「この子ははまぐりの妹のしじみです。」と言った。「どっちもかわいいね」みんな言う。「ねえ、お父さん」愛吉がお父さんに言った。「なんだい?愛吉?」「僕、はまぐりとしじみ両方いい。どっちもにして」愛吉が真剣な表情で頼み込んだ。「お父さん、愛吉も言ってるし、わたしも莉愛も二人がいい。兄妹引き離すのはかわいそうでしょ?」ちろりと愛莉は話しながら双子の妹、莉愛に目配せした。さすが双子。よく似た姉の気持ちが通じたのだろう。莉愛もせがんだ。「お父さん、わたしも愛ねえと同じで、二人飼いたい。ちゃんと世話はするし、遊ぶ。誓うよ」我が子がせがむので、「わかったわかった。ちゃんと世話するなら、いいよ」といった。そして二匹の子猫のトライアルが決まった。
コメント
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まだトライアルだけど決まって良かった!