美晴はそのまま雑踏に紛れながら一時間半ほど待った。やがてホテルから再び女子高生が一人で現れ、さっと走って人ごみに紛れて消えていった。少しのインターバルを置いてから久次郎がのそっと出てきた。別々に出てきたが動画として撮影には成功した。撮影した時間などは動画データに入っているだろうから、貴重な情報になることには変わりない。
撮影を終えてすぐにアプリにデータを送った。これ以上の追跡は身バレを起こしてもいけないので帰路についた。文句を送り付けていた幹雄は実家へ夕飯を食べに帰ったらしく、自宅にはいなかったから好都合だ。
自分の分の証拠もクラウドにアップし、アプリをチェックすると先ほどの動画のお礼として200Pのバックを受けていた。今までの分を合わせると合計370Pにまで達していた。500Pまであと130P。もう少しだ。
今後も久次郎について調べるのだから、彼のことをアプリに聞いてもいいだろうと思い、美晴は尋ねてみた。
――この証拠をどうするのですか?
『詳細は別の方のプライベートにかかわる問題になるので発言を控えさせていただきます。ただ、美晴さんと同じようにお困りの方がいらっしゃるので、わたしはそのお手伝いをしています。たくさんの方と情報共有をして、わたしというアプリのデータベースを使ってサレ妻・虐げられ妻の皆様をサポートしています』
――さっき撮影して証拠を撮りましたが、相手の子は女子高生でした。犯罪ですよね。
『おっしゃる通りです。ただ、クズ男たちは社会の壁に守られています。会社・家庭という壁は厚く、容易に彼らの秘密へたどり着くことはできません。そのため証拠が必要です。彼らを断罪するには、彼らの犯罪を立証したり、社会的地位を揺るがすには確実な証拠が必要です』
(なるほど……。だからなんでも証拠なのね)
――ありがとう。引き続き頑張ります。
『またの証拠をお待ちしております』
美晴はアプリを閉じてスマートフォンを充電器に繋いだ。
それにしてもこのアプリは、いったいなにが目的で誰がどうやって作ったものだろうか。機械やアプリについてはまったく知識のない美晴は首をひねった。なにかメリットがあるのならともかく、美晴はこのアプリからただ恩恵を受けているだけ。
復讐アプリを始めてから実際に幹雄がクズであり、義母からいかに自分が不当に扱われてきたかがよくわかった。このアプリに出会わなければ、精神(こころ)を彼らに潰されていただろう。
問題をすり替え、子供を殺した理由を自分のせいにさせられ、絶望させられて、耐え切れずに死んでいたかもしれない。
美晴には生命保険が掛けられている。いつ死んでも誰も困らないどころか、むしろあのクズ一家は大喜びだ。もしかすれば天涯孤独な自分を選んで結婚したのは、辛辣にいじめてなぶり殺しにするためだったのかもしれない。
その考えに辿り着いた時美晴は納得した。最初から幹雄に愛はなく、松本家に自分の席は用意されていなかった。
唇を嚙みしめていると、美晴のスマートフォンが鳴った。義母だ!
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