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コメント
2件
大丈夫かな。
私も不安になって来た😔
一方で、同じ光景を、まったく異なる思いで見守っている者がいた。
(リリー)
ランディリックは、あくまでもリリアンナの付添人として定められた距離を取って、踊る二人の様子を静かに見守っている。
だが、胸の奥に、渦巻くざらつきがどうしても消化しきれない。
ぐっと手指を握りしめることで何とか体面を保っているけれど、本当は今すぐにでも二人の間に割って入って、リリアンナを連れ帰りたい。
それを踏みとどまらせているのは、一見セレンに身をゆだねているように見えるリリアンナが、本当の意味では彼に心を開ききっていないと、分かっているからだ。
詳しいことを話したわけではない。
それでも、聡いリリアンナのことだ。
勝手にダフネとセレンの関係を勘違いしてくれているのだろう。
その想いが、セレンに向けられるリリアンナのどこか距離感のある態度に出ている。
それが、ランディリックに何とか冷静さを保たせていた。
(……リリー、本当はセレンと踊りたくないんだろう?)
救いを求めるように時折一瞬だけ自分へ投げかけらえるリリアンナからの視線に、気付かないランディリックではない。
その認識が、ランディリックの胸に、ほんのわずかな安堵をもたらす。
リリアンナは、自分を頼ってくれている――。
彼女の心が、簡単に他へ移るものではないと分かるから、ランディリックは平常心でいられた。
***
セレンは自分よりかなり小柄なリリアンナの歩幅に合わせるように、ゆっくりとリリアンナを導いた。
その動きは、貴族として、というより皇太子として身に染みついたものだった。
(――やっぱり……セレン様は誠実な方に思える……)
そう感じながらも、リリアンナの胸の奥は晴れない。
柔らかな笑みを向けられるたび、ダフネの姿が脳裏をよぎり、視線を合わせることを躊躇ってしまう。
(こんな誠実な方が何故、恋人を裏切るような真似を平気でなさってるの?)
それはリリアンナの勝手な思い込みかもしれない。
でも――。
今まで得た情報を精査するならば、セレンはダフネと関係を持っていることになる。
なのに、今こうして自分と触れ合っているセレンからは不誠実なことをする人という感じが全くしなかった。
そのギャップがリリアンナを戸惑わせる。
「リリアンナ嬢、もしかして……緊張なさっておられますか?」
セレンの問いかけに、リリアンナは一瞬だけ言葉に詰まった。
「……少しだけ」
正直な答えだった。
初めての舞踏会、初めての正式なダンス。
それだけでなく、頭の中の思考もぐちゃぐちゃなうえ、この場に満ちる無数の思惑が、彼女の心を落ち着かなくさせていた。
家庭教師のクラリーチェや、ランディリックに教え込まれた通りのステップを踏みながら、リリアンナは絶えずひな壇の上から注がれる視線の存在を感じ取っていた。
一方は何やら思惑を感じさせる雰囲気があり、また他方はリリアンナに対する嫌悪感のようなものをにじませているように感じる。
だけどそれらが何を意味するのかまでは、リリアンナには分からなかった。
ただ、彼女自身の意思とは無関係なところで、何かが動いているように感じられて……ひどく怖いと思った。