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(うそうそうそうそ!どういうこと!?)
落ちるなんて聞いていない。というか、手すりが壊れるってどういうことだと思った。助けをと、リースにむかって叫んでみたが、まるで何かに隔てられたように、声が届かなかった。もしかしたら何かの魔法かも知れない。そう思ったが、それらを破壊することはできず、私は、重力に従っておちていくしかなかった。二階……とはいえ、頭から落ちたら相当だろう。せっかくのドレスなのにそれすら無駄にしてしまったような気がして、心が痛かった。まず、自分の心配をするべきなのだろうが、ここまで着飾ってくれたアウローラに顔向けできない。
とか、色々おもいながら、魔法を発動させようとする。でも、上手くイメージが固まらなくて、そのまま下へ――
「おち……っ、ん?」
衝撃に備え、目を閉じたが、いつまで経っても痛みはやってこずに、それどころか、温かい何かに包まれたようなそんな感覚がして目を開いた。すると、そこには、亜麻色の髪を持った彼の姿があったのだ。
「ぐ、グランツ?」
「何故貴方がここにいて、上から落ちてきたのか、俺には分かりませんが……間一髪でしたね。ぺしゃんこになるところでしたよ」
「ぺ、ぺしゃんこ……ああ、えっと、ありがとう。グランツ」
「……」
「ええっと、これには深―い事情があってね。取り敢えず下ろして貰っていい?」
「助けてもらっておいてそれですか。モアンさん達は?何故貴方がここに?」
「だ、だから、下ろしてくれたら話すから」
助けてくれた、というのは事実なのだが、どうしても、彼の目が私を助けた、というより、たまたま落ちてきたから拾ったというふうにしか見えなくて、所々チクチクとした痛みが走る。彼の好感度は、8%だが、本当に8%なのか、疑わしいくらい、私を奇異の目で見ている。いや、8%だからこそ、なのかも知れないが。
そんなことはどうでもよくて、グランツは、ため息をつきつつも、渋々私を下ろしてくれて、それからいつものように、冷たく感情のない瞳で見つめてきた。この瞳を見ていると、彼と出会った当時のことを思い出すな……と感傷に浸ってしまう。彼は、覚えていないわけで、私が下ろしたら話すといったのに、話し始めないことに、少し苛立ちを覚えているようだった。彼の機嫌を損ねたら面倒くさいだろうな、と私は、話をサッとまとめて話すことにするが、思えば、このはなしをするのは、かなりリスキーなのでは? と思ってしまった。
(だって、私は、モアンさん達の所で生活していて、グランツの妹?姉?みたいな関係になったのに、貴族が参加しているパーティーにいるって、普通はおかしいよね!?)
彼が、冷ややかな目を向ける理由はそれで大体分かったので、申し訳なさと、鉢合わせたら面倒な人間だったことを思い出し、私は一気に冷や汗が出た。
夜風が冷たく、かいた汗は全てそれらに持っていかれるようで、冷えた身体で、無言が続くのは辛かった。否、その無言を貫いているのは私の方なのだが。
「ステラ」
「な、何ですか」
「何故、敬語なんですか。それと、話すといっていて、逃げる方法でも考えているんですか?」
「に、逃げる?な、なんで?」
「そんな顔しています。ここから、今すぐに逃げたいというような顔を」
どんな顔だ、といいたかったが、目を見開いて見るだけで、私はそれ以上何も言えなかった。確かに、逃げる方法を考えていないわけではなかったし、逃げたいという気持ちがない訳ではなかった。いや、逃げたい。
しかし、グランツに魔法は聞かないので、記憶を一時的に飛ばす魔法とかかけたとしても一瞬でバレるだろうし、それこそ怪しまれてしまう。ここは、正直に話した方がいいのか……
(いや、正直に話すって何を!?)
あのあと、アルベドに見初められて、公爵家に行った後、フィーバス辺境伯にいって、養子になりましたって? 話が飛躍しすぎて、何ていわれるか分からない。というか、それを理解して貰える気がしない。そもそも、グランツが貴族を嫌っているというのに、貴族になってしまったということは、彼の敵になったも同然だと。敵、までは言い過ぎだけど、やはり権力や、力、お金に目が眩んだのかといわれても仕方ないかも知れない。というか、そんなことをいわれそうでならなかった。それも、グランツの嫌いな、アルベドと婚約者になったなんて知ったら、発狂するかも知れない。
ギリギリの好感度である8%を維持できるかも怪しくなり、このままでは、マイナスにまでなってしまうのではないか。そんな恐怖さえ合った。さて、そんなんだから、どう説明すれば良いか分からず、また私は、黙り込むことしか出来なくなった。
「ステラ、教えてくれないんですか」
「な、何か、弟属性出してきてる!?」
少しだけ、見間違いかも知れないけれど、目が潤んでいるような気がした。そんな技を使えるのか! とまた声に出しそうになったがグッと抑えた。何度これを繰り返せばいいのか分からなくなるくらいには、感情がジェットコースターしている気がする。しかし、グランツは、それが効かないと分かったのか、スンと、感情を落とした顔で、また私を睨むように見つめてきた。早く言えと催促されている気がしてならず、逃げることも敵わない今、私に何ができるのだろうか。ドレスとヒール、動きづらいことこの上なくやっぱり、逃げるという選択肢はできない。
そういえば、ここが、庭園の近くであることを思い出し、もしかしたら、アルベドとも鉢合わせる可能性があるのでは? とそっちも恐ろしくなってきた。
「まあ、いいです。その装い……貴族の養子にでもなったんですよね」
「わ、分かるの?」
「でなければ、ここに出入りすることも敵わないでしょう。貴方が、魔法を使えることは俺も知っていますし、それを見込まれたのではと」
「推理が鋭い……そ、その通りなんだけど」
「もしかして、フィーバス辺境伯の養子というのが、ステラなんですか?」
「……あーえっと、そう」
「何故?」
と、グランツはそこまで聞いて、区切るように私を見た。その何故? というのは何に対しての何故なのか。何故、フィーバス卿のところに行ったのか、貴族になろうと思ったのか、ここにいるのか。全てが含まれているような気がして、私は、どう答えるべきか分からなかった。せめて、それかに限定してくれれば……と思ったが、グランツもグランツで、気になっているようで、言葉がまとまらないらしい。
順を追って説明するとかなり長くなるのは本当にそうで、この話をグランツがどこまで付合ってくれるかにもよる。グランツの事だから、簡潔に、それでも分かりやすく詳しく、と要求してくるに違いない。グランツは、適応能力こそ高いものの、言葉が足らないと、分からないといってくるような人間だから。
「ええっと、話し長くなるけど聞いてくれるの?」
「はい、知りたいですし。それに、あの二人をおいて、貴族になった貴方の事が……俺はとても気になりますから」
「……怒ってる?」
「いえ……ですが、貴族の養子になれるような……それも、フィーバス辺境伯の養子になれるような人間だったのか、という話です。本当に、分からない」
「わ、分からないのは、こっちもだけど」
「何故……?」
グランツは、私の分からない、という言葉に反応した。私が分からないのは、気になる……いや、きっと敵か味方か見極めるためなんだろう。だから、ここまで詳しく聞く必要がある。彼女の外敵になるかどうか。でも、他の理由があるとするなら――
「グランツは、私のことそんなに知りたいの?」