コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
二羽の猛抗議に対して、素直にフレミーが感謝の言葉を述べる。
〈ワカッテルヨ。アナタタチガイタカラ、ワタシモノアサマトイッショニイラレル。アリガトウ。レイブラン、ヤタール〉
レイブランもヤタールも、本気でフレミーを非難しているわけではないようだし、このまま良好な関係が続くけばいいな。
それじゃあ、家に戻るとしようか。
「これから、私の家に向かうよ。フレミー、抱えさせてもらって良いかな?」
フレミーに訊ねる。
彼女を抱えたらレイブランとヤタールを抱えられなくなってしまうが、まぁ、尻尾につかまってもらえばいいかな?
〈待って頂戴!まだお腹が重いのわ!〉〈飛べはするのよ!でもまだゆっくりにしか飛べないのよ!〉
2羽が抗議の声を挙げる。
そう、飛べるんだね?ならば自力で飛んでもらおう。沢山食べたんだから、その分動こうか。
「飛べるのなら、ちゃんと自力で飛びなさい。このままだと君達、丸々太って本当に飛べなくなってしまうよ?」
二羽を窘める。まだフレミーから答えを聞いていないけれど、彼女は私の身体を上って背中に張り付いた。
〈ワタシハコレデイイヨ。イキマショウ〉
二羽の事を気遣って、私の両腕を開けるように背中に移動したと思ったら、別にそんなことは無かった。
二羽の事は意に介さず、私に出発を促す。
〈アナタタチ、マエニアッタトキヨリモ、ダラシナイカラダヲシテルヨ?〉
フレミーの言葉に、レイブランもヤタールも衝撃を受けて同時にのけぞる。
いつものことながら、この娘達は喋る言葉はばらけるけれど、仕草に関しては鏡に写したように同じ動作をするな。見ていてちょっと面白い。
〈私達…太ったの…!?〉〈だらしが…無いの…!?〉
私が彼女達を腕に抱えた時の感触は、最初からほとんど変わっていない。
フレミーの巣に掛かっていた虫を食べたと言っていたし、食い意地が張っているのは以前からだったのだろう。
「先に帰っているからね?ゆっくりでいいから、自分の翼で家まで帰ってきなさい。それから、今後は多少自重することを覚えなさい」
ショックで固まっている2羽を置いて、家に帰る。
あの娘達の実力ならば、滅多なことは起こらないだろう。今後は自重することを促し、家の場所まで跳躍する。
広場に到着し、フレミーを家に案内する。と言っても、寝床しか紹介するものが無いのだが。
「ここが私の家だよ。今のところ寝床以外の必要性が無いから、他は何もないけどね。家の中でも外でも、好きな場所に巣を張ってくれて構わないよ」
窓を開けながらフレミーに好きに使って良い事を伝えたところで、私の視界にレイブランとヤタールの姿が入ってきた。
ゆっくりとしか飛べないとは言っていたが、なかなかに速いじゃないか。
〈素敵ナ場所ダネ。有リ難ク使ワセテモラウネ?〉
そう言って私の背から離れていく。
フレミー、この短時間でさらに流暢な言葉遣いになったな。私達と同じように話すことが出来るようになるのに、そう時間は掛からなそうだ。
〈帰ってきたわ!ちょっと疲れたわ!〉〈急いできたのよ!太るのは嫌なのよ!〉
開けた窓から、帰ってきたレイブランとヤタールが入ってくる。そのまま二羽は、私の寝床に降りて羽根を休める。
さて、彼女達も返ってきたことだし、聞きたいことを聞いてみるか。
「お帰り。君達にちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
かなり飛ばして来たのだろう。少し呼吸が荒く、鼓動も激しくなっている。
水でも飲ませてあげたいけれど、ここまでは引いて来てないからな。話を聞き終わったら、ここまで水を引っ張ってこよう。
〈聞きたい事って何かしら!?私たちが知ってることかしら!?〉〈何を聞きたいの!?何でも聞いて欲しいのよ!〉
呼吸は乱れているのに思念に乗せられた言葉に乱れは無い。思考と呼吸で意識が完全に分かれているのだろう。その辺り、この娘達の思念伝達はとても上手い。
これが出来るのはおそらく、森の中では私を除いてこの娘達ぐらいじゃないだろうか?もしかしたら”老猪”はできるかもしれないが。
「昨日君達が話していた、ウサギについて詳しく教えて欲しいんだ」
足が固いものに覆われているウサギ。彼女達が話題に出すのなら、私が想像している以上の実力者である可能性が高い。
〈ウサギなのにすっごく強い子よ!他のウサギはすっごく弱いわ!その辺の熊なら蹴り倒しちゃうわ!〉〈足を覆ってるモノが凄く硬いのよ!力を込められたら、私達じゃ切れないのよ!〉
熊を蹴り倒すって、それは凄いな。それに、エネルギーを込めれば、この娘達の空気の刃を防ぐことができるのか。
しかし、熊というのは”角熊”くんのことだろうか?一応確認をしておこう。
「その辺の熊というのは、昨日言っていた、角の生えた大きな熊のこと?」
〈違うわ!アイツは別格よ!多分アイツ、ノア様以外で勝てる奴がいないわ!私達でも勝てないわ!〉〈あのウサギ、よくソイツに戦いを挑んでるけど勝てないのよ!でもアイツ、ウサギを殺さないのよ!〉
2羽が口早に答えてくれる。
そうか。この森では”角熊”くんが一番強いのか。
それにしても、挑んできたウサギを殺さないうえに”角熊”くんに負けてもウサギが戦いを挑み続けている辺り、彼らは意思疎通ができているんじゃないだろうか?
レイブランが戦いが好きだと言っていたし、自分に挑み続けてくるウサギに親しみを感じているのかもしれない。
是非とも、もう一度”角熊”くんに会ってみたいものだな。
「君達の言うウサギに会ってみたいのだけれど、どの辺りにいるか分かる?」
〈今度はあの子を誘いに行くのね!?良いと思うわ!場所ならわかるわ!〉〈行くのよ!今度はあの子を誘うのよ!ウサギのいる所まで案内するのよ!〉
2羽ともかなり乗り気だな。早速案内しようと羽ばたこうとしている。
「ちょっと待ってくれるかな?その前に、やっておきたいことがあるんだ」
〈やっておきたいことって何かしら!?手伝えることかしら!?〉〈”死者の実”を食べておくの!?ウサギがいる所にも実っているのよ!〉
レイブラン、手伝おうとしてくれるのはありがたいけれど、今回は君には難しいよ。
それとヤタール。君は一度、果実から思考を切り離した方が良いと私は思うな。
それはそれとして、ウサギの近くにも果実はあるらしい。良いことを聞いた。
「君達、息が上がっていただろう?喉が渇いてると思ったからね。ここまで水を引いてこようかと思ったんだ」
エネルギーの扱いを覚えた今の私ならば、広範囲の地面をくり抜くことなど造作も無い。そう時間を掛けずに作業を終わらせられるだろう。
〈水!?欲しいわ!沢山飲みたいわ!〉〈喉が渇いているのよ!水浴びもしたいのよ!〉
思っていた以上に水が欲しかったようだ。それに、この娘達も水浴びをするんだな。
そういえば、私も水浴びをしたのは結構前だな?ちょうどいい機会だから、水を引いてきたら皆で水浴びをするのも良いのかもしれない。
そうと決まれば、早速水を引いてくるとしよう。フレミーのいた場所までの距離を考えれば、元寝床の溜池までの距離など、まるで問題にならない。
光の剣で家の近くの地面をくり抜き、溜池と同じ規模の穴を作る。こちら側からため池のすぐ近くまで水路と排水路を掘っていく。
〈水だわ!沢山あるわ!美味しいわ!〉〈いつの間にこんな場所が出来てたの!?冷たくて気持ちいいのよ!〉
私の動向が気になってついて来ていたレイブランとヤタールが、溜池の水を飲み、水浴びをしている。
この娘達は思い切りが良いというか、落ち着きがないというか、色々なものにがっつくな。可愛いから別にいいけど。
溜池やこちら側の排水路とはまだ繋げずに、崖から大岩をくり抜いて一度広場まで戻る。
そこでくり抜いた地面に敷き詰めるための石材として大岩を切り裂いていく。後は、前回水路を引っ張ってきたように、石材を並べて接合部を溶接していけば良い。
エネルギーを利用することで石の溶接に態々高速で尻尾を動かして破裂音を発生させる必要もなくなったため、実に作業がスムーズだ。
結局、完成までに日が沈むまで時間が掛かってしまったが、最初に掛かった時間を考えれば、随分短縮できただろう。
〈ノア様は一人でこんなことまで出来てしまうんだね。私も使わせてもらっても良いのかな?〉
水路と家側の溜池が完成したたところで、フレミーが皆と変わらないぐらい流暢な言葉使いで訪ねてきた。
随分と早かったな。それはそれとして、水路や溜池を確認はしていなかったが、気にはなっていたようだ。
「勿論、好きに使ってくれて構わないとも。皆で使うために用意したものだからね」
〈ありがとう。…美味しい水だね。それに冷たくて気持ちいい…〉
早速水を飲み始めたフレミーが素直な感想を述べてくれる。喜んでくれたようでなにより。甲斐があるというものだ。
さて、日も沈んでいることだし、今日は眠ろう。
明日は、いよいよレイブラン達に案内してもらってウサギに会いに行くとしよう。