テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1日がなぜ、24時間なんだろう、なんて考える。
朝。5時半。バンクーバーは、昼の12時半。ケータリングはとても豪華だと言っていたから、あいつも少しはふくよかになって帰ってくるだろうか。
渡辺はついつい愛しい人を思い浮かべてしまい、胸に忍び寄った寂しさを、かぶりを振って遠ざけた。
渡辺は渡辺で、多忙な毎日を送っている。時間が空くと何かと目黒のことを考えてしまう彼は、スケジュールをなるたけ埋め尽くした。仕事のない日は、わざと友人に会い、なんてことのない時間を過ごす。彼はとにかく独りでいたくなかった。
考えてしまうから。
恋しい目黒の事を。
どうしても求めてしまうから。
目黒の温かさや、匂いを。
「しょっぴー」
「ん?」
「どないしたん?ぼーっとして」
「………なんでもない」
向井がコーヒーをふたり分、持ってきた。
ひとつを渡辺に渡して、隣りに座る。
「めめおらんの、寂しいわぁ」
「………」
「そう思わへん?」
「……べつに。仕事だし」
誤魔化すように胸を張って口に運んだコーヒーは、いつもよりも苦く感じた。
カナダに行く目黒に、拗らせた片想いを告おうと思っていたのに、結局言い出せないままだった。空港に行ったら、より未練が募る気がして、行けなかった。
SNSで、同じメンバーの佐久間と阿部が、目黒を見送った、その事実を知った。
胸がもやもやする。
寂しいと言葉にできる友人が羨ましい。
素直に涙を見せて、困った目黒に慰められる、向井がまっすぐで羨ましい。
何度も目黒を抱きしめて、とっておきの時計をプレゼントした佐久間が眩しい。
あの日。
電話で。
「しょっぴーはさ、いろいろと我慢しすぎなんだよ」
「は?俺が?してねぇよ」
「言いたい事、ちゃんと口に出したらいいのに。もっと我儘になってもいいんだよ?」
「………お前に何が分かんだよ」
口をついて出た言葉は、素直な気持ちとは程遠い憎まれ口ばかりで、それでも声が震えるのを隠せなかった。
「泣いてんの?」
「なっ!………泣いてねぇし…」
「そっか」
「……………」
「俺だって我慢してないわけじゃないよ」
「?」
「ごめん。変な事言ったね。そろそろ切る。明日も早いんだ」
「……悪い。時間取らせたな」
目黒のそっけなさに声が沈むのを隠せない。
気を遣ったのか、目黒はとりなすように柔らかく応じた。
「しょっぴーなら大歓迎だよ。じゃあ」
「ばいばい」
通話が切れた無音の世界で、もう聞かることはないと安心すると、もっと泣けた。言えなかった想いは、吐き出されることなくこうして胸の奥に溜まっていった。
◇
……いつになったら言ってくれるのだろう。
胸に溜まった想いを抱えて、目黒はひとり大きなため息を吐いた。
引っ込み思案なあの人は、欲しいものを欲しいと言えない。受け入れてもらえない怖さが半分と、もう半分は、俺のことを気遣って。
彼はいつも欲しいものを他人に譲りがちで、距離を取って俺を見ている。
向井や佐久間の率直な言葉や素直な態度を嬉しく、好ましく感じながらも、目黒の方はまったく満たされないでいた。
バンクーバーは昼の12時半。日本は朝の5時半。
キャストもスタッフもランチを取って、午後の撮影に備えている。休憩時間も、終了時間もきっちりと守られているこの国に来てから、手すきな時間が増えた。語学の勉強をしたり、近くを観光したり、ジムに行ったりと、今まで取り組めなかった事にゆったりと取り組んでは、目黒は日々充実した毎日を送っている。
しかし時間が出来ればつい考えてしまうのは、愛しい人の事。
あの意地っ張りの泣き虫は、いつになったら本当の気持ちを言ってくれるんだろう。
口から出てくるのは、可愛らしくない言葉ばかりで、それも泣きそうな顔で言うから、何度もこちらから抱きしめてしまいそうになるのを堪えた。思い出すと苦い想いが蘇る。
目黒が渡辺に想いを打ち明けられないのは、この仕事があったからだ。
「そうじゃなきゃとっくに告ってる」
目黒はため息を吐いた。
目黒は自分が本当は強くない人間であるのを知っている。
カナダへ行く前に【恋人】だなんてあまりにも魅力的な関係性が、彼との間にもしできてしまったら、俺は離れるのが辛くなる。そしてあの人は、もっと我慢をするだろう。もっともっと我儘を言わなくなるだろう。あの人はそういう人だ。
そこがまたいじらしくて、とても好きなんだけれど、傍にいられない目黒が、無責任に気持ちを伝えてしまったら、きっと自分で止まらなくなるのはわかりきっていた。 目黒は己の独占欲や身勝手さを誰よりも知っている。きっと手離せなくなる。
「目黒くん、そろそろ時間だよ」
「はい」
渡辺のことを考えていたら、あっという間に休憩時間が終わっていた。皿の上に残ったオムレツを一気に頬張り、目黒は席を立つ。
◆
もどかしい想いがふたりを繋ぐ。
臆病で、自信が無くて言い出せない渡辺と、傲慢で、自制できない目黒の想いは同じだった。
同じ熱量で相手を求め、同じ切なさで相手を遠ざける。
メッセージは敢えて送らない。
我慢比べのようだ。
グループチャットが動く時だけ、お互いの息吹きを感じることができ、彼らは胸を躍らせることができる。
逢えない時間と距離に比例するように、想いは、より強く、より深くなっていく。
コメント
10件
こっちの🖤💙は切ないなぁ〜😂 所で、🖤はいつ頃…帰国するの?🤔

結ばれずに終わるのもまたよき🥹🥹 FC動画よかったなぁー☺️🖤💙 続きが気になるお話だった💭👀✨