忖度のない意見を言われ、俺は「だよな」と頷く。
《でも、他に手はなくない? 逆にネット越しに言ったとしても、警戒されるんじゃない? っていうか、連絡先を教えないって決めたのに、朱里ちゃんに会いに行くわけ?》
「それは……」
俺は溜め息をつく。
《そこまで気に掛けるもん? 尊はちょっと優しすぎると思うけど》
「別に優しくねーよ」
嫌な顔をして言い返すと、電話なのに涼がにっこり笑ったのが見えた気がした。
《まぁ、俺は尊が誰かを守りたいと思えた事を喜ばしく思ってるけどね。……親友として忠告するなら、手を出すならあと五年は待てよ?》
「馬鹿言え」
子供に手を出すつもりはないと凄むと、涼は電話の向こうで軽やかに笑った。
《で、どうするわけ?》
涼に言われ、俺はまた溜め息をつく。
「……なんか方法はないかな。……あいつ、危なっかしいんだよ。しっかりしているようで、まだ中学生の子供だ。友達も少ないって言ってたし、父親を亡くしたなら心に殻を作ってると思う。母子家庭になったなら、親御さんも忙しくしているだろうし」
そう思うと、周囲に気に掛けてくれる大人がいない朱里が不憫になった。
《思い切って会ってみたら? 喜ぶと思うけど》
「無責任な事を言うなよ。依存させたくないから距離を置いたんだ」
《じゃあ……、朱里ちゃんの友達を利用するとかは?》
友達と言われ、俺は顔を上げる。
《本当にやばい奴の手段だけど、校門をチェックしてたら、一緒に帰る友達ぐらい分かるんじゃないの? まぁ、部活とかもあるだろうから、一日で分かるかは保証しかねるけど》
その手段を聞き、俺は深い溜め息をつく。
「本物の変質者じゃねーか」
《じゃあ、俺も付き合ってやろうか? 二人で行って、妹を待ってるっていう体なら、なんとかならない?》
「付き添いはいいよ。お前にまで迷惑をかける訳にいかない。……でも、妹を待ってる体っていうのはいいかもな」
《なら、イマジナリー妹を作って行っておいでよ》
「イマジナリーってな……」
俺は苦笑いして言う。
〝妹〟の話をしている時、なぜだか落ち着かない気持ちになり、頭痛が襲ってくるが、いつもの事なので無視した。
「……サンキュ。話してみて勇気が出た。……イマジナリー妹の方向性でいってみるわ」
《なんかあったらすぐ言えよ? 警察の知り合いいるから》
「おい、不穏な事を言うな」
突っ込みを入れると、涼はクスクス笑った。
**
一月半ばの金曜日、俺は朱里が通っている学校近くの駐車場に車を止めた。
周囲は住宅街で、学校の近くには地下鉄丸ノ内線の駅がある。
下校時刻になると、俺は通行人を装って校門近くに向かった。
(やべぇ……。今すぐ立ち去りたい)
当たり前だが校門から出てくるのは中高校生ばかりで、あまりの場違い感に消え去りたくなる。
調べた結果、朱里は高円寺付近に住んでいて、自転車通学なのではと見当をつけている。
なぜかというと、SNSに頻繁に上がっていたファストフードの店舗を調べると、高円寺駅付近のものばかりだったからだ。
加えて学校から高円寺駅まで、チャリで十五分程で、遠距離の通学でなければ、交通機関を使わず自転車通学になるだろう。
いっぽうで、SNSで友人と一緒に出かけたとおぼしき写真は、高円寺以外の場所が多かった。
高円寺付近の店には一人で訪れているらしく、友人は朱里と違う通学路を使っていると予測した。
そこまで見当をつけた俺は、涼からアドバイスされた通り朱里の友人に話を聞いてみる事にした。
朱里には申し訳ないが、友人に怪しまれるのを見越して、話す時には自殺未遂の事も含めて〝相談〟という体で打ち明けるつもりだ。
俺はスマホを弄っているふりをして校門から少し離れた電柱の陰に立ち、学生たちをチラチラ見る。……我ながら本当にやべぇ。
(あ)
やがて、見覚えのある茶色いダッフルコートに、チェックのマフラーを身につけ、風にロングヘアをなびかせた少女が校門から出てきた。
平均より少し高めの身長の彼女は、間違いなく朱里だ。
コメント
2件
フフフ(*´v`) 楽しみ💕😊
出てきたね😍 どうする?1日でどうにかなりそう?