マリ side
『……奏斗くん…食べてくれるかな。』
ポツリ、部屋で言葉を溢す。
今の時刻は7:30 もうすぐで家を出る時間だ。自分で作った弁当二つを鞄の中に入れる。
いつもは一つしか作らないけど、今日は奏斗くんにお弁当をあげるために作ってみたのだ。昨日から材料とかメニューとか考えてみたけど、奏斗くん食べてくれるかな
少しの期待と不安をお弁当箱に閉じ込めて、「いってきます!」とお母さんに言って家を出た。
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当たりの日差しが眩しくて、思わず目を細めた。奏斗くんの家とかは分かんないけど、もしかしたら会えないかな。なんて、
会える訳ないのに
サー…サー…と葉が揺れる音を聞きながら通学路を歩く。___奏斗くんは何時くらいに家出てるのかな。今日、聞いてみようかな
『……食べてくれるよね、奏斗くん…』
横断歩道の前で立ち止まる。少しの不安が混ざった声色で 独り言を呟いて前を見た。
『え、』
横断歩道の向こう側に、
紫色の綺麗な髪の人物が見えた。
数秒、時が止まる。_なんで彼がこんな時間に?いつもはもっと遅いはず。
『…っ、やば!』
そんな事を考えていたら、横断歩道がポツポツと点滅していてもうすぐ赤に変わりそうだった。急いで走って横断歩道を渡る。
彼は私の声にも気づいていないのか、上の空みたいだ。いつもの彼は鬱陶しいくらい明るくて、輝いているのに。
別に声をかけるつもりなんてなかったはずなのに、私の口は無意識に彼の名前を呼んでいた。
『……渡会、さん…?』
「え、_」
私を見て、彼は目を丸くした。
____________
「ぁ…、…おはよう!マリさん!」
渡会さんは少し声をこぼした後、何もなかったように笑みを浮かべて私に挨拶をしてきた。その笑顔がどこまでも眩しくて目を背けた。ああ、やだな。_この笑顔できっといろんな人を恋に落としてきたんだろう
勿論、奏斗くんも
『…おはよう。今日早いんだね』
「ぇ…あ、…そう?」
そう声をかけると渡会さんはピクリと眉毛を動かして、一瞬なんとも言えない顔になった。_違和感
モヤっとした何かが私の心にへばりついた。_何かが違う。
『…。』
少しよく見れば異変を見破る事は簡単だった。
うっすら隈ができている瞳
少し赤くなった瞼
そして不自然な笑顔
きっと、”なにかがあった”
でもそれを私が知る権利はないし、 他人の物事に首を突っ込む気はそうそうない
わざと気づかないフリをして渡会さんの横を歩く
『…じゃあ、私先に行くね。…また』
これ以上、彼と喋る必要はないだろう。
頭がそう判断して先に行こうとした瞬間
「……っ、待ってッ…!」
渡会さんから呼び止められた。
_一言で言えば予想外だった
保健室であんな事を言ったし、てっきり渡会さんには嫌われていると思っていたのに。
しかも人にあまり興味がなさそうな渡会さんが私を呼び止めるなんて、
仲良くもないのになんで?
『…どうしたの?なにかあった?』
少し動揺が隠さずに声が震えそうになった
わざと澄ました顔をして渡会さんを見た
その彼の顔は、いつもの元気な顔ではなく
焦りや混乱に満ちた顔。_初めて、こんな取り乱した顔を見た
そしてザワザワと私の心が脈打つ。嫌な、予感がする
「…えと、急にこんな事聞くの変かも…なんやけど、…」
「マリさんはさ、…奏斗のこと_________」
?「…マリさん?雲雀、?」
渡会さんの声と被るように、もう1人誰かの声がした。
後ろを振り返る
そこには、髪を風に靡かせ困惑した顔で私達を見ている人物と目があった。
『奏斗く_』
「…かな、と…」
私の声は渡会さんに遮られた
奏斗くんも、私の方を見ずに横にいる彼を真っ直ぐ見つめていた。が、先に奏斗くんが渡会さんから視線を外し下手くそな笑みを貼り付けて笑いかけた。
「……ごめん。僕先に行くね。ごゆっくり」
そう言って横を静かに通り過ぎていった。
すれ違いざまに見えた、痛々しく腫れ上がった頬と包帯の巻かれた手
そして渡会さんを見つめていたあの不安げな瞳。
分かりたくなくても分かってしまった
「…かな、と……」
弱々しく言葉を吐き出して、泣きそうにキュッと唇を噛んだ彼を横目で見る
なんで渡会さんが泣きそうな顔してんのさ
私は、奏斗くんの視界にだって映れないのに。
コメント
19件
更新ありがとうございます!!楽しみにしてたので嬉しいです!!うわぁ〜マリさんにも複雑な心境があるんだよね…それを、主人公じゃ無いにしろ表現出来るのって凄すぎる!!どちら視点で見ても神作です…!!
更新ありがとうございます!待ってました!!マリさん視点なの新しくていいですね〜‼️今までマリさんは2人の輪を掻き乱してる感じでいいイメージがなかったけど、こうして見ると一途でいい女の子なんだなってかなり見方が変わって最高〜🫶💕今全員の気持ちがぐちゃぐちゃだけどこれからどうなるのかめっちゃ楽しみです👀