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「そ、そんな事を蒸し返すなんて!」
慌てるリリアの支離滅裂な思考は、結局全てをナーシャのせいにしなければならないようだ。
上手い言い訳も浮かばないのだと、ナーシャは思わず皮肉な笑みを口元に浮かべた。《《蒸し返したのは》》リリアだ。
「始めるぞ」
リリアとナーシャのやり取りを見ていて、スティーブは何を思ったのかナーシャには分からなかった。だが、いつまでもここに座っていたくなかったので、夕食が始まるのは大歓迎だった。
最近のナーシャは、部屋でばかり食事を取っていたので、順番に料理が出てくる仕様が久しぶりだった。本邸で3人になってからのナーシャの食事は、セリナが部屋に運んでくれる。だからテーブルに全てが並べられて食事が始まっていた。今日は急いで食べても、給餌が皿を引いて次を置く、その動作が遅ければいくら早く進めても同じだ。少しでも早くこの場から逃れたいナーシャにとって、給餌の動きがもどかしかった。
食事が中盤に差し掛かる頃、漸く父がナーシャに質問した。きっとその事を聞きたくて、ナーシャを呼んだのだろうと云うことは分かっていた。いつまでも尋ねない父に、ナーシャは何故父が躊躇しているのだろうかと不思議に思っていた。ナーシャは、呼ばれた意図は分かっていたから、ちゃんと返事も用意していたのに。
聞くなら早く聞いてほしい、そう思って待っていた。
「お前は、ルオン公爵と連絡を取っていたのか?」
「なんの事ですか?私の覚えている限りですが、ルオン公爵様とは初めてお目にかかったと思います。それに⋯」
「それに?」
「正確には、お父様の声掛けでお客様が公爵様と知っただけで、正式にご紹介しては頂けませんでしたので、今も会った事があるだけの関係です」
ナーシャはしらばっくれる事にしていた。
目的が達成されるまで、余計な邪魔は入ってほしくないのだ。オリジエル侯爵である父が、今後ナーシャをどう扱うつもりでいるのか、ナーシャには全く予想が出来ていない。そんな中で、除籍を望むナーシャをあっさり手放してくれればいいが、もし世間体などと云う今更な事を父が考えていたのだとしたら、ナーシャの邪魔になり得る。
だからこそ、卒業資格を取れるまでは、全て秘密にする方がいい。
そう思って、素知らぬ体で質問に答えたナーシャに、父は何かを考え始めているように見えた。
そんな会話をしながらも、ナーシャは口と手をしっかりと動かし、給餌の動きにやきもきしながらも食事を終えていた。
「ご馳走様でした。それではお先に失礼致します。学園の課題がありますので」
「えっ?」
自身の考えに耽っていた父は、ナーシャの言葉に驚いたようだったが、何も言わず開放してくれた。先程のナーシャの言葉を信じたようで、それは何よりだった。おそらく信じられると思ったのだろう。実際にルオン公爵に会ったのは、ナーシャは初めてだったのだから、嘘は言っていない。
“手紙を送った”という事実を隠しただけだ。
父が何も言うこともなかったし、おそらく先程の質問の意味すらもリリアには分かっていないのだろう。彼女もそれ以上ナーシャに突っかかる事もなかった。
部屋に戻るとセリナが待っていてくれた。
「ナーシャ様、お疲れ様でした」
セリナの労いの言葉と出されたお茶を飲んで、ナーシャは漸く息をつけた。
◇◇◇
次の日は、朝から馬車の中で散々リリアに絡まれながら学園に向かった。片道10分の馬車の中が苦痛で堪らなかったが、何とかやり過ごした。只管無視を決め込んだだけだが、それでも朝っぱらからリリアのローランとの惚気を聞かされるのは、気分のいいものではない。何も感じないようにと思っても、耳障りな事には変わりない。
たった10分に疲弊しながら、学園に到着した時は、“漸く”と思えた。
「ナーシャおはよう」
馬車を降りるとシンシアが待っていてくれた。
「シンシア!おはよう」
先に降りたリリアが、またもや小芝居を繰り広げようとしているのを察してくれていたのか、それが始まる前にシンシアはナーシャに声を掛けてくれた。だから立ち去る時に、ナーシャの背中に投げられるリリアの声を完璧に無視出来て、ナーシャはシンシアと学舎に向かった。
セリナも、シンシアの侍女と一緒に待機室の方へと向かったようで、それを横目で見てホッとする。
「さっき、ルオン公爵令息に伝言を頼まれたわ。昼休憩に面談室で書類を書き上げましょう」
「ルオン公爵令息が?」
「えぇ、公爵様に頼まれたみたい。良かったわねナーシャ。一歩前進でしょ」
「⋯⋯ありがとう、シンシア」
ナーシャの胸から熱いものが込み上げてくる。でもこんな所で泣いてはいけない。
グッと拳を握ってナーシャは涙を堪えた。
最愛であるはずの家族は、ナーシャに何もしてくれないけれど、手を差し伸べてくれる人は居る。
それは簡単なことではないはずで、とてもとても有り難い事なのだと感じるナーシャは、いつかその恩に報いようと、一先ず心の中で誓いを立てた。
コメント
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第9話、読み終えました……! リリアの小芝居にもううんざりだけど、ナーシャの「蒸し返したのはリリアだ」っていう皮肉な笑み、すごく心に刺さりました。家族に何も期待できないのに、シンシアやルオン家の手が差し伸べられて、ナーシャが涙を堪えて拳を握るシーン、本当に胸が熱くなった……。孤独の中でも確実に前に進んでるのが伝わってきて、応援したくなります。 次の展開がすごく気になる!