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「ステラ様は、変装魔法も使えるんですね」
「まあ、一応は。教えて貰ったからね」
「私にまでかける必要あったんですか?」
「ノチェは可愛いから、狙われちゃダメだから!」
「一応、貴方の護衛もかねているんですが……」
ノチェは、はあ……と小さくため息をついた。でも、私だけ変装魔法をかけるのもあれだなあと思ったからかけただけなので、ついでと思ってくれればいい。あまり、深く考えないで! というようにグッドサインを出せば、ノチェに冷たい目で見られた。
アルベドはいないから、取り敢えず、帝都に行ってくると使用人たちに伝えここまで来た。使用人たちは、大丈夫なのかというように私を見てきたが、魔法が使えることを話したら、どうにかなるか、見たいな目で見られたのでよしとする。あまり深く考えない方がいいだろうと、私もそのまま出てきた。アルベドも、私なら大丈夫だと思ってくれるだろうから。
帝都は、賑やかで、陽気な音楽や、人々の楽しそうな笑い声が聞えてくる。けれど、時々怒声が飛んだり、泣き叫ぶような声が響いたりする。災厄で皆情緒がおかしくなっているんだろうなと思いながらも、突っ込まないようにした。そんなのに首を突っ込んでいたら、切りがないと思ったから。本当は、ダメなことはダメと言いたいのだけれど、そんな勇気は私にはなくて。
「ステラ様何か気になることでも?」
「えっ、ううん。何でもない。賑やかだなあと思って」
「賑やかなところが、苦手なのですか?」
「う、うん……まあ。って、私が来たいって言ったのに、何かごめんね!」
「いえ。ステラ様の体調が一番ですから、お気になさらずに」
と、ノチェはスパッと言う。こいうストイックなところは、リュシオルと似ているというか、ばっさり系女子が私の周りに多いのかなあなどと思ったりした。
そんなことを思いながら、ここのきた目的を忘れまいと、辺りを見渡す。まあ、普通は、こんな所に、攻略キャラがいるわけも無いのだが。それに、もし板としてエトワール・ヴィアラッテアと一緒にいたら、それこそ危険なのである。
「誰か、探しているのですか?」
「い、いやあ。あはは……」
「アルベド様はいないと思います。アルベド様は、暗いところがお好きなので」
「何それ、陰キャ!?」
陰キャ、などこの世界にはない言葉なのだろう。ノチェは驚いて、肩を上下させていた。叫んだせいで、周りからも変な目で見られてしまう。注目されることが嫌いなのに、自ら注目されに言っているような気もした。ダメだ、ダメだと、私は自分を叩く。
「ごめん、取り乱しちゃった」
「ステラ様って、不思議な人ですよね。本当に……」
「それ、変って言う意味で言ってる?」
「いえ」
と、ノチェは言葉を句切って私の方をじっと見た。何かついているのかな? と思うと、スッと彼女は指を指した。その指の先を折っていれば、そこには、見慣れた艶やかな黒髪が視界の端にうつる。
「あっ……」
「ステラ様?」
指をさしたのにノチェの方なのに、何故か彼女の方が驚いたように声を上げた。けれど、そこにいた人を視界に入れてしまえば、自然と足がそちらに向かっていった。頭上の好感度と、一瞬だけ見えたアメジストの瞳。間違いないと、私は寄っていく。
「ステラ様、危ないですっ」
ぐいっと身体を後ろに引っ張られ、私は足を止める。目の前にからからと馬車が走っていき、危うく轢かれそうになっていたのだと。ノチェが止めてくれなかったら私は、巻き込まれていたかも知れない。それはそうと、と道路を挟んであちら側を見れば、ブライトと、彼の前をいく小さな黒がそこにいた。
ブライト・ブリリアント。侯爵家の侯爵代理(もう既に父親がヘウンデウン教に入ってしまったとか何とかだから、侯爵の座を受け継いだと言っても過言ではないだろう)で、ラスター帝国の魔法を支える魔道士。
そして、彼の前を歩くのは、彼の弟で、混沌……ファウダー・ブリリアント。彼らが二人で歩いているところを見て、ギュッと胸が締め付けられた。だって、その姿はもう見え無いものだと思っていたから。
(そうだよね、世界がまき戻ったんだから……)
でも、混沌みたいな大きな存在もまき戻る対象になるのだろうかと思った。そうだとしたら、如何に、時間を操る魔法が恐ろしいものなのか分かる。一度死んだ人もまき戻るって言うことなら……
そこの原理がよく分からなかった。元の世界に戻したとして、前の世界で死んでしまった人はどうなるのか。どれまで、今の世界が影響するのか分からなかった。生きている人は、生きている人でそのまま……ということも考えられるし。
今考えても、すぐ戻るわけじゃないんだからと言い聞かせ、私は馬車や荷台が着ていないのを確認し道路を渡る。その後をノチェがついてきた。
「どうしたんですか、ステラ様」
「いや、ノチェが指さしたから」
「指を……ああ、美味しそうな菓子屋があるなと思いまして」
「ノチェ、甘いもの好きなの?」
「それなりには。砂糖は結構高価なものですからね。元々、貴族だったので高価といっても食べられなかったわけではないですが」
と、ノチェは言う。
私は、そんな話を聞きながら、ブライトを見失わないように歩いた。けれど、平民がいきなり貴族に話し掛けるのは不味いんじゃないかと躊躇ってしまう。それに、ブライトほどの魔道士になれば、私達が変装魔法をかけていることに気づくだろうし、だったら尚更怪しまれてしまう。身体が先に動いてしまったが、これは不味いんじゃないかと、私はブレーキがかかりそうになる。
「ステラ様は、何故いきなり飛び出したのですか?私が指を指したから、といっていましたが、もしかして知り合いが向かいにいたのですか?」
「知り合いっていうか、個人的に知っている人なんだけど……あっちは覚えていないというか」
「うん?」
「まあ、知り合い!私が知っている知り合い!」
「それは、知り合いとは言わないのでは?」
ノチェは首を傾げる。そうかも知れないけれど! と心の中でツッコミを入れる。今の私とブライトはそりゃ他人だろう。ブライトからしたら、いきなり話し掛けられて驚くだろうし、戸惑うだろう。ラヴァインの時もそうだったから、ああいう反応されると苦しいところがある。でも、仕方ないと受け入れるしかないところもあって複雑。
また、勝手に行動して失敗しそうな予感しかしない。ノチェに話してみてもいいと思ったが、彼女が、ブライトについてどう思っているかも微妙で。
「ノチェ」
「何でしょうか、ステラ様」
「ブライト・ブリリアント侯爵って知ってる?」
「はい。勿論です。有名な貴族ですから。いきなり何ででしょうか」
「ううん、こういういい方は悪いかも知れないんだけど、闇魔法の人達から見て、光魔法の貴族ってどう思うのかなって思って」
「本当に唐突ですね。相容れない存在と言ったところでしょうか」
「嫌い?」
「嫌いも好きもありませんが、どちらも毛嫌いしていますね、お互いのことを」
まあ、そうなるか。と、私は、ノチェの反応を見て思う。そんな風に歩きながら喋っていれば、急にぐいっと誰かに引っ張られ、私は倒れそうになりながらその方向へ足が向く。まるで、魔法を使われたように綺麗に引き寄せられた。
「る、ノチェ?」
「しー」
「……あっ」
大通りから外れた暗い路地。外の世界と遮断されたようなその場所には、ノチェはいなかった。他の人の声も何だか遠くに聞える。
しーと可愛らしい声が聞えたかと思えば、その声を辿り視線を落とすと、そこには小さな黒髪の少年がいた。アメジストの光のない瞳を私に向けて、静かにして、というように人差し指を口元に持ってきて。
「ファウダー?」
そこにいたのは、ブライトの弟、ファウダー・ブリリアント、混沌だった。
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