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西園寺との会話から一夜明けても、胸の奥のざわつきは消えなかった。
(あいつ……いったい何が目的なの)
支配者を名乗るわけでもなく、暴くわけでもない。
けれど、確実に私の“基盤”を揺らしにきている。
“君が地に堕ちる瞬間を見届ける”。
あの一言が、頭の中にずっと居座っていた。
⸻
昼休み。誰もいない図書室。
私は本棚に隠れるようにして、スマホの画面を見ていた。
匿名掲示板。
**《ある教師》**に対する投稿は、まだ続いている。
それらしい証拠もなく、ただ感情的な言葉がスクリーンを埋め尽くしていく。
「こういう教師、昔からいたよね」
「人の顔色ばっか見ててキモい」
「なんか、あの先生、女の子ばっか見てない?」
誰が最初に火をつけたのかは、もう誰にもわからない。
でも、ここまで燃えたら、あとは空気が勝手に拡散する。
(ふふ、いい子たち)
火をつけたのは、私じゃない。
“ただのきっかけ”を落としただけで、誰かが勝手に火をつけ、誰かが燃料を投げ込んでいる。
けれど――
「君、それ、面白いと思ってる?」
突然、声がして、私は息を飲んだ。
振り返ると、そこに西園寺がいた。
本棚の影、いつからいたのかわからない。
「……盗み聞き?」
「違うよ。観察、だよ」
彼は小さく笑うと、スマホの画面を覗き込んできた。
「この掲示板、最初の書き込みって“玲那ちゃん”に似た文章だったね」
私は一瞬、視線を逸らした。
「彼女、最初に“空気に触れた”んだと思う。
結惟ちゃんに憧れて、真似して、でもすぐに飲み込まれた」
「……何が言いたいの?」
西園寺は目を細めた。
「支配って、相手の上に立つことじゃない。
“誰よりも下に沈んで見上げ続けること”だって、知ってる?」
(なにそれ……)
「きみはね、今までずっと“無傷で見下ろせる側”にいた。
でもそれは、たまたま空気が君を守ってただけなんだ」
私の手が、無意識にスマホを握る力を強めていた。
「結惟ちゃん。……怖い顔してるね」
⸻
放課後、下駄箱で知らない子が話していた**。**
「ねえ知ってる? 結惟ってさ、先生となんかあったって」
「え、マジ? なんか空気重かったよね、あの教室」
小さな噂の芽が、音もなく生えていた。
(……誰? 言ったのは。玲那? 西園寺?)
けれど、もう“犯人探し”は無意味だ。
空気は私のものじゃない。“みんなのもの”になっている。
そう――
まるで、空気そのものが私を逆に観察しはじめたかのように。
⸻
夜。ベッドの上で、私は初めて“泣きそう”になった。
けれど、涙は出ない。殺したはずの感情が、まだうまく蘇らない。
スマホに届いた1通の通知**。**
《西園寺:それでも、まだ間に合うと思う?》
そのメッセージには、返信しなかった。
でも、指は微かに震えていた。