相変わらず千鶴にはぎこちなさが一切無く、そんな彼女をレンズ越しに見つめる蒼央は楽しそうに、ただひたすらシャッターを切っていき、暫くして、
「他にも衣装を持って来たよな?」
「はい、一応、感じが違う服を何着か」
「それじゃあ休憩を挟むから、その間に着替えてくれ」
「分かりました」
衣装を変えて撮りたくなった蒼央は千鶴に持って来た服に着替えるよう言うと、それに頷いた彼女は一人更衣室へと向かって行った。
(……遊佐 千鶴……か。コイツはこれから先、必ず伸びる)
蒼央は近くに置いていたパイプ椅子に腰を下ろすと、今しがた撮った写真に目を通しながらそんなことを思う。
(コイツの才能を生かすも殺すも、全てはカメラマンの腕にかかってる……)
実は今日のこの撮影は、蒼央があることを決断する為に機会を設けたもので、既にそれは決まりつつあった。
「西園寺さん、お待たせしました!」
今度は無地の白いTシャツに黒いライダースジャケットを羽織り、黒いショートパンツとショートブーツという、先程とは印象がガラリと変わるスタイルで現れた千鶴。
蒼央は千鶴のファッションセンスにも魅力を感じていた。
「お前はセンスも良いな。自分の魅せ方をよく分かっている」
「そ、そうでしょうか?」
「ああ」
「せっかく撮影してもらうなら違った印象になる方が良いかと思って、家にある服を漁って合わせただけだったので、ちょっと自信が無かったんですけど、褒めて貰えて嬉しいです」
「そうか。それじゃあ再開するぞ」
「はい!」
こうして再び撮影は再開され、二人にとってとても充実した時間を過ごすことが出来た。
撮影会から数日が過ぎ、レッスン終わりに佐伯に呼び出された千鶴が事務所にやって来ると、社長室には何故か蒼央の姿もあった。
「社長、遅くなりました。西園寺さん、こんにちは」
「ああ」
「千鶴もそこへ座りなさい」
「はい、失礼します」
佐伯に促されて蒼央の向かいのソファーに腰を下ろす千鶴。
何故この場に蒼央が居るのか不思議に思っていると、
「千鶴、今日は実に素晴らしい話があるんだよ」
いつになく嬉しそうな声で佐伯がそう話を切り出した。
「実はね、西園寺くんがうちの事務所専属のカメラマンになってくれることが決まったんだ」
「そうなんですか?」
「ああ」
「まあ、うちの事務所……とは言っても、ほぼ千鶴専属という感じになるがね」
「え? それはどういうことなんですか?」
千鶴が驚くのも無理は無い。普通特定のモデルの専属だなんて有り得ない話なのだから。
「うん、西園寺くんは千鶴のことがだいぶ気に入っているみたいでね、お前の魅力を最大限に引き出せるのは自分しかいないと言うんだよ」
確かに、蒼央は腕の良いカメラマンだから、そのくらいの自信があってもおかしくは無いのだが、それにしても、まだ駆け出しで何の実績も無い新人モデルの為に事務所専属のカメラマンになるということは非常に稀なケースだし、前例も無い。
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