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ゆゆゆゆ
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ゆゆゆゆ
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FORSAKENの夜は静かだった。
静かすぎるくらいに。
窓の外では黒い霧がゆっくり揺れている。
部屋の中には、紙をめくる音だけ。
スペクターはソファに腰掛け、本を読んでいた。
赤いシルクハット。
細い指。
落ち着いた横顔。
いつもの光景。
そしてその足元。
ノスフェラトゥがいた。
床に座っている。
珍しく。
跪いていない。
ただ静かに、スペクターの膝へ額を預けていた。
まるで。
そこにいることを確認するみたいに。
スペクターの指先が、黒髪をゆっくり梳く。
「良い子だね」
いつもの声。
ノスフェラトゥが目を閉じる。
安心する。
その言葉は好きだった。
良い子。
従順。
かわいい。
全部。
「役割」だから。
主にとって価値がある。
必要とされている。
そう確認できる言葉だった。
だから安心できる。
だから怖くない。
失っても。
壊れても。
また役に立てばいい。
また従えばいい。
そう思えるから。
だが。
その夜。
スペクターは何気なく。
本当に何気なく。
ページをめくりながら言った。
「好きだよ、ノスフェラトゥ」
静寂。
ぴたり。
ノスフェラトゥの呼吸が止まった。
スペクターは気づいていない。
さらりと続ける。
「君は本当に面白い子だ」
返事がない。
そこでようやく。
スペクターが視線を落とした。
「……ノスフェラトゥ?」
固まっていた。
完全に。
ノスフェラトゥの瞳がゆっくり揺れる。
まるで。
聞いてはいけない言葉を聞いたみたいに。
「……今」
かすれた声。
「何と……?」
「好きだよ、と言ったんだ」
その瞬間。
ノスフェラトゥの顔から血の気が引いた。
後ずさる。
ゆっくり。
信じられないものを見るように。
スペクターが眉をひそめる。
「どうしたんだい」
返事がない。
ノスフェラトゥはただ。
怯えていた。
心底。
怯えきった目だった。
スペクターはそこで初めて気づく。
この吸血鬼。
怒鳴られても。
命令されても。
首輪を嵌められても。
こんな顔はしない。
なのに。
「好きだよ」
たったそれだけで。
壊れそうになっている。
ノスフェラトゥは震える声で呟いた。
「……やめろ」
「ノスフェラトゥ」
「そういう言葉を、使うな……」
掠れていた。
いつもの威厳など欠片もない。
スペクターは静かに本を閉じる。
「何故?」
沈黙。
長い沈黙。
やがて。
ノスフェラトゥがぽつりと零した。
「……消えるからだ」
スペクターは黙って聞く。
ノスフェラトゥの視線は遠い。
ずっと昔を見ていた。
「好きだと言った奴は」
「皆、消えた」
静かな声。
乾いた声。
「人間も」
「吸血鬼も」
「眷属も」
「王も」
「家族も」
「恋人も」
「部下も」
「全部」
淡々としていた。
それが逆に痛々しかった。
「最初は怖くなかった」
「永遠に続くと思っていた」
笑う。
自嘲みたいに。
「だが違った」
「皆死ぬ」
「皆壊れる」
「皆いなくなる」
部屋が静かになる。
ノスフェラトゥは俯いた。
「だから」
「聞きたくない」
「……」
「“好き”は、なくなる前触れだ」
スペクターは何も言わない。
ノスフェラトゥの指先が震えていた。
「かわいい」
「良い子」
「従順」
「役に立つ」
「それなら安心できる」
「役割だからだ」
「壊れても代わりがきく」
「期待に応えればいい」
「でも」
声が掠れる。
「好きは違う」
ノスフェラトゥはゆっくり顔を覆った。
「……好きは」
「失った時に」
「死ぬほど痛い」
その言葉で。
ようやく全部繋がった。
スペクターは理解した。
この吸血鬼は。
支配が好きなのではない。
「やがて消える愛情」が怖いのだ。
命令は残る。
主従も残る。
鎖も役割も。
形として残る。
だが。
「好き」は。
あまりにも曖昧で。
脆い。
だから怖い。
また失う。
また独りになる。
また置いていかれる。
永遠を生きすぎた怪物は。
その痛みだけを。
ずっと抱えていた。
スペクターは静かに立ち上がった。
そして。
逃げようとするノスフェラトゥの腕を掴む。
びくり、と身体が震える。
「見なさい」
低い声。
命令だった。
ノスフェラトゥが反射的に顔を上げる。
涙で滲んだ赤い瞳。
スペクターは両手で。
震える頬を掴んだ。
逃がさないように。
しっかり。
強く。
「安心しなさい」
低い声。
甘い声。
いつもの。
絶対に逆らえない声。
「私は消えないよ」
ノスフェラトゥの瞳が揺れる。
「君がどれだけ怯えても」
親指が涙を拭う。
乱暴に。
でも確かに優しく。
「どれだけ拒否しても」
顔を近付ける。
赤いシルクハットの影。
逃げ場はない。
「君はずっと私のものだ」
その言葉。
それだけで。
ノスフェラトゥの身体から力が抜けた。
怖い。
まだ怖い。
でも。
安心する。
その矛盾ごと。
スペクターは全部掴んで離さない。
「君もその恐怖も全部いっしょに」
「檻に閉じ込めてあげる」
ふふっ。
いつもの笑い方。
楽しそうで。
優しくて。
残酷だった。
ノスフェラトゥは目を閉じて。
その手に頬を寄せる。
縋るみたいに。
触れていないと壊れるみたいに。
スペクターはそんな彼を見て。
満足そうに。
また優しく笑うのだった。
コメント
4件
あぁぁ……(致命傷) 俺はこの作品とあなたが好きですぜ……😭😭😭😭😭😭