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第3話:リング、校則違反
新入生のリオは、4月の午後、昇降口の靴箱の前で立ち止まった。
制服のブレザーのポケットに手を入れ、そっと中のリングを確認する。
――まだ、つけていない。
リオ・16歳。
くせのある茶髪を無理やり結んだポニーテールに、濃い縁メガネ。
成績は悪くないが、どこか“地味”な自分がずっとコンプレックスだった。
高校生活は、何かを変えたかった。
だから、誘われたとき、断れなかった。
「“強化リング”、いる?」
声をかけてきたのは、2年のアヤ先輩。
制服の袖を捲った手には、鮮やかな銀色のリングが光っていた。
一目で市販品じゃないとわかる。校則で禁止されている“非公式カスタム”。
「これね、反応速度が通常の1.5倍で、発動時間ほぼゼロ」
「えっ、でもそれ……学校で使ったら……」
「見つからなきゃ、平気でしょ?」
笑ったアヤの横顔はきれいで、怖かった。
魔法リングの校則は厳しい。
市販モデルは登録制で、属性制限もあり。
強化リングやカスタム品は、発動事故や暴走のリスクがあるため、学校では禁止されている。
でも――
昼休みの体育館裏、廊下の陰、非常階段の上。
誰もいないところでは、非公式の光がひそかにきらめいていた。
「今日、試してみなよ。廊下の奥、人気ないからさ」
放課後、リオは手の中のリングを見つめる。
黒地に薄緑のラインが入った、火属性強化型。
細いけれど重い。その中に「知らない自分」が潜んでいるようだった。
そっとはめた瞬間、指先にぴりっとした熱。
(これが、非公式……?)
リングが反応し、指に刻印された火の模様がいつもより濃く発光する。
呼吸が浅くなって、視界の色がほんの少しだけ違って見える。
リオは――少しだけ、気持ちよかった。
だがその翌日。事件は起きた。
1年の男子生徒が、リング暴発事故で軽いやけどを負ったという噂が流れた。
「非常階段で、火のリング使ってたって……誰か見たって」
職員室前の廊下がざわつく。
リオは凍りついた。
使ったのは自分。でも、その場所じゃない。
「ねぇ、アンタ……まさか――」
アヤ先輩が、険しい顔で近づいてくる。
その目には、前と違う色があった。
数日後、校内掲示板にひっそりと貼られた紙があった。
“非公式リング使用に関する注意と謝罪”
差出人は、1年B組・リオ。
リオは、自分がやったとは書かなかった。
ただ、「強化リングを使ったことがある」と認めた。
その後、アヤ先輩は何も言わずに離れていった。
でも、数人のクラスメイトがこう言った。
「……バカだけど、正直だね、あんた」
その一言に、リオのリングが静かに光った。
以前より少し、落ち着いた光で。
魔法は“便利”で“危険”で、
何より“正直”なものだ。
リングが語るのは、嘘よりも――その人の選択だ。