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#恋愛
ばたっちゅ
20,092
#誓い
耀聖(ようせい)
381
コメント
1件
うわあ……やっと見つけたんだね、ふたりが本当に戻りたかった場所。 図書館のベンチ、あの頃は隣に座るだけで精一杯だったのに、今はこんなに近くにいられるんだね。 『戻ってくる場所』って刻まれたチャーム、読んでるこっちまで胸が熱くなっちゃった。 過去の約束がぜんぶ終わって、新しい約束が始まったとこ、すごく綺麗だった。 「終わりじゃないよ」って律が言ってくれて、本当によかった。ふたりが選んだ未来がずっと続きますように🤍
第百六話 最初に会った場所
「……あそこだ」
二人の声が、重なった。
けれど、すぐには動けなかった。
思い出した場所が、あまりにも意外だったから。
駅でもない。
学校でもない。
公園でもない。
事故が起きた場所でもない。
もっと前。
二人の物語が始まった、本当の場所。
「……行ってみる?」
琴葉が聞く。
律は頷いた。
「うん」
二人は歩き出した。
そこは、
駅から少し離れた場所にある小さな図書館だった。
今では建物も少し変わっている。
けれど、入口の横にある
古いベンチだけは残っていた。
琴葉は立ち止まる。
「……ここ」
律も周りを見渡した。
記憶が戻ってくる。
まだ二人が学校で出会うより前。
まだ、お互いの名前すら知らなかった頃。
琴葉は、人間関係に疲れていた。
誰かと話すことさえ怖くなっていた。
だから放課後、一人でここに来ていた。
人が少なくて、静かだったから。
律もまた、家に帰りたくない日にはここに来ていた。
家の中の空気から逃げるように。
二人は同じ場所に来ていた。
でも、最初はお互いの存在に気づかなかった。
ある日のこと。
琴葉がベンチに座っていると、
少し離れた場所に律が座った。
二人の間には、数メートルの距離があった。
話しかけることもない。
ただ、それぞれ本を読んでいた。
それが何日も続いた。
そしてある日。
琴葉が落としたペンを、律が拾った。
「これ」
「……ありがとう」
「うん」
それだけ。
本当に、それだけだった。
でも――
次の日も二人はそこにいた。
その次の日も。
少しずつ距離が近くなった。
「今日もいるね」
「そっちも」
「ここ、好きだから」
「俺も」
それから二人は、少しずつ話すようになった。
名前は聞かなかった。
学校も聞かなかった。
家のことも聞かなかった。
ただ、そこにいるときだけは、
お互いに何者でもなくてよかった。
琴葉は、初めて安心できる場所を見つけた。
律も、家に帰る前に一息つける場所を見つけた。
そしてある日。
琴葉がぽつりと言った。
「ここでは、何も頑張らなくていいね」
律は頷いた。
「うん」
「じゃあ、また来よう」
「約束?」
「約束」
それが――
本当の最初の約束だった。
「……覚えてる」
琴葉が呟いた。
律も頷く。
「俺も」
二人は古いベンチに座った。
昔の二人と同じ場所。
けれど、今は隣に座っている。
あの頃よりずっと近くに。
「私、ここに来ると少しだけ楽だった」
琴葉が言った。
「私が嫌われても、誰かに何か言われても、ここに来れば何も考えなくてよかった」
律は静かに聞いていた。
「律は?」
「俺は……」
少しだけ言葉に詰まる。
「家に帰るまでの時間を、ここで止めてた」
琴葉は何も言わなかった。
「家に帰ったら、また空気を読まなきゃいけなかったから」
「……そっか」
「だから俺も、ここが好きだった」
二人はしばらく黙った。
昔の自分たちが、ここでどれだけ救われていたのか。
今になって分かる。
「ねえ」
琴葉が言う。
「私たち、ここで出会ってたんだね」
「うん」
「学校より前に」
「うん」
「事故よりずっと前に」
「うん」
琴葉は笑った。
「じゃあ、私たちが本当に忘れてたのは、事故の日だけじゃなかったんだ」
律も笑う。
「俺たちが出会った日そのものを忘れてた」
そのとき。
律のポケットから、何かが落ちた。
銀色のチャームだった。
拾い上げる。
裏側を見る。
そこには、昔刻まれた文字がある。
『戻ってくる場所』
琴葉はそれを見て、目を見開いた。
「……これ」
「うん」
「ここだったんだ」
二人が何度も探していた「戻る場所」。
駅でも。
公園でも。
事故現場でもなかった。
本当に戻りたかった場所は――
二人が初めて何も隠さずにいられた場所だった。
琴葉は、静かに涙を流した。
「私、ここに戻りたかったんだ」
律も目を赤くする。
「俺も」
「じゃあ……最後の約束」
琴葉が紙を見る。
『大丈夫になったら、行く。』
律は、その意味をようやく理解した。
「大丈夫になったら、ここに戻ってくる」
「うん」
「昔の俺たちは、まだ大丈夫じゃなかった」
「……うん」
「だから、来られなかった」
琴葉は首を横に振った。
「違うよ」
「え?」
「昔の私たちも、頑張ってた」
琴葉はベンチを撫でる。
「だから今度は、あの頃の私たちを迎えに来たんだと思う」
律は何も言えなかった。
ただ、琴葉の隣に座る。
二人はしばらく、何も話さなかった。
やがて琴葉が小さく笑った。
「ねえ」
「ん?」
「これで約束、全部叶えた?」
律は紙を見る。
一つ。
二つ。
三つ。
四つ。
そして最後。
全部に、小さな丸がついた。
「……うん」
「そっか」
琴葉は少し寂しそうに笑った。
「終わっちゃったね」
律は首を横に振った。
「終わりじゃないよ」
「え?」
「昔の約束が終わっただけ」
そして、紙を折りたたむ。
「これからは、今の俺たちが約束すればいい」
琴葉は目を丸くした。
それから、ゆっくり笑った。
「……じゃあ、一つだけ」
「何?」
「またここに来よう」
律も笑う。
「約束」
二人は指切りをした。
昔と同じ場所で。
でも、今度の約束は過去のものじゃない。
二人が自分たちの未来のために選んだ、
新しい約束だった。