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声にならない否定の言葉を飲み込み、息を吐くと僅かに車が揺れエンジン音が響く。
ふ、と。 隣を見る。
纏う空気。
さっきの航平の言葉を振り返る。
「機嫌が悪い……」
「ん?」
シートベルトを締めながら、私を見る彼の顔。
昨日と違う点といえばなんだろう。うーんと思い悩みながら。
「柚、どうしたの?」
「…………あ、顔じゃなくて」
「ん?」
声だろうか。
声に覇気がなく、これは多分。
機嫌が悪いというよりは。
「なんか疲れてますか?」
「…………え?」
優陽の瞳が見開かれた様子が、横顔からでもわかる。
「いえ、昨日よりオーラがないというか、覇気がないというか」
シートベルトを締めながら伝えると、頷きながら優陽はゆっくりとアクセルを踏み込む。
「ああ、うん、昨日は色々気を張ってたからね、これでもさ」
(何に?)
と、もちろん思ったけれど、自分が柚にめちゃくちゃな脅しとも取れる提案をすること。少しは疑問に思ってくれていたりしたのだろうか?
しかし、それを聞いたとて、素直に答える人だとは思えないから。
流してしまう。
「……そうだったんですか? そんなふうには、とても見えなかったです」
「ほんと? だったらよかったな」
ホッとしたようにそう言いながら、左手で器用にマスクを取りカーナビの下にポイっと投げて「これも」と言いながら笑う。
「これ?」
柚が尋ねると「そうそう」と、前を見たまま優陽は軽く数回頷いた。
「マスクも忘れて店に入ったし他誰もいなくてよかったよ。一応確認はしたつもりだったけどね店内」
「やっぱり有名な方は大変ですね」
「顔が知られてるとね。ま、俺はアイドル売りされてないから全然、まだマシな方」
やれやれ、と肩をすくめる動作を見せて「でも最近は、うるさくなってきたけどね。 マネージャー」なんて言いながら、ははは。 と乾いた笑いを付け加える。
その笑い声で、また気付く。
うまく彼のペースにのせられて話を逸らされたこと。
即ち、疲れているのか。 という問いには答えたくないということなんだろうか。