テラーノベル
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それならいちいち詮索するのも、自分がするべきことじゃない。
だけど、話題がないのも辛いもので。
「あの、恋人のフリって具体的には何をすればいいのでしょうか」
柚は、昨夜から気になって仕方がなかったこと。
もっともらしい質問を投げてみた。
「え? どうしたの、いきなり。別になにもしてくれなくていいよ」
予想外にも、驚いた声が返ってくる。
(いや、驚きたいのは私ですが)
「え、何も?」
「うん。 俺が次何か誰かと撮られたら、君の出番ってだけで。 その時に敢えて俺と撮られてくれたらいいから」
そうなんですか、と答えた柚の身体から力が抜ける。
あんまりにも優陽が演技派なものだから、もっと合わせなくてはいけないのだろうか。
……なんて、焦っていたところだったのだ。
「ん? それとも、あれかな」
「あれとは」
視線は前に向けたまま、優陽はこの会話を終えたつもりはないらしい。
「彼女っぽいことしたい? 形から入りたいタイプ??」
「え? そうじゃなくて、それならその時まで会う必要もないのでは? と、思って」
必要になる時まで連絡先さえ確保しておけば、それで済む話なのではないだろうか。
そんな、素直な疑問をぶつけただけなのだけど。
「へえ、俺が会いに来てこんなに迷惑そうにされるなんて貴重だなあ」
冗談めかして言ってるようで、声が少し怖い。
モテる男の人のNGワードに触れたんだろうか。 気を遣ったつもりなのにさっぱりわからない。
世間の声から伝わってきている、温和で人当たりのいいイケメンシンガーというイメージは既にもう柚の中になく。
「め、迷惑だとは言ってません……」
「ははは。 まあ、今はそういうことにしておいてあげるよ」
今は、をやけに強調してくる。
全然そういうことになってなさそうな刺々しさに、口を噤んでいると。
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