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「に、人間ですか……分かりませんが。って、エトワール様何をされる気なんです?」
ヒカリの慌てた表情に、私は、苦笑いしてしまった。あまりにテンパりすぎなのだ。テンパりすぎて、脇腹に抱えている双子を落としてしまいそうになるくらいには。
「エトワール、もしかして、食べられにいく気?」
「エトワール食べても、美味しくないじゃん」
「ひっどいわねえ。でも、方法ってそれしかないでしょ?」
ヒカリは私の意図を一発で理解できていないようだったが、双子は理解できたようで、そんなの無謀だと口を揃えていう。この二人は、知らないかも知れないが、過去に何度か、魔物だったり、肉塊だったりの口の中……胃の中に入ったことはある。案外、魔物の腹の中って、ベタベタしていたりしないものなのだ。だからといって入りたいわけじゃないけど。
(でも、方法の一つとして考えられるじゃん)
外からの攻撃が入らないのなら、内側から攻撃すれば良いんじゃないかって。
名案だと思うんだけどなあ、と私は冷たい目を贈ってきている双子を見ながら思った。
「いくのか、本当に」
「え、うん。だって、それしか方法なくない?ラスター帝国の騎士達と鉢合わせたくないし、かといって、逃げても追いかけられるだけだし」
もしかしたら、モグラにも転移能力があって、地獄の果てまでも追いかけられるかもだし。
何でこんなことになっているかは分からないけど。
「それに、もしかしたら、核があるかも知れない」
「それは、ヘウンデウン教が創り出した魔物ならな」
「やってみる価値はあるでしょ?これが、エトワール・ヴィアラッテアの仕組んだことなのか、それとも、ただ凶暴化しただけなのか」
もし、ただ凶暴化しただけだったら、その理由も調べた方が良いんじゃないかって。ヒカリとか、双子にその情報を与えれば、彼らがどうにかしてくれるかも知れないし。勿論、私の名前は伏せてだけど。
「お勧めはしたくねえな」
「別に、アルベドに行けっていってないじゃない。私が行く」
「……本気かよ」
「嘘に思える?」
私が、挑発的に言えば、アルベドは、降参だというように手を挙げた。
「お前が、一度言い出したら曲げない性格だっていうのは、俺が一番よく分かってる」
「それを分かってるのは、アンタだけじゃないかも知れないけど」
「……」
「ね?」
「はあ、お前結構悪くなったよなあ。悪女だわ」
と、アルベドは、肩を落としていう。別に、嫌みったらしい言い方じゃなくて、でもちょっと巫山戯ているようにも思えた。
きっと私の性格を知っているのは、アルベドだけじゃないって、それは本当だから。
「まあ、そんなお前でも、助けたいって思っちまうんだから、俺も相当だな」
「待って、アルベドも入るき!?」
「あったり前だろ、お前一人でいかせられるわけないしな……それに、気になるじゃねえか、魔物の腹ん中がどうなってるかさあ」
「どん引きだわ……」
子供が、イタズラを企てる時みたいな顔をして、アルベドはニヤリと笑った。わりと乗り気。そして、本気で、それを楽しそうだといっている彼に、少しだけ、恐怖を感じた。まあ、アルベドの性格を知っているから、知っている上でどん引きしているんだけど。
となると、誰かが隙を作らないといけないわけだ。
「ヒカリ、任せられる?」
「隙を作ることぐらいならいけますけど……でも」
「……あ、そうか」
ヒカリは、眉を下げる。両脇腹に抱えた双子。このままでは魔法を繰り出すのが難しいというのだ。確かに、魔法って、想像力、イメージがかたまっていないと出来ないし、手に溜めずとも魔法を放つことが出来るが、あれはかなり難しい。実際やってみるが、魔力が何処に集まっているのかも分からないから、手に集めて魔法を放つ、という動作はあった方が良いのだ。
ヒカリがそう言うと、抱えられたままの双子は、顔を上げた。
「じゃあ、僕らが、魔法を使うから、その隙にエトワールはあの魔物の中に侵入すれば良いんじゃない?」
「そうだよ。僕らだって魔法を使えるわけだし」
「でも……」
「任せてみたらいいじゃねえか、エトワール」
「あ、アルベド。で、でも、でも!」
アルベドは、ポンと、私の肩を叩く。彼は、別に、この双子に任せても良いんじゃないかと、軽くいった。けれど、あのワープホール的な魔法を使われて、もしも当たったりしたら……色んな可能性を考えたら、双子を巻き込みたくはなかった。でも、ヒカリが動けない以上は、魔法が使える二人に囮役を任せるしかないと。
攻略キャラだし、弱くないことは分かっている。でも、物語から外れたところでは、死ぬかも知れない。その恐怖は付きまとうわけで。
ぐっと握った拳の裏に汗が溜まる。
作戦は、魔法を打つ際、あのモグラは口を開けるのだ。その隙をついて、体内に侵入し、核があればそれを破壊。なかったとしても、内側から攻撃すれば……という作戦だ。でも、囮役が必要である。
「分かった。任せていい?」
「勿論」
「そんな顔しないでよ、エトワール!やってみせるから!」
「分かった、ありがとう」
双子は、任せとけといわんばかりに、胸を叩く。あまりそこで暴れると、ヒカリの負担になりそうだな、と少し体勢を崩した、ヒカリを見て思わず笑ってしまう。
ここで、矢っ張りやめて、とは言いづらくなったし、彼らも乗り気だから、ここは任せてみようと思った。信じてみよう。だって、双子も弱くないから。
「じゃあ、手筈通りに」
「き、気をつけて下さいね。エトワール様」
「ヒカリも、ありがとう」
「は、はい。お気を付けて」
ヒカリと双子に後押しされ、私はアルベドと目配せし、地上へ戻る。魔力の強い人間にモグラは反応するらしいからヒヤヒヤしたけど、私達が攻撃をしなければ、そして、空中にいる双子が攻撃をしてくれれば、もしかしたら、そっちに目を向けてくれるかも知れない。まあ、これも一種のかけだし、失敗する可能性もあるんだけど。
(やらなきゃ始まらないわよね……)
兎に角やってみる、トライ。
ストンと、地面に足がつけば、やはり、掘り返された地面は不安定で、ひび割れているところもあって危なかった。どれだけ、あのモグラが凶悪化分かってしまう。ただでさえ畑を荒らすんだから、それが大きくなったら、結果はご覧の通りという感じ。
モグラからは、少し離れた位置に降り立ったため、まだ、モグラがこちらに気づいていないようだった。でも、それも時間の問題。
「しっかし、よくあの双子を信じたなあ」
「アンタが、信じてみろっていったんじゃない。でも、まあ、弱くないのは、知っているから……ただ、巻き込みたくなかっただけ」
「そう言うところが、優しいんだよ。エトワールは」
と、アルベドは私の頭を乱暴に撫でた。少し、無邪気な笑顔を見ると、安心してしまう。
そんな笑顔に和まされていれば、アルベドは、それでも一つ気になることがある、といった感じで、顎に手を当てて唸った。モグラのことだろうかと、彼の顔を覗けば、首を横に振る。
「いーや、そういや、あのダズリング伯爵家のボンボン、今年で何歳になるんだ?」
「えっと……知らない」
「あっそう」
「きいたくせに、何よその反応」
「知らねえなら別にってこったよ……って、いてえって。暴力に訴えかけんな」
「また、私が、無知だと思った!絶対そう!」
「まあ、別に、貴族の年齢なんて気にしねえだろう。あーもう、分かった。いう、いうから、蹴るな、踏むな」
私が、子供っぽい言動をしても、アルベドは少し怒るだけで、そこまで本気で相手をしていない感じだった。まあ、これでいいんだけど、隠し事というか、一人で納得し凪いで欲しかった。
「……あー、で。俺が言いたいのは、彼奴ら小さすぎねえかってはなし」
「小さいって、子供だからでしょ?」
「いーや。ダズリング伯爵家の双子が生れたのは少し前だ。だが、あまりにも成長が遅すぎやしねえかっていいてえんだよ。双子って、あまり貴族から好かれねえし、普通なら殺しちまうことが多いんだが」
「こ、ころ……」
「あくまでのはなし。まあ、それは置いておいたとしても、魔力量が二分割されちまうから、弱いんだよ。圧倒的に、他の人間と。だから、殺すっていうのが、よくあること。だが、生かされているってことは、彼奴らにはまだ眠っている魔力があるんだろうな。だから、成長していない」
「つまり、その魔力が開花したら、一気に成長するってこと?」
私が聞き返すと、アルベドは、その認識であっていると頷いた。
まあ、確かに、あの二人だけ攻略対象にしたら幼いし、小さいと感じるけど、そういうプレイヤー層を意識してのことだと思っていたから。
(じゃあ、今以上に強くなるってこと……だよね)
そんなことを考えていると、地面がグラグラと揺れだした。モグラの魔力と、空中で、双子が魔力を溜めているのを肌で感じ取る。
「じゃあ、手筈通りに」
ぐわあああっ! とあらわれたモグラは、大きな爪で土をかきわけ、自分に放たれた攻撃をワープさせるために魔法を発動させる。その瞬間、鼻の下に隠された口がガバリとあく。
「エトワールいくぞ」
「う、うん」
先を行く、紅蓮をおって、私はモグラの口に突っ込んで走った。