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放課後。
教室のざわめきが落ち着いたころ、前に立ったのは数学担当のサークル先生だった。
「明日は月例テストを行います」
静かな声だったが、教室の空気がわずかに張りつめる。
「範囲は今月扱った内容すべて。評価は厳正に行います」
それだけ告げると、サークル先生は淡々と教室を出ていった。
「月例かぁ……まあ、いつも通りだね!」
オリバーが明るく笑う。
「内田なら余裕でしょ?」とエドワード。
ルビーは腕を組みながら、
「油断は禁物よ。ここはFPEなんだから」
とだけ言った。
──“FPEなんだから”。
その言葉の意味を深く考える前に、帰りの支度を始める。
ノートや筆記用具を鞄に入れていると、隣から小さな声がした。
「……内田」
振り向くと、エンゲルが立っていた。
どこか青白い顔。影のある瞳。
「何?」
エンゲルは周囲を一瞬だけ見回し、低い声で言った。
「Fだけは取るなよ」
「……F?」
「それだけは、絶対に」
それ以上は何も言わず、エンゲルは席を立って教室を出ていった。
内田はしばらく立ち尽くす。
F評価のことか?
普通の学校なら、赤点を取るな、という意味に過ぎない。
だが、胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
寮の一室。
内田は机にノートパソコンを置き、電源を入れる。
デジタルカメラも横に置いた。
「異世界転移、学園生活……」
これはオカルトフリーライターとしては大当たりの題材だ。
需要は間違いなくある。
内田はネット掲示板を立て、状況を書き込んでいく。
・気づいたら異世界の学校
・FPEという名称
・月例テスト
・評価が重要らしい
森やヨシエのことは伏せた。
あれは、まだ整理がついていない。
「投稿、と」
エンターキーを押す。
普段なら、すぐに反応が来る。
茶化し、煽り、考察、様々なレスが飛び交うはずだ。
だが──
待てども待てども、返信は来ない。
1分。
3分。
5分。
更新ボタンを押す。
もう一度。
それでも、何も表示されない。
「……回線は繋がってる」
ブラウザは動く。ページも表示される。
だが、投稿への反応だけが、完全に無音だ。
まるで、この世界から外界への“返事”が存在しないかのように。
内田は画面を見つめたまま、静かに呟く。
「……閉じ込めか……」
エンゲルの言葉が脳裏に蘇る。
「─Fだけは取るなよ。」
窓の外では、夜の校舎が静かに佇んでいる。
どこまでも穏やかな学園の風景。
だが内田はまだ知らない。
FPEという場所の“F”が、何を意味するのかを──。