「イスティさま、天井にあと二匹!」
「――おっと!?」
「それだと遅いの!!」
「い、いやぁ、慣れないとだね」
「……あの虎娘はいい動きしてるのに~!」
山中の洞窟に入ってからだいぶ経った。特化スキルを得たおれは、本来の重さであるフィーサを使いこなすことが出来ている。
「獣のような俊敏な動きは厳しいな。でもほら、力を得られてからフィーサを使いこなしているわけだし……」
「そうじゃないの! マスタァの動きだと、力があっても駄目なものは駄目なの!!」
「……難しいな」
使いこなしていると思っていた。だが剣を扱うのはそういうことじゃないらしく、フィーサからは不満の連発ばかり。敵に関しては広域スキャンのおかげもあって、事前に敵のいる位置が分かるが――
「遅~い!! 力だけじゃ使いこなすと認めるわけにはいかないの!」
「そう言われてもな……」
「イスティさまを完璧な剣士と認めるにはすごく時間がかかりそうだけど、その分一緒にいられるから許してあげるなの!」
「努力するよ。はは……」
完璧な剣士になるとか、それも魔石による試練がありそうだな。麓から進んで来ただけの洞窟は、シーニャの働きのおかげで大した魔物に出遭ってもいない。シーニャは嗅ぎつけを使って、おれよりもずっと先の方で戦っている。張り切って魔物を倒し続けている模様だ。
「そう言えばイスティさま!」
「どうした、フィーサ?」
「あの虎娘は自らを眷属と言っていたけれど、手懐けたということならイスティさまはテイマースキルを覚醒させたはずなの! 魔石にもそれが現れているはずなの~」
「テイマースキル?」
「間違いないはずなの! そうじゃなきゃ、虎娘専用の装束が出るはずないもん」
フィーサに言われるがままに魔石を手に取る。
魔石から見える魔法文字《ルーン》には――
【アック・イスティ テイマースキル Lv.1】
【ビーストテイマー 習得】
なるほど。色んなスキルが覚醒しまくってる。スキル上げにはだいぶ時間がかかりそうだけど。
「フィーサの言った通りだった。スキルが覚醒してたよ」
「ほらほら、やっぱり! イスティさまはたくさん覚えられると思うの!」
「スキルを?」
「そうじゃなくて、剣士にもテイマーにもなれるし限りが無いと思うの~!」
今の時点では拳の力だけが突出。悪く言えば、どっちつかずの状態ということ。
「おれはジョブなしだからね。何にでもなれるといえばなれるかな」
「イスティさまの魔石から出せる物も、きっと常に変化していくよ~」
変化と言えばシーニャ向けのアイテムが出たのもその一つ。もっとも、おれが望んだものが出ているわけじゃない。それがスキル変化で変わるとしたら、意図的に欲しい物が出せるようになる可能性が。その為にも所持金は余裕を持っておきたいところだ。
「アック~! こっちに来て欲しいのだ!!」
ん?
シーニャの声が聞こえたか。
もしかすれば、山の洞窟の終わりが見えてきたかもしれないな。
「イスティさま! 虎娘を手懐けたのはいいとしても、呼び捨ては許せないなの!」
「強制的に呼ばせるつもりはないからね。シーニャが呼びやすいようにさせるよ」
「む~~!!」
「とにかく、シーニャのいる所に進もう」
不貞腐れながらもフィーサは鞘に収まってくれた。その足で進むと、どこかに向かって指差しているシーニャの姿があった。
「ウニャ! アック、ここ山の頂上! これ以上行けないのだ。シーニャ、空飛べない」
「ん?」
「でも景色いい! アック、気に入る!」
これはとんだミスだ。広域スキャンで魔物のいる場所は確実に掴んで来たつもりだった。しかし肝心の道に関しては一切気にせず、ひたすら先に進んでいただけ。それほど複雑な洞窟でも無かったことで横穴を気にすることも無かったが、裏目に出た感じだ。
その結果が行き止まりの頂上とは思いもしなかった。シーニャの言うように視界には見事な雲海が広がっていて、地上までどれくらいの高さなのかさえつかめそうにない。景色を見るために登って来たわけじゃないだけにこれはショックだ。
「イスティさま、テイマースキルを使うのもありなの!」
「へっ? いや、シーニャにしてもおれにしても、ここから駆け降りるのは厳しいだろ……」
「虎娘にじゃなくて、テイマースキルをここで使って欲しいなの!」
「……こんな所で?」
「イスティさまは竜を呼んだことがあるはずなの。それを使ってスキルを試すのも手なの!」
そういや限定召喚でそんなことがあったな。あの時はおれ自身が竜になっていてその時の記憶がまるで無いが。しかし何か呼んでみるのも手ではある。今さら来た道を引き返すのも厳しいし。
「ウニャ? アック、何をするのだ?」
「シーニャ、そこから離れておれの後ろに下がっていてくれ!」
「分かったのだ!」
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