テラーノベル
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1時間目のチャイムが鳴り終わった瞬間、教室内が沸騰したような騒ぎになった。
私の机には、女子も男子も関係なくクラスメイトが押し寄せてくる。
「ちょっと向日葵! さっきの角名くんの投稿、マジなの!?」
「えっ、あ、あれは……」
「攻略完了って何!? いつから付き合ってたのよ!」
質問の嵐に、私は溺れそうになる。
正直に「嘘だよ」と言いたいけれど、角名くんの「動画バラ撒く」という言葉が頭をよぎって、声が出ない。
その時。
人混みを割るようにして、長い脚が私の視界に入った。
「……どいて。邪魔なんだけど」
低い、温度のない声。
角名くんが、自分の席(窓際の後ろ)からわざわざ歩いてきて、私の机に腰を下ろした。
「あ、角名……! お前、向日葵ちゃんとマジで付き合ってんのか?」
男子の一人が恐る恐る尋ねると、角名くんはスマホを弄っていた手を止め、ゆっくりと顔を上げた。
「……見ての通りでしょ。……ね、向日葵」
彼はそう言うと、私の椅子の背もたれに腕を回し、私を自分の体の方へ引き寄せた。
クラス中の視線が突き刺さる。あまりの恥ずかしさに俯こうとしたけれど、角名くんの指が私の顎をクイッと持ち上げた。
「……逃げないでよ。俺の彼女でしょ」
「……角名くん、みんな見てるから……っ」
「……見てればいいじゃん。……俺が向日葵を可愛がってるところ」
角名くんはニヤリと底意地悪く笑うと、私の髪を一房指に絡めて、鼻先に寄せた。
くん、と匂いを嗅ぐような仕草。
あまりに親密で、あまりに独占的なその行動に、教室内から「ひえっ……」と小さく悲鳴が上がる。
「……いい匂い。……今日、部活終わるまで待っててね」
「えっ、でも私、今日は図書当番が……」
「……図書室、俺も行くから。……二人きりでしょ? ちょうどいいし」
彼は私の耳元に唇を寄せ、周囲には聞こえない小さな声で付け加えた。
「……あいつら、まだ疑ってるよ。……もっと、演技しなきゃね?」
耳たぶに触れる彼の吐息が、熱くて、くすぐったい。
演技という名目の、公開処刑。
彼は周囲の反応を楽しみながら、着実に私の「退路」を断っていく。
スマホのシャッター音が、またどこかで鳴った。
それは、クラスメイトが撮ったものか、それとも角名くんが自撮りしたのか。
どちらにせよ、私はもう、彼が作った「檻」の中から出られなくなっていた。
放課後の図書室。放たれた窓から入り込む夕日が、書棚の影を長く伸ばしている。
図書当番の私は、カウンターで本の貸し出しカードを整理していた。
「……ねえ、向日葵。こっち向いて」
不意に名前を呼ばれ、顔を上げると。
カウンターのすぐ向こう側に、角名くんが肘をついて私を覗き込んでいた。いつの間にか、スマホのカメラが私に向けられている。
「あ、角名くん。……また撮ってるの?」
「……うん。当番頑張ってる向日葵、可愛いから。……保存しとく」
彼は悪びれもせずにシャッターを切る。
周囲に他の生徒はいない。二人きりの空間。私は少し勇気を出して、ずっと気になっていたことを口にした。
「……あの、角名くん。偽装彼氏の件だけど、教室であんなにベタベタしなくてもいいんじゃないかな? 田中くんたちも、もう諦めたみたいだし……」
角名くんの手が止まった。
彼はゆっくりとスマホを机に置くと、カウンターを乗り出すようにして、私の顔に自分の顔を近づけた。
「……諦めた? ……向日葵、甘いよ」
「えっ?」
「……あいつら、まだ隙を狙ってる。俺がいないところで、また向日葵に話しかけようとしてるの、気づいてないでしょ」
低い、底知れない声。
彼は私の手首をそっと掴み、自分の指を絡ませた。
「……だから、ルール追加ね」
「ルール……?」
「……俺がいないところでも、他の男と二人きりにならないこと。……それと、連絡先は教えない。……いいね?」
それは、偽装の範囲を大きく超えた「束縛」だった。
私が戸惑って言い返そうとすると、角名くんは空いた方の手で私の唇をそっと押さえた。
「……演技なんだから。……完璧にやらないと、バレるよ?」
そう言って、彼は意地悪そうに目を細める。
でも、唇に触れる彼の指先は、驚くほど熱くて。
「演技」という言葉を、彼自身が一番便利な道具(言い訳)として使っているのがわかった。
すず
2,246
🏳️⚧️ちべ🕶️
「……ほら、これ。お揃いのストラップ」
彼がカバンから取り出したのは、スマホにつける小さなチャームだった。
「……これつけて。……俺の持ち物だって、一目でわかるように」
渡されたのは、彼の瞳と同じ、深い色の石がついたチャーム。
守ってもらうための契約だったはずなのに。
気づけば私は、彼のレンズの中に、そして彼の「独占欲」の中に、一歩ずつ引きずり込まれていた。
コメント
1件
お揃いのストラップっ、、 独占欲やば、、