コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その瞬間、空気が少し変わった。
ロディの微笑みが、ほんの一瞬だけ――揺らいだのだ。
ルイズはその表情に気づき、思わず息を呑む。
(……ロディ、なんであんな顔するんや……?)
いつもは穏やかで、どこか掴めない笑顔を見せるだけのロディ。だが今、瞳の奥に沈んだ影があった。怒りでも悲しみでもなく――もっと深く、静かな痛みのようなもの。
「……なんや、そないな顔すんの」
ルイズは小さくつぶやいた。声に震えはないつもりだったが、手の先が少しだけ震える。
ロディは、振り返らずに廃教会の奥を見つめる。
壁のひび、散乱した瓦礫、埃に覆われた十字架――それらすべてが、彼の過去を呼び覚ますようだった。
その目がわずかに潤んだように見えた瞬間、ルイズは思った。
(……こんなロディ、初めて見た)
静寂の中、蝉の声だけが耳を刺す。
二人の間に言葉はなく、ただ時間だけがゆっくりと流れた。
ロディは深く息をつき、ようやく口を開く。
「……お前、信じとるか、神様」
その問いに、ルイズは咄嗟に首を傾げた。
「……何を急に、ほざいてんねん」
でも、ロディの声にはただの疑問ではない、重さがあった。
かつて人間であった彼が、死と人外としての生を経てなお抱え続ける痛み――それを、ルイズは初めて肌で感じた。
その時、教会の奥からかすかな物音がした。
瓦礫が微かに崩れ、影がゆらりと揺れる。
「……誰や」
ルイズは耳をすませ、身構える。
ロディはゆっくりと立ち上がり、静かに歩み寄る。
微笑は消え、目だけが暗く光った。
「……お前と一緒に過ごせる夏は、もう……あと少しだと思う」
ルイズはその言葉を聞き、心臓がきゅっと締め付けられるのを感じた。
だがまだ――何があと少しかは、理解できなかった。
教会の奥で、再び瓦礫が崩れる音。
影がこちらに近づく。
二人は息をひそめ、夏の夜の冷たい空気に身を震わせた。