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容疑者ギャンビットの事情聴取を終えた探偵
ナイト•クラウンは女王ロカの元へは戻らず
そのまま次の容疑者ルーク•グリッツファーの 元へと向かった。
【バルザード十二世毒殺事件】の
計画犯はまだ見つかっていない。まだ確定していない情報を嬉々として話せば女王ロカの
怒りを買い、拷問の後処刑され
今日の王宮内の晩餐に
【マカロンお手製ナイト•クラウンの
尻肉のシチュー】
が並んでもなんら不思議ではなかったからだ。
(…….はぁ……、いつになれば私は解放されるんですかねぇ……..。)
昨日殺伐とした王宮に連れてこられ殺伐とした お茶会に参加し、女王ロカのパワハラを受けながら情報を集めるため奔走し、マカロンの肩をもみ、証拠品の涙をついたハンカチを集め、 【シトラス王国の心臓】と謳われるギャンビットと戦い疲労困憊のナイト•クラウンはそう 頭の中で弱音を吐いた。
【ルーク•グリッツファーの仕事部屋にて】
「条件次第で、君をこの王宮から解放して
あげよう。」
机に置かれた夥しい量の仕事の山を、算盤と
ペンをとてつもない早さで動かしてみるみる内に片付けながら、ルーク•グリッツファーは ナイト•クラウンの顔も見ずに提案した。
「……..あっははーそう言っていただけるのは ありがたいんですがねぇ、私は奴隷から女王 陛下に拾われた身ですのでねぇーむしろ女王陛下には感謝してるんでさぁーよー。」
ナイト•クラウンはそうやって誤魔化そうと
した。ナイト•クラウンの言葉自体に嘘はない。女王ロカに闘技場で命を見逃してもらった絶大なる恩を、この事件を解決することで返そうと探偵騎士ナイト•クラウンは考えていた。
それと同時にナイト•クラウンはルーク•グリッツファーの真意を読み取ろうとした。だが、 ルークが顔を伏せ、声もまるで感情がないように平坦だったため、その真意は読み取れなかった。
(何だ….この男….何が目的だ…..?)
ナイト•クラウンは激しい動揺を悟らせまいと 必死でポーカーフェイスを装った。
「…..ちょうど休憩時間だ。」
先ほどまであれだけ大量にあったはずの夥しい量の仕事の山を全て片付けたルーク•グリッツファーは一度手に持つ懐中時計に目を
向けてから、探偵ナイト•クラウンに顔を、向けた。
「10分だけ話をしよう。」
《迅速にして精密なる算盤》
《瞳の中の王》
「私は、合理的に考えて六年前の
【バルザード十二世毒殺事件】の計画は
ロカ女王だと推測している。
推測の根拠はいくつかあるが
一番の理由は、この一連の事件で一番
得をした人物はロカ女王だったからだ。」
効率良くマカロンお手製ハチミツレモンを
摂取し、 カチカチとなる時計を見ながら
容疑者ルーク•グリッツファーは言った。
ナイト•クラウンはあえて大げさに驚き
更に情報を引き出そうとした。
「まさか……..女王様を疑っているんですかい?」
わざとらしく発汗し、無能を装った。
ルーク•グリッツファーは続けた。
「女王陛下ならやりかねない。なぜなら
女王陛下は当時、【バルザード十二世毒殺事件】の容疑者である私の右目をえぐり、妻と
まだ三歳だった娘を目の前でなぶり殺すほどの 残虐性を秘めているからだ。君は二日
しか女王陛下と行動をともにしてないけれど、その残虐性は嫌と言う程知っているだろう?」
そうやってルーク•グリッツファーは右目に
手をあて、自分の右目のガラス製の義眼を
取り出した。
彼の一連の言動、行動は全て計算づくである
ようにナイト•クラウンは感じた。
ナイト•クラウンはうーんと言ってこれまでの 女王ロカの邪知暴虐っぷりを思い返した。
【女王ロカのパワハラ回想タイム】
( ………あっっっりえやすねぇ。)
ナイトクラウンは心の中で冷や汗をかいた。
ナイト•クラウンはこれでもそこそこの事件をそこそこの量解決してきた探偵だった。
ナイト•クラウンはその経験から当然、
女王ロカがこの事件の真犯人である可能性も
考慮していた。ナイト•クラウンを利用して
邪魔な臣下を抹殺しようと企んでいる可能性も、女王ロカが多重人格者である可能性も、
当然ナイト•クラウンは検討していた。
しかし、ナイト•クラウンは女王ロカの忠実なる探偵騎士、騎士として女王を疑うようなことは極力しないようにしていた。もし、少しでも 女王陛下を疑おうものなら女王ロカの怒りを かい、最悪尻肉のスープにされかねないから である。
(それにしても…..ルーク様はとてつもなく
女王陛下を恨んでいるようでさぁねぇ。)
ナイト•クラウンは正直女王ロカの蛮行に
ドン引きしていた。
この間十秒である。
(いや……待てよ。)
ナイト•クラウンは心の中で冷や汗をかいた。
(なぜ、ルーク様は私達が二日前に出会ったことを知っているんだ……?)
冷静に、冷徹に、左目でナイト•クラウンは
表情を読み取っていたルークはその疑問に
答えた。
「なぜ君たちがいつ会ったかを把握してるか
考えているのだろう?……別に間者を使うまでもない。昨日のお茶会の後、城内にある全ての 帳簿を部下達に調べさせ、君と同じ身体的特徴のものがいなかったか調べたまでだ。その中に君の身体的特徴と合致した人間が女王陛下の 快楽部屋に運ばれていた記録が残っていた。
以上のことから合理的に考えて、君は二日前に女王ロカに拾われた間者、もしくは密偵であるというのが私の考えだ。」
休憩中にも関わらず、なぜかまた大量に積まれた仕事の山を高速で処理しながら、
ルーク•グリッツファーは言った。
(…….これじゃ、どっちが探偵かわかりやせんねぇ…….。ってかなんでこの人は
休憩中に また仕事してるんですかぃ…….。)
と、探偵騎士としての完全敗北を
頭の中で認めた。
しかし、ナイト•クラウンは腐っても女王陛下の忠実なる探偵騎士。少しでも多くの情報を 持ち帰るために再び思考を巡らせた。
「…….ルーク様のおっしゃる通りでさぁ。
私は女王ロカ様に探偵として雇われ、
【バルザード十二世毒殺事件】の真犯人を
調査してるんでさぁ。取り調べのためいくつか質問をさせていただいてもよろしいですかぃ?」
そうやってナイト•クラウンは、ルークに
正直に自分の素性を白状することにした。
ルーク•グリッツファーは
「構わないよ。」
と冷ややかに言い、右目の義眼を戻しながら
「まだ時間はおよそ9分もあるからね。」
と冷ややかに微笑した。
ナイト•クラウンは
(クール系……これはこれでありでさぁねぇ。)
とホモの一面をほんの一瞬あらわし、そして
すぐ引っ込めた。
「 ルーク様はバルザード十二世様のことを
どのように思ってらっしゃったんですかぃ?」
ナイト•クラウンは容疑者ルークに
犯行動機の有無を確認した。
ルークは目を瞑り、三秒思考した。
「このようなことを言うのはあまり合理的ではないが。」
と前置きし
「私にとって陛下は光そのものだった。」
《算盤と王》
【以下、ルーク•グリッツファーの回想】
「陛下と出会う前、私はとある地方領主の
召使いとして財政管理を任されていた。
そこで私は不合理な重税、不合理な帳簿の改竄、余計なパーティーなどの 不合理で不必要な予算に呆れながら 地方領主の召使い、ありていに言えば使い捨ての算盤である私がそのような思考を持つことは 不合理であると結論付け、黙々と業務に取り組んでいた。」
机の上の山積みの書類を迅速に処理しながら
ルーク•グリッツファーはそう言った。
ナイト•クラウンはルークの感情を
推察しようとしたが、すぐに無駄であると
判断し、ルークの話を聴き続けた。
「そんな暗い生活を変えてくれたのは陛下だった。」
「『聞いたよ、ここにものすごく計算に強い
召使いがいるんだってね。』
当時皇太子であった陛下は私にそう言った。」
「そして陛下は私をあの薄暗い生活の中から
連れ出してくれた。」
「あの日からずっと、陛下は私の光だ。」
そしてルークは30秒ほど顔をあげ、黙っていた。
ナイト•クラウンはその様子を、まるで
ルークがバルザード十二世との日々を思い出しているようだと思った。
「私は陛下の右腕として、国の改革に邁進した。陛下の描く理想を私の頭脳で実現しようと 何度も、何度も心に誓った。」
「誤算だったのは」
ぼとり、とルークの義眼が机へと落ちた。
「陛下が女王ロカに出会ってしまったことだ。」
《誤算》
「女王ロカには全ての男を惑わす魔力が
あった。」
冷ややかに、ルークは語り出す。秒針は
カチ…..カチ…..。と針を刻み、ナイト•クラウンとルークが話し始めてから3分が経っていた。
「その美貌からなのか、フェロモンなのか、
声なのか……原因は定かではない。女王陛下の色香に当てられた男どもは悉く女王陛下に
発情し、狂い、籠絡させられた。
危険だ….。
と私は判断した。私は速やかに私の部下達に
男性器を切除するよう命じ、無論私も
自らの男性器を自らナイフで切り取った。
おそらく陛下も、女王陛下のもつ色香に当てられたのだろう。何度も、何度も女王ロカと結婚する危険性を説いたにも関わらず。決して聞き入れてはもらえなかった。
……..あの女は劇毒だ。」
【回想終了】
ナイト•クラウンはルークの言葉のわずかな
震え、そして『あの女』という言葉から
抑えきれないほどの怒りを感じ取った。
それと同時に、ナイト•クラウンに気を許した こと、あるいはそのように見せるよう計算していることを読み取った。
(さて…..ここからが交渉の時間ですかい。)
ルークは懐中時計を見た。ルークとナイト•
クラウンが話始めてから四分が経過していた。
「…….以上のことを踏まえて君に二つ頼み事 がある。」
ルークが言った。
「事件から手を引け、あの女は危険だ。」
その言葉に一秒も間を置かずに
「お断りしやす。」
とナイト•クラウンは言った。
「なぜだ。」
と、ルークは尋ねた。
「私は女王陛下の忠実なる騎士ですので。」
そう言ってナイト•クラウンは深々頭を下げた。
ナイト•クラウンの言葉には嘘はない。
だがナイト•クラウンの言葉にはもうひとつ
真意が含まれていた。
ナイト•クラウンは女王ロカの忠実なる
探偵騎士である。
事件を前にして逃げる探偵などこの世の
どこにも存在しない。
「…..そうか、合理的な判断だ。」
目をつぶり、冷ややかにルークは言った。
「ではもう一つの頼みだ。」
そう言ってルークはナイト•クラウンに近づき 耳元で何かを囁いた。
ルークが話終えるころには七分が経過していた。
「………..分かりやした、引き受けやしょう。」
そう言ってナイト•クラウンは再び頭を下げた。
そうしてナイト•クラウンはこれ以上ルーク
から情報を引き出すことはできないと悟り
ナイト•クラウンは三度頭を下げ
ルークの仕事部屋を去った。
ナイト•クラウンが去った後
ルークは顔に手を当て
フー、と大きなため息をついた後、
二分程仮眠をとった。
【推理タイムまとめ】
•ルーク•グリッツファーはバルザード十二世
に忠義を感じている。それと同時にルークは
女王ロカにとてつもない恨みを持っている。
•ルークからの頼みは何が何でも完遂しなければならない。
【推理タイム おわり】
ルーク•グリッツファーの仕事部屋から出た
ナイト•クラウンは最後の容疑者、バルザード十一世の元へと向かう。シトラス王国の王と
1対1で面会する。その重責に、緊張感に、
ナイト•クラウンの足取りは重くなる。
(……っと、いけねぇいけねぇ、深呼吸、深呼吸。)
ナイト•クラウンは息を整え、身だしなみを
整え、そしてシトラス王国の作法にのっとり
王の間の扉を開く。
(しっかし我ながら、八面六臂の活躍でさぁねぇ。)
面がいくつあっても、尻がいくつあっても、
命がいくつあっても足りなかった。
(はてさて、鬼が出るか蛇が出るか。)
かくして、探偵ナイト•クラウンは
最後の容疑者 バルザード十一世と対峙する。