紛糾する会議の中、今まで静かに成り行きを見守っていた目黒が、ぽつりと呟いた。
「…でも、やっぱり…。最終的には、二人が二人で解決するしかないんじゃないかな…」
その言葉に、ラウ-ルも静かに頷く。
「そうだよ…。僕たちができるのは、あくまで、二人が話し合いやすい環境を作ってあげることだけだと思うから…」
正論だ。誰もが、心のどこかでそう思っていた。しかし、深澤が現実的な問題を突きつける。
「でも、仕事に穴は開けられないだろ?このままの状態で、ツアーとか始まったらどうすんだよ」
「…たしかに」
阿部も、その懸念には同意せざるを得ない。グループとしての活動に支障が出るのだけは、絶対に避けなければならない。
議論が振り出しに戻りかけた、その時だった。今までお菓子をもしゃもしゃと食べていただけに見えた佐久間が、バンッ!とテーブルを叩いて立ち上がった。
「でもさぁ!理屈じゃないじゃん、こういうのって!二人の仲が悪いのは、絶対ダメだって!ファンのみんなを不安にさせちゃうしさ!?」
佐久間は、熱く語る。
「俺たちは、9人でSnow Manなんじゃないの!?誰か二人が気まずいままなんて、そんなの、俺は絶対やだ!」
そのあまりにもストレートで、純粋な叫び。
「…そうやけど…」
康二も、その気持ちは痛いほどわかる。わかるからこそ、どうすればいいのかが分からないのだ。
慎重派と、行動派。
現実派と、感情派。
平行線の話し合いに、一向に解決の糸口は見えてこない。7人の会議は、夜が更けるのも忘れ、ただただ時間だけが過ぎていった。
議論が完全に手詰まりになった、その時だった。
今まで黙って腕を組み、メンバーたちの意見を聞いていた岩本が、静かに、しかし、有無を言わさぬ声で言った。
「…全部、やる」
「「「「「「え?」」」」」」
7人の声が、綺麗にハモった。
岩本は、ホワイトボードの前に再び立つと、ペンを走らせ始めた。
「まず、康二と目黒の意見。これは正しい。最終的に、決着をつけるのは、涼太と翔太、本人たちだ。俺たちが、無理やり答えを出させるべきじゃない」
岩本は、康二と目黒の顔を見て、一度頷く。
「だが、佐久間とふっかの意見も、もっともだ。このまま放置すれば、グループに影響が出る。ファンを不安にさせる。それは、絶対に避けなきゃならない」
今度は、佐久間と深澤の方を向く。
「だから、全部やるんだよ」
岩本は、ホワイトボードに書かれた【作戦名:想い出の場所(エモ)で語り合え大作戦】の文字を、力強く丸で囲んだ。
「俺たちの役目は、ラウールと阿部が言った通り、『環境作り』だ。二人が、本音で向き合わざるを得ない状況を、俺たち7人で作る。けど、無理強いはしない」
岩本は、ペンを置くと、全員の顔をもう一度、見渡した。
「俺たちが用意したステージで、話をするか、しないか。そこで、どんな答えを出すか。それは、全て、二人に委ねる。もし、それでも二人が今の関係を選ぶなら…俺は、リーダーとして、それを受け入れるしかない」
それは、苦渋の決断だった。
「でもな」と、岩本は続けた。
「俺は、信じてる。あいつらが、この9人でいることを、ファンのみんなを、一番に考えてるってことを。そして、何十年も一緒にいた、お互いの存在のデカさを、忘れるほど、馬鹿じゃないってことを」
その言葉には、リーダーとしての、そして、仲間としての、揺るぎない信頼が込められていた。
さっきまでの喧騒が嘘のように、楽屋は静まり返っていた。誰もが、岩本の言葉を、自分の心の中で反芻していた。
やがて、深澤が、ふっと笑った。
「…ほんと、敵わねぇな、お前には」
その一言を皮切りに、佐久間が「よっしゃー!やるぞー!」と拳を突き上げ、康二が「せや!やるしかないな!」と続く。
「僕も、やります!」
「…うん、信じよう」
「全力で、サポートします」
7人の心が、ようやく一つになった瞬間だった。
作戦決行日は、三日後。
本人たちには「オフ」とだけ伝え、何も知らせずに、その場所に呼び出す。
Snow Manの、Snow Manによる、たった二人のためのステージ。その幕が、静かに上がろうとしていた。
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頑張れ~!!
