一方、7人による白熱の対策会議が行われている、まさに同じ時間の夜。
宮舘は、自室のベッドの上で、スマホの画面をただじっと見つめていた。連絡先アプリを開き、指は何度も、ある名前の上をなぞっては、止まる。
『渡辺 翔太』
「プライベートでは、もう関わらない」
自分で言った言葉だ。その言葉に、嘘はない。はずだった。
しかし、あの日以来、頭の中から渡辺の、あの涙がこびりついて離れないのだ。自分が放った言葉で、完全に心を閉ざしてしまった宮舘の姿を見て、絶望に顔を歪ませていた、あの顔が。
(…あいつは、本当に、俺のことなんかもうどうでもいいと思っているのか?)
確かめたい。でも、怖い。
どれくらい時間が経っただろうか。宮舘は、意を決して、通話ボタンを押した。数コールもしないうちに、電話は繋がった。
『…もしもし』
電話の向こうから聞こえてきたのは、ひどく掠れた、力のない渡辺の声だった。
「…翔太。夜分にごめんな?」
『…なに』
その声は、壁を作っているのがありありと分かった。
「いや…別に、大したことじゃないんだけど…。明日の仕事のことで、少し、確認しておきたいことがあって」
咄嗟に出たのは、そんな当たり障りのない、ビジネスライクな口実だった。本当は、声が聞きたかっただけなのに。元気なのか、知りたかっただけなのに。
『…ああ。あれ、マネージャーに聞けばいいだろ』
「…そう、だな。ごめん、忘れてた」
会話が続かない。電話越しに、重い沈黙が流れる。宮舘は何かを言おうとして、やめた。渡辺も何かを言いたげに、息を吸う音が聞こえたが、結局、言葉にはならなかった。
『…他に、用がないなら、切るぞ』
「…ああ」
『じゃあ』
プツッ、という無機質な音と共に、通話は切れた。後に残ったのは、虚しい沈黙と、自己嫌悪だけだった。
(…やっぱり、ダメか)
宮舘は、スマホをベッドに放り投げ、天井を仰いだ。
同じ月を見上げているはずなのに、二人の心は、今までで一番、遠く離れていた。本人たちだけの力では、もう、どうにもならないところまで、こじれてしまっている。
そのことに、二人とも、まだ気づいていなかった。
コメント
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うわ~!頑張ってくれ(T-T)