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「よおおおし! しゅつげええええき!!」
『うわああああん!!』
完全にヤケクソなピアーニャの命令に応え、ツーサイドアップ派の面々が半泣きで叫んだ。ちなみに泣いている半数以上がレジスタンスである。
コロニーであるトランザ・クトゥンの外で、沢山の住人やソルジャーギア隊員に恐れおののかれながら、その大きな体は動き出した。
「……なぁ、やっぱりあきらかに、ラスィーテでだしたときより、おおきいよな?」
「あ、分かりますー? うふふ」
「うふふじゃないが!?」
肩の近くにある雲の上で、ピアーニャは頭を抱えていた。
以前ラスィーテでミューゼが出したウッドゴーレム。それが倍ほどの大きさになっているのだ。ヨークスフィルンの事件以降、成長著しいのはシーカーとしても喜ばしい事だが、その規模がおかしいのだ。
さらに枝と葉を頭部からうまく生やし、ツーサイドアップの髪型を表現している。まるで派閥の偶像や神像とも思えるようなその堂々とした風貌に、ツーサイドアップ派の面々は逆らう気が起こらず、普段は荒っぽいフーリエすらも泣きながら大人しく従っているのだった。
(コイツ、アリエッタがスキすぎて、ウミでへんなカクセイしたことがあったが、ゼッタイそれだけじゃないだろ。ナニがおこってるか、いちどゼッちゃんにみてもら……あ)
出会ってからこれまでのミューゼの異常な急成長に不信感を覚えたピアーニャは、いっそ神様に診てもらったほうが良いかと考えている最中に、その可能性に思い至った。
(そうだ、コイツはアリエッタにイチバンすかれてるんだった! そりゃどうなっても、おかしくないかもしれん!)
そう考えると、パフィにも何か起こっていてもおかしくない。目立った事はしていないので、今のところ不明だが。
(まるでモノガタリの、カミのシュクフクってやつみたいだな。むしろそうかんがえるほうが、ナットクできるような……あっ…………いやいや、まさかそんなことは……うん、ありえない、わちまでつよくなるなんて、あってほしくない、かんがえないようにしよう!)
アリエッタとミューゼの関係から考察した時、ピアーニャにとって考えたくない結論にたどり着きかけた。慌てて頭を振って考えを祓ったピアーニャ。後日イディアゼッターに確かめてもらう事にして、今は目的を達成する事が大切である。
その目標とは、ツインテール派との話し合い。クォンの騒動が落ち着いた後、まずはどうやって全員でブロント・エンドという隣のコロニーまで行ってツインテール派を探すか…という話になった。その時にミューゼが提案したのが、ゴーレムを使った挑発を兼ねた移動であった。こんな大きなツーサイドアップを見せれば、ツインテール派は反応せざるを得ないという、エンディアのお墨付きも貰っている。
エンディアを無理矢理額に埋め込んだのは、人質という意味合いもあるが、無関係な人々に「これはツーサイドアップ派の陰謀です」と知らしめる為の作戦でもあった。酷いスケープゴートである。
「これだけ目立てば、あっちからも出てくるでしょ」
「そうなったら、あとはハナシアイでたたきおとせばいい」
「え…ぇえっと、それ話し合いなんですかね?」
先程まで暴れていたとは思えないくらい大人しいクォン。それにはもちろん理由がある。
肩や手に乗らずに雲に乗って移動しているのは何故か。その理由はウッドゴーレムの頭部にあった。
「タスケテ……タスケテ……」
ウッドゴーレムの額の部分でブツブツと呟き続けるエンディア。後ろで縛られるように手足が額に飲みこまれており、悩ましいボディを思いっきり前に突き出している。その上、頭頂ではフーリエが泣きながらエンディアを励ましている。こちらは拘束されていない。そしてそんな事になっているリーダーを助けたいがために、ツーサイドアップ派が泣きながら従っている。
クォンがこの傍若無人っぷりに慣れるには、まだ日が浅いのだ。
「よーし、ブロントってコロニーまでいくよー。まっすぐ走れー」
ミューゼの指令に応え、巨大ウッドゴーレムが歩き出す。当然大きく揺れるので、頭の上でフーリエが泣きながら舌を噛んでいるが、だれも助けに入れない。接待役だったイケメン達も、出発前に近くにいたソルジャーギア隊員からクビを言い渡されて凹みながらも、ツーサイドアップ派としてついてきていた。
(あ、レジスタンスもまざったままか。まぁいいか。いたところで、かわりないしな)
やたらと際立つようになったエンディアの胸部の揺れを見た時に、レジスタンスがいた事を思い出したピアーニャだったが、特に脅威と感じる事もなく、現状維持を決め込むのだった。
そして出発と同時に、クォンがエンディアを見てから、神妙な顔でミューゼに話しかけた。
「な、なんか千切れそうなほど揺れてるけど……パフィさんとどっちが大きいかな?」
「まじめなカオでナニいってんだ?」
それ今話す事か?と、ピアーニャがツッコむ。
しかしミューゼが真剣に答えてしまった。
「ギリギリ、パフィが上ね。あのバケモノの比較対象になれる程の実力は賞賛に値するけど」
「おまえもナニをいってるんだ?」
「これまで会った中でパフィといい勝負が出来るのは──」
「そんなコトどーでもいいわ! それそんなにジュウヨウか!?」
『はい』
「ゼンインでコウテイするなっ! わちがオカシイみたいになるから!」
ミューゼとクォンだけならまだしも、エンディアとフーリエ、周囲のツーサイドアップ派からも肯定された。
「ってゆーか! オマエさらされてるんだぞ!? なんでオマエがワレにかえってまで、コウテイしてるんだ!」
「すっ、すみませんっ。磨き上げたこのボディこそが、わたくしの自慢ですので……」
「ドリョクのセイカなら、わからんでもないが。まわりのオトコたちから、すっごいメでみられてるぞ?」
「あ、はい。とても幸せです」
「ダメだこいつ……」
「本当に痴女なんだ……」
「みたいですね……」
「でもお触りは禁止です」
「どーでもいいわ!」
「あっ、でもどうしましょう。これでは触られても抵抗出来な──」
「いいからもうだまれっ」
そんな見られたがりなツーサイドアップ派のリーダーは、樹に埋め込まれた恐怖をすっかり克服し、飾られて見られる快感を次の段階へと進化させようとしながら、顔を赤らめる。
こんなお子様に悪影響を及ぼしそうな姿を見て、この場にアリエッタがいなくて良かったと、心底安堵するピアーニャであった。
「これ、ピアーニャちゃんの教育に悪いかも」
「おいこらミューゼオラっ」
途中、ミューゼがピアーニャにぽこぽこ殴られたり、ナニかに我慢できなくなった周囲の男がエンディアに突撃して、フーリエに撃墜される等といった些細な事が何度かあったが、ついにブロント・エンドというコロニーが見えてきた。
「……トランザとあんまり変わらないですね。期待外れかも」
「えっ、ミューゼさん何を期待してたの?」
実はミューゼは、トランザ・クトゥンとその周辺が四角だらけだったので、ブロント・エンド周辺は球体でいっぱいだといいなーと勝手に期待していたのである。
「ナニをキタイしていたのかはしらんが、ツインテールはのハンノウをまつぞ」
ツーサイドアップ派はツインテール派のリーダーを知らない。当然拠点も不明のまま。しかしブロント・エンドにあるという事だけは突き止めているので、そこを避けてトランザ・クトゥンに拠点を構えていたのだ。レジスタンス同士でも、その辺りの情報はお互い漏らしてはいない。
「え? 探しに来たんじゃないんですか?」
コロニーが見える位置で停止し、待つという。やるなら拠点を探しに行くべきと考えていたクォンは、首を傾げた。
「いやオマエ、こんなモノがマチナカあるいてみろ。いろいろこわれるぞ」
「そういえばそうですね……」
「それに、そのためにゴーレムのカミガタを、ツーサイドアップにしたんだ。テキタイしてるなら、カクジツにでてくるだろ」
「上手くいきますかね?」
「モンダイない。ここにもソルジャーギアがあるからな。ダレかでてきたら、ツインテールはをあぶりだせとキョウハクすればいい」
「脅迫!?」
周囲のツーサイドアップ派達は納得した。それに、こんな巨大なツーサイドアップ像を見せつければ、相手に自慢…もとい優位に立てる事間違いなし。
(この勝負、勝てる!)
「ん?」
何故かツーサイドアップ派全員が勝ちを確信したところで、コロニー内で動きがあった。
少し開けた区画で、何やら大きな物が蠢く。そしてだんだんと膨らんでいく。
「ちょっとまて、おかしいな。アレはシカクじゃない……」
ピアーニャが最初にその事に気が付いた。サイロバクラムでは生き物や特殊な加工をしない物質は、直角を維持し、立方体や直方体になるのだ。しかし、蠢いている物体は曲線を描き、自由に形を変えながら大きくなっている。
そしてそこからたどり着く結論は、限られている。
「他のリージョンの誰かがあそこにいるって事ですか?」
「それがイチバンありえるな!」
「一体誰が……」
蠢いている物体が何か分からない以上、下手に手を出せない……というのもあるが、トランザ・クトゥンの一部をミューゼが滅茶苦茶にした事もあって、コロニーに直接被害を出す確率を上げるのは避けるべきと思ったのだ。不幸な事故で巻き込んだ場合なら仕方ないよねと言い訳しながら。
物体は波打ちながら、さらに膨れ上がり、所々色を変え、徐々に人の様な形になっていく。
「なにあれ?」
「人?」
「新手のアーマメントか?」
ツーサイドアップ派達もアーマメントを構えながら見守る中、それは完成した。
橙色の全身に、所々青や白の部分もあり、大きさはミューゼの巨大ゴーレムと同じくらい。かなり角ばったフォルムをしているが、人のように二足歩行で動くという事は見た目で分かる。さらに、頭の左右からは長く柔らかい白色が伸び、垂れ下がった。どうみてもツインテールである。
「なんかアレ、すっごくみたコトあるキがするのだが……」
「やだなぁ、そんな訳ありませんって……あはは……」
嫌な予感しかしない、ピアーニャとミューゼ。
そんな2人の為に、クォンが望遠のアーマメントを使い、容赦なく事実を発見した。
「あっ、あんなところにお姫様」
「それは言わないでええええ!!」
現れた巨大な人型の隣、空中に立つネフテリア達を見つけたのだった。
ミューゼが叫び終えると、それに合わせたかのように、パフィの声が響き渡る。ネフテリアが魔法で拡声したのだ。
『出動なのよ! パスタロボ、ツインテイラー!!』
「なにやっとんじゃああああああアイツらあああああ!!」
あまりに酷い急展開に、ピアーニャも絶叫していた。