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#高校生
第10話 「くじが引くもの」夏の大会、抽選会。
会場には各校の主将とマネージャーが集まっていた。
柳城からは――
主将の田村と、マネージャーの舞。
番号札が並ぶ。
静かな緊張。
紙をめくる音だけが響く。
「柳城高校」
名前が呼ばれる。
田村が立ち上がる。
一歩、前へ。
(ここで決まる)
深く息を吸う。
箱に手を入れる。
一枚、引く。
掲示板に貼られる番号。
対戦相手が、決まる。
「初戦――」
一瞬の間。
「筑紫工業高校」
ざわつきが広がる。
中堅校。
だが守備が堅く、試合巧者。
簡単な相手ではない。
田村は掲示板を見つめる。
(逃げ場はない)
隣で、舞が静かに言う。
「決まりましたね」
田村は小さくうなずく。
「勝つしかないな」
その言葉に、迷いはなかった。
グラウンドに戻ると、部員たちが待っていた。
「どうだった!?」
「相手どこ!?」
声が飛ぶ。
「筑紫工業」
田村が答える。
一瞬の沈黙。
「……いいじゃん」
「やってやろうぜ」
声が上がる。
小早川は静かに考えていた。
(守備がいいチーム……)
つまり――
(我慢勝負になる)
そのとき。
「全員、集まれ」
福間監督の声。
円になる。
「相手が決まったな」
短く言う。
「名前で野球するな」
一人ひとりを見る。
「どこが相手でも、やることは同じや」
「守る」
「繋ぐ」
「準備する」
「それを徹底した方が勝つ」
静かな声。
だが、芯に刺さる。
「いいか」
一拍。
「夏は、一発勝負や」
空気が張り詰める。
「一つ負けたら終わり」
誰も動かない。
「だからこそ」
グラウンドを指さす。
「“当たり前”が、命取りになる」
その言葉に、全員がうなずいた。
その日の練習は、いつも以上に静かだった。
声は出ている。
だが無駄がない。
一球。
一歩。
一つのプレー。
すべてに集中していた。
夕方。
小早川はブルペンで構えていた。
ボールを受けるたびに、頭の中で組み立てる。
(初戦……)
(絶対に落とせない)
ミットを叩く音が、鋭く響く。
その頃。
グラウンドの外では、舞がスコアブックを見直していた。
相手チームのデータ。
配球。
打球傾向。
(準備で決まる)
福間監督の言葉を思い出す。
ページをめくる手に、力が入る。
夜。
町は静かだった。
だが柳城の中では、確実に熱が上がっていた。
水郷の夏。
その初戦が、すぐそこまで来ていた。
第10話 終
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