TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する




「――――ふーん、そういうことがあったんだ」

「はい、まあ、話すほどの物ではないかと思って。いざこざ……ただの嫌がらせだったし」


バルコニーにて、私は尋問されるようにこれまでに起こった出来事を話した。ナーダ達とはお茶会をすることはあると話していたけれど、まさかそこで嫌がらせを受けていたなんてソリス殿下が知るはずもなく、その事について洗いざらい話せば、殿下は悲しそうな顔をしていた。そんな顔して欲しくなかったけれど、黙っていた私が悪い。


(いや、悪くないし。私は別に面倒くさいなーなんて思ってただけだし!)


心の中では、そうツッコミを入れているものの、ソリス殿下にとっては幼馴染みの私がこんな風に傷付けられているとしってショックを受けているのかも知れない。私が逆の立場だったら、その虐めていた人達のところに殴り込みにいっているかも知れない。暴力は全てを解決……してはいけないのだけど、手は出てしまうだろう。

ソリス殿下は、大きなため息をついて私を見た。まだ、何か言われるのだろうかと思って背筋を伸せば殿下は私の緊張をほぐすようにフッと笑った。


「ステラが気にしてないのなら、いいんだけど」

「はい、気にしてません!」

「でも、俺は許せないんだよね」

「ひぇ……」


笑ってる。いや、でも笑ってない。目が笑ってない。自分に何かされるわけではないのに、別に自分に非があるわけじゃないのに、その顔を見てゾッとしてしまった。その顔をしているときは、完全に怒っているときだと。いつもニコニコな殿下だからこそ、そんな顔をされると、明らかに怒っているということが分かってしまうわけで。


「あ、大丈夫ですから、本当に」

「でも、ドが過ぎているんじゃないかな。嫌がらせ」

「あーでも、私に暴力振るってもやり返されたらヤバいって分かってたと思うのであっちは。だから、殴られたりしてませんよ」

「いや、そういう問題じゃないんだよ。ステラが珍しいだけであって、普通令嬢達は人を殴ったりしない」

「私って変ですか?」

「変じゃないよ。逆に個性が合っていいんじゃないかなって俺は思うけど。オンリーワンって言うの? ナンバーワンより価値があると思う。それに、自分らしく振る舞える事って格好いいことだと思う」

「格好いい。私格好いいですか!?」


そんな言葉を掛けられて嬉しかった。

格好いいは褒め言葉だ、可愛いよりも嬉しい……いや、ユーイン様に可愛いと言われるのは別として。格好いいは褒め言葉なのだ。私がいきなり目を輝かせて詰め寄った物だから、ソリス殿下は苦笑いを浮べていた。お母様がいたら、はしたないと言われてしまうだろう。今はいないからセーフだ。


「でも、ステラ。今度そんなことがあったら必ずいってね」

「はい」

「返事だけは良いんだね」

「何かあったらやり返します」

「やり返す前に、俺に相談してね? 分かった? ステラが手を出したら、死人が出るから」


と、必死に説得されながら私は、取り敢えず頷いておいた。確かに、私が女の子を殴ったらそれこそ問題だ。多分、女の子は理性が働いて殴らないだろうけど、屈強な騎士だったり、魔物だったりしたら殴るかも知れない。そんなシチュエーション普通は起こりえないんだけど。

ソリス殿下に説得されながら、私は落ち着きを取り戻して行き、改めて自分を心配してくれたソリス殿下についてお礼を言った。最後は何といっても自分の事を気にかけてくれたソリス殿下が好きなのだ。勿論、友愛的な意味でだが。


「ステラは、そうやって笑っていてね」

「はい、勿論です。笑顔が似合うと言われたので」

「自分で自覚しているところが恐ろしいね……ごほん、で、そろそろユーインも帰ってくるだろうし、会場に戻ろうか。ステラも冷えるだろう?」

「そうですね。あーユーイン様にはお礼を言わなきゃ」


自分を守ってくれたのは、ソリス殿下もだが、自分の代わりに……シャンパンを被ったのはユーイン様だった。今日の主役なのに、散々な目に遭っているのではないかと思いつつ、私はソリス殿下と共にバルコニーから出て、ホールへと戻ったのだ。

ソリス殿下が行ったとおり、ユーイン様は会場に戻っていた。そして、誰かを探すように首を左右に振っている。


「ほら、いっておいで」


と、殿下に背中を押され私はユーイン様の元に向かう。


「ゆ、ユーイン様」

「ステラ」

「あ、あの先ほどはありがとうございました。おかげで……ユーイン様は大丈夫でしたか?」

「ああ……ステラに何もなくてよかった。お前を虐めていたあの令嬢とその取り巻きは今頃謹慎を言い渡されているだろう。それと、この間の件についても」

「あ、そっか……容疑者……」


そう私達が話していると、バンと会場の扉が開かれた。さすがの大きな音に、皆が会場の扉に目を向ける。私達は開けた場所にいたので、扉の目の前にいる人物が誰かすぐに分かった。


「……カナール」

「誰だ?」

「え、誰って、私の元婚約者」


そう私が説明すれば、ユーイン様は眉間に皺を寄せた。何か余計なことでもいったかと思って聞き返そうとしたら、カナールがそれを遮るように叫んだのだ。


「我々が捧げた生け贄によって、もうすぐドラゴンが復活する。そうすれば、帝国……いや、この世界に終焉が訪れるだろう」


いきなりそんなことを言うので、私はついに頭が可笑しくなったかと目を細めた。だが、カナールの目は血走っており、これがマジなんじゃないかと私は警戒態勢をとる。異常事態だと察したのか、ユーイン様の目つきも変わり、近くにいたソリス殿下も剣の柄に手をかけている。会場もざわめきだし、カナールは近くにいた騎士達に取り押さえられようとしていた。だが、カナールは騎士達を振りほどき、会場の真ん中へと歩いて行く。足取りはおぼつかなくて何処か、苦しげだった。


「帝国の未来に、不幸が……訪れんことを……」


そう、最期の言葉を言い残したかと思うとカナールは口から血を噴き出してその場に倒れてしまった。

何か不味い薬でもやったんじゃないかと思う奇行に、誰もが唖然としていた。私も呆気に取られていたが、ハッとして駆け寄る。すると、後ろからユーイン様に腕を引っ張られた。驚いて振り返れば、険しい表情をしたユーイン様が私を見下ろしていたのだ。


「ユーイン様?」

「ここから離れるぞ」


一体なんなんだと思っているうちに、会場全体が揺れ出したのだ。激しく揺れ、シャンデリアが会場のど真ん中に堕ちてくる。すぐにも会場はパニックになり、出入り口に人が押し寄せてきた。

どうなってるの? 理解が追いつかないうちに、ユーイン様に連れられて外に出ようとしたとき、天井からパラパラと埃が落ちてきて私は上を向く。そして、目に飛び込んできた光景を見て愕然となった。

一瞬窓の外に何かが移ったからだ。そして、会場に野太い男の人の声が響く。


「ドラゴンだ、ドラゴンが復活したぞ――――」

「はい?」


私が先ほど見た黒い影はドラゴンだったのかと。これは、不味いことになったと、汗が頬を伝って落ちる。しかし、私の心は何処かうきうきとしていたのだ。

loading

この作品はいかがでしたか?

47

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚