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《獅子と算盤》
ビショップ•マカロンが『悪政のロカ』に
よって惨殺されている頃。
【バルザード十二世毒殺事件】の計画犯である 容疑者、ギャンビット、ルーク•グリッツファー、バルザード十三名はそれぞれの思惑に思いを馳せながら円卓に座り、『悪政のロカ』 が戻るのを待っていた。
ギャンビットは東の戦場を見ていた 。
そして、 今もなお命を散らしながら戦う戦友たちに 思いを馳せていた。
それと同時に、 ギャンビットはバルザード十二世とルーク•グリッツファーとの目まぐるしい日々に思いを 馳せた。
《ギャンビット•オリジン》
「何回も言っているだろう?この戦時中に
移民の受け入れなど言語道断だとよー。
国に間者が入るのがオチだぜー?」
若くして多くの戦果をあげ史上最年少で軍の大臣になったギャンビットは
マカロンお手製ポートマフィンを大きな口で
頬張りながらそう言った。
「何度も言ってるでしょう。我が国の文化水準は他国と比べ劣っていると、他国の技術を輸入するためにも移民を受け入れるべきです。」
まだ若く血の気の多かった経理大臣ルークは
そう言ってギャンビットを睨んだ。
当時のシトラス王国も途方もない数の謀略
と計略が渦巻き、様々な役職のものが
次々と不審な死をとげていた。
まだ若い原石たちがこうして重要な 役職につき、お互いしのぎを削り 切磋琢磨できていたのは、 皮肉にも王宮内の血なまぐさい謀略と計略 による賜物であった。
「算盤野郎なのにそんな簡単なことも
分からねぇのかよ。」
「足軽野郎には基本的な算術から教えたほうが よさそうですね?」
「あ”ぁ!!!戦地に送り混むぞ!!!?」
「軍の予算を縮小しても構わないようで?」
「なんだとォ?」「(殺意に満ちた目)。」
そうやっていがみ合う二人を博愛主義者の
バルザード十二世が、
「まあまあ、二人とも落ち着いて。」
となだめた。
「「バルザード十二世様はどっちの味方なのですか!!!!!!!!」」
と二人で詰め寄る。それが彼らにとっての
お約束のやり取りだった。
もう幾分と歳をとり杖がなければ歩けない程
腰の曲がったバルザード第十一世は
このころから見た目の変わらないマカロンが
淹れたカモミールティーを飲みながら
真に国を憂う三人を、頼もしく思っていた。
「皆様、こちら食後のカモミールティーで
ございます。カモミールティーの花言葉は
『仲直り』、こちらの紅茶でごゆるりと
おくつろぎくださいませ。」
そうやってマカロンが淹れた紅茶を 飲みながら国の政策をああでもない こうでもないと言い合う。
彼らにとってはこれが日常だった。
この時、バルザード十三世はまだ生まれて
いなかった。
この時、バルザード十二世はまだロカとは
出会っていなかった。
後に彼ら三人の道は大きく分かたれることとなる。
《瞳に映る像、海馬に眠る光》
一方、容疑者の一人、ルーク•グリッツファーは愛用している懐中時計で時間を確認していた。
これから始まる戦いに向け、静かに、緻密に、計算をしているように見えた。
彼の懐中 時計の蓋にはとある彫刻が彫られていた。
その彫刻は生まれたばかりのルークの娘を 聖母のように抱くルークの妻の姿だった。
彼の左目はいつだって妻たちの姿を網膜に
焼きつけていた。
シトラス王国の義眼技術は近隣諸国と比べあまり成熟していなかった。
簡単に外れてしまうような粗悪な義眼を 目として使うのは合理的でない。
そう判断した ルークは、シトラス王国直属の義眼技師に 特注してガラスの義眼に彫刻を掘ってもらった。
それは、バルザード十二世の姿の彫刻で あった。
天国も地獄も合理主義者の彼には受け入れがたいものだった。
だが彼の左目の網膜には いつだって彼女達の姿が焼きついていた。
彼の右目の網膜には忠誠を誓った親愛なる王の姿があった。
そして、彼ら彼女らの姿を、記憶を、優秀なる彼の海馬は決して忘れることは ないだろう。
《王の思惑》
円卓に座るバルザード十三世は、何かを決意したような覚悟に満ちた顔をしていた。
そして、彼は静かに、ただ静かに、自らの
役目を果たすと決めていた。
かくして、三者三葉の思惑が渦巻く円卓に
女王ロカは大量の駒を携えて戻ってきた。
全ては今日、この神聖なる式典の日に
国家転覆のクーデターを 企てた張本人であるギャンビットを 裁くためである。