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決着の後の、どこまでも白く、何もない精神の世界。そこにはもう、殺意も憎悪も、毒の苦しみも存在しなかった。ただ、溶け合うような静寂だけが二人を包んでいる。
「……不思議ですね。あなたを殺すことだけを考えて生きてきたのに、こうして触れられると、ひどく熱い」
しのぶは、目の前に座る童磨の胸元にそっと手を置いた。いつも氷のように冷たかったはずの男の肌が、今は驚くほど心地よく自分を受け入れている。彼女の瞳に宿っていた鋭い敵意は消え、代わりに底知れない慈しみと、どこか自暴棄な艶っぽさが混じり合っていた。
童磨は、そんな彼女を珍しく言葉もなく見つめていた。感情が分からないと言い続けてきた男の瞳が、今はただ一人の女を求めて揺れている。
「しのぶちゃん、君の毒は僕の体の中でまだ暴れているよ。でも、それ以上に君の心臓の音がうるさいくらいに伝わってくる。これが、人間が言う『愛』というものなのかな」
「ええ、きっと。毒も愛も、相手の芯まで突き刺さるという点では同じですから」
しのぶがそっと唇を重ねると、童磨の腕が彼女の細い腰を力強く引き寄せた。
二人の間に言葉はいらなくなった。死線を越え、互いの命を喰らい合った末に辿り着いたこの場所で、二人は初めて純粋な「個」として向き合う。
童磨の指先が、しのぶの隊服の合わせをゆっくりと解いていく。露わになった白い肩に、彼は狂おしいほどの執着を込めて口づけた。それは捕食者の飢えではなく、愛しいものを慈しむ男の体温だった。
「壊してしまいたい。でも、このまま永遠に君と溶けていたい。こんな気持ちは初めてだ」
「なら、思う存分壊して、愛してください。私を喰らったのはあなた。なら、あなたの責任で、私を幸せにしてくださいね」
しのぶは悪戯っぽく、けれど情熱的に微笑んで、彼の首筋に腕を回した。
重なり合う二人の吐息は、冷たい氷の世界を次第に熱く染め上げていく。激しく、そしてどこまでも優しく、二人はお互いの存在を確かめ合うように貪り合った。
かつての宿敵同士が、今は世界でたった二人の愛し合う男女として、果てることのない悦楽の渦へと沈んでいく。そこには救いも地獄もなく、ただ、互いを愛おしむ純粋な時間だけが流れていた。
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