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「ただいま、洸くん起きてる?」
「ん、ギリギリ……」
少し眠そうな顔で、ソファからちょこんと顔を出す。ギリギリとか言いながら、これ絶対にちょっと寝てた顔やな。
「お弁当買って来たから食べよっか?」
「ん……あらたせんせ、なんかいい匂いするな?」
洸くんの隣に座り、お弁当をテーブルに置く。おまけに入れてくれたペットボトルのお茶を並べていると、くんくんと洸くんの顔が至近距離まで近づいてきた。
「ふふっ、わんちゃんみたいやな。お弁当のお肉の匂いかな?」
「違う……柔軟剤変えた?」
……しまった。サプライズに渡す花束、どの花にしようか迷いすぎて、花屋に長居しすぎたな。それにしても、服に匂いが染み込むくらい迷ってたんか、俺。
「……いや、変えてへんけど。まぁ、お腹すいたからとりあえず食べよか?」
洸くんに割り箸を渡して、強引に話を逸らわす。お弁当のフタを開けた途端、お肉の香ばしい匂いが広がって、花の匂いのこともきっと紛らわせたはずや。
「おいしい?」
「うん、おいしい」
もぐもぐと美味そうに食べる姿を見つめる。相変わらず洸くんといると可愛すぎて語彙力がなくなる。相手もいい大人やのに、自分の気持ちを自覚してからどんどん甘くなってる気がする。
「……俺な? それなりに心配してるんやで?」
「ん? なにを?」
口をもぐもぐさせながら洸くんを見つめると、「ハムスターみたい」とふふっと優しく笑われた。え、俺そんなほっぺに詰め込んでた?
「……今の保育園、昔働いてた幼稚園より小規模やろ? 女の子の保育士さんばっかりやし、きっと大きいところと違って距離も近いやろし」
あー……洸くん、俺が職場の先生達と何かあるかもって心配してくれてんのか。
「……洸くん?今の時代な、45歳独身男性=絶対何か難ありって判断されるねん。だから、先生達も一歩踏み込んでこうへんよ。こんなおじさん好きになってくれるん、洸くんくらいやわ」
少し自虐を混ぜて言うと、「ほんまにぃ?」と洸くんは何故かすごく嬉しそうに目を細める。
よかった、と安心したのも束の間──。
「お花のいい匂いしたから、女の子先生と一緒に見に行って、買ってあげたんかと思った」
なんて、目も合わせずにしれっと言われて、心臓がビクゥッと跳ねた。
ほんまに、この家族はどこまでも鋭くて心臓に悪い。
今更やけど、明日のサプライズ計画がうまく行くのか、本気で不安になって来た。
♢
昨日の夜は、「泊まっていきたい」と甘える洸くんに「ええよ」と何事もないかのようにベッドを貸してあげた。
洸くんも、俺との関係を進めようと決めてからは、前みたいに無理に迫ってくることもなくなった。いつかプロポーズすると約束してくれてからは、本当に俺との未来を真面目に、大切に考えてくれているんやろな。
とはいえ。
無理に断るのも余計に怪しいかと思って「ええよ」と泊まってもらったものの、サプライズ当日の今日、当たり前のように俺の家にいるということは、やっぱり、今日も俺と一緒にいたいのは目に見えている。
ここからどうやって洸くんに怪しまれず、俺だけ先に実家へ向かうか。それが今日の最大の課題になってしまった。
「あらたせんせ、今日俺、買い物行きたくて。一緒について来てくれる?」
ソファから見上げてくる潤んだ瞳。ほらやっぱり。
何もなければ、それはもう荷物持ちでもなんでも喜んでしてあげたい。美味しいパフェだって奢ってあげたいし、なんやったらその買い物の代金だって全部俺が支払ってあげたい。
「……ごめん、今日ちょっとだけ、用事があって」
「え……そうなんや、残念」
目に見えてシュンと耳を落としたように落ち込む洸くん。
待ってくれ、そんな顔せんといて!? これは全部、洸くんのための用事やねん!
あぁもう、俺、サプライズとか最高に向いてへんわ。もう今ここで言うてええ? 洸くんならサプライズなんかせんでも、普通に大喜びしてくれると思うで!
「あ……でも、夕方実家寄るんやろ? 俺、時間あったら行こかな?」
これはギリッギリセーフ、のはず。嘘はついてへんし、なんやったら洸くんより先に俺は実家についてるから。
「え! ほんまに! じゃあ、1人でも頑張れる!」
「んふふ、かわいぃ」
「もぉ、あらたせんせ、今俺の事、幼稚園洸くんとして見てたやろ」
不貞腐れているようで、ちょっと嬉しそうな洸くんが可愛い。あかんな、このままやったら、いつまで経ってもこの家でいちゃいちゃしてしまうわ。
「じゃあ、気をつけていってらっしゃい」
「うん、あらたせんせもね?」
一緒に家を出ると、もしどこかで洸くんに見つかってしまえば全てが台無しになる。だから、俺は少し時間をずらして家を出ることにした。
玄関を出て、そっと右手のポケットに手を伸ばす。
指先が触れたのは、洸くんがまだ小さかった頃に、俺にくれた折り紙の指輪。
ずっと、大切に持ってた。あの時はまさかこんな事になるなんて夢にも思っていなかった。
いつか本当の、永遠の証を、この指輪に誓って交換できる日が来ることを願って。
──愛おしい未来への願いを胸に、俺は元宮さんの待つ家へと急いだ。
コメント
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うわ〜っ第16話読み終えたよ🌸!あらた先生、サプライズ計画中なのにバレそうでヒヤヒヤする展開がもう甘すぎて胸がきゅんきゅんするんだけど!?😭💕 柔軟剤の話から洸くんが花の匂いに気づいてるの、鋭すぎて心臓に悪いのに可愛い…!そして折り紙の指輪まだ持ってたの、そのエモさ反則だよ…!!明日どうなるんだろう、楽しみすぎてソワソワが止まらないよ〜✨