階下から母さんの呼ぶ声が聞こえた。
時計を見ると午後の3時だ。
亜由美は一日中部屋にこもっていた。
ぼくはリュックを持って、キッチンへ向かった。
「そのリュックどうするの?」
丸っこい母さんはお茶の準備をしながら聞いてきた。
「なんでもないよ。羽良野先生が帰ったら藤堂君と篠原君と遊ぶんだ」
玄関のチャイムが鳴って、母さんが出迎えた。羽良野先生は玄関越しにしゃちほこばって挨拶した。
「歩君。ちゃんと勉強してる? 学校ないからって遊び過ぎないでね」
優しい声色で、羽良野先生がニッコリと聞いてきたが、ぼくも涼しい顔で頷いた。
「さっさ、上がって下さいな。大原先生。お茶を今配りますね」
「あっと、お構いなく」
羽良野先生はぼくの案内で、リビングへ行くと、一変して恐ろしい形相でギロッとぼくを睨んだ。
ぼくは心臓がバクバクしたけど、涼しい顔でニッコリと笑顔を返した。
母さんが盆を持ってきた。
「歩君は頭が良いんで、私は教師として安心しています」
羽良野先生は控えめだが、丁寧に頭を下げて静かに言った。
「まあ。そうですか。きっとおじいちゃん譲りですね」
なんだかんだ言って、母さんも父さんもぼくのことを自慢に思ってくれているんだ。
けど、今は不可解な事件のせいで、ぼくと亜由美の心配が強まって、なかなか普通の話がしにくいみたいだ。
二人とも学校で起きた用務員さんの死亡事件のことは一言も言わなかった。
沈黙が時々訪れる。
……不安なんだ。 ……母さん。
羽良野先生は怪物だけど、母さんや周囲の人達はやっぱり不安なんだ。
そうだ。用務員のおじさんを殺害したのは、羽良野先生かも。
でも、なんのため?
あ、そうだ! 学校の花壇に羽良野先生が落ちてきたのを見られたからだ。
花壇は用務員のおじさんが、いつも手入れしているから、多分その時間帯に3階から
落ちてきた羽良野先生を目撃したんだ。
亜由美も目撃したけど、気がつかれなかったんだ。
はて? 確かあの日は体育館に他の先生達と羽良野先生は普通に帰ってきた。
一体。何故?
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