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紅掛空色の晴天は至極色の薄暮に様相を変えていく。非日常的な雑踏と喧騒が渦巻く縁日に私は心地よく包まれているーーーーー独りで。
いや、決して迷子になったとかそういう訳じゃないんだからね!…ただ帰り道を見失っただけで。
あれ西田は?と皆さん思うかもしれないが、西田はこの後彼氏さんとの予定があるらしく先程別れている。弥はや、甘酸っぱいですなぁ。
とはいえ、どうしたもんかねぇ…あ。用水路に沿って歩けばワンチャン道路に出られるのでは?我ながら名案だと思いつつ、神社の側に流れる用水路の横の小道を歩き出す。
…ちょっと痛いかもなぁ、足。慣れない草履ではしゃぎ過ぎたせいかなぁ。あと眠い。少し微睡みながら覚束なさげに足を動かしていると、
「成瀬?」
不意に、独特なざらつきを帯びた低い声が私の名前を呼んだ。
「…あっ七宮先生」
「今から帰るのか?」
返事は耳を劈くような爆発音によって掻き消された。花火大会が始まったのだ。鮮やかな閃光が水面を照らす。誘われるように夜空を見上げていると、さっきよりも近くから声が降ってきた。
「成瀬」
振り向いた瞬間、私を呼ぶ声のように柔和な双眸を至近距離で捉えたものの、妙に心地よくてそのまま見つめ合ってしまう。
四角い眼鏡に微かに花火の色彩が反射する。
直後、プツリと意識の糸が切れるかの如く私は眠りに落ちた。