【長編小説/アオトナツより】
今日は若井と初めてのデート。
と、言っても寮の部屋が一緒だからいつも一緒に居るんだけど、若井が恋人らしい事したい!と言って、今度の日曜日にデートしに行く事になった。
どこに行こうかと色々考えたけど、ベタに水族館に行く事に決定。
まあ、ぼくは人生初めてのデートだから何がベタなのかよく分からないんだけど、誰かと一緒にお出掛けすらした事のないぼくは楽しみで仕方なかった。
「うん!いい感じ!」
「ありがと。」
自分では上手く出来ないから若井に髪の毛をセットして貰い、今日は眼鏡じゃなくてコンタクトレンズ。
若井はいつものぼくでいいのにって言ってくれたけど、かっこいい若井の隣を歩くんだから、少しは見合うぼくになりたいもんね。
約束の日曜日。
準備が出来たぼく達は一緒に寮の部屋を出て街に繰り出した。
若井が調べてくれた美味しいって有名なオムライス屋さん、水族館、お洒落なカフェ。
色々回って凄く楽しい時間を過ごしたけど、これってデートなのかな?と帰り道にふと思ってしまった。
オムライス屋さんでは、隣に座ってるカップルがお互いのオムライスをあーんして食べさせあっていて、水族館では周りのカップルは皆手を繋いでいて、お洒落なカフェでは、お互いの飲み物を飲み比べて関節キス…
ぼく達はと言うと、本当に楽しかったけど、そういうカップルらしい事はまるでなくて、友達とただ遊びに来ているだけって感じで、あまりデートって感じではなかった気がした。
初めてのデートだから、ぼくなりにネットで調べて予習してたみたけど、そこに書いてあるような事柄は何一つ起きぬまま帰路についている。
がっかりしてしまうのは、ワガママかな…?
少し前の自分の事を思ったら、恋人どころか友達すら居なかったのだから、こうして誰かと街に遊びに来ている事が既に凄い事で、しかもそれが恋人だなんて奇跡のようなものなのに、若井と居ると、欲深くなってしまう自分に少し落ち込んだ。
「元貴?」
しばらく黙って考え込んでいると、若井が暗い顔をしているぼくに気が付いて心配そうに名前を呼んだ。
ぼくは、まずいと思って慌てて笑顔を作るけど、それがさらに若井に心配させてしまう事に。
「…デート楽しくなかった?」
「え!そんな事ないよ!すっごい楽しかった!」
「じゃあ、なんでそんな暗い顔してるの…?」
「あ…それは…」
もっとカップルぽい事したかったなんて言ったら引かれちゃうかな…
でも、ここで誤魔化すのはよくない気がする…
「あの、若井…手、繋ぎたい。」
「え。」
「や、いやだったら大丈夫!」
「嫌なわけないじゃん!」
そう言う若井の顔は後ろの夕日に負けないくらい真っ赤に染まっていて、ぼくは少し笑ってしまった。
「ふふっ、若井、顔真っ赤。 」
「仕様がないじゃん!元貴が可愛い事言うかだろっ。」
そう言うと、若井はパッとぼくの手を握って歩き始めた。
ぼくより少しだけ大きい若井の手にドキドキする。
不思議だよね、寮では手を繋いだりそれ以上の事だってしてるのに、外ってだけでこんなにドキドキするなんて。
「あーあ、初めからこうしてれば良かった。」
「え?」
「ずっと元貴と手繋ぎたいなって思ってたからさ。」
いつもはかっこいい若井だけど、そう言って少し照れたように笑う若井が堪らなく可愛くて、信号待ちで止まった時に、ぼくは少しだけ背伸びをして若井の頬っぺにチュッとキスをした。
すると、若井は口元を手で抑えて何も言わなくなってしまった。
急に無言になった若井に少し不安になり、調子乗っちゃったかな…と反省していると、信号が青になった瞬間にぼくの手をグッと引いて早歩きで進み出した若井に、ぼくは慌てて小走りでついて行った。
「若井っ、どうしたの?!」
「…あんまり可愛い事しないでっ。」
「え?」
「我慢出来ない!早く帰るよ!」
「えっ、えぇー!」
-fin-
コメント
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アオトナツ大好きなので嬉しいです✨️また読み返してきます!