テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【流行り】
どうやらクラスでは、最近「夢」が流行っているらしい。
皆で何を話しているのか耳を澄ませても、聞こえるのは決まって「夢、夢、夢」。
正直、よく飽きないなと思う。
なぜ流行りだしたのかは知らないけど――毎日見た夢を報告して、何が楽しいんだろう。
私には一生分からないだろうな。
「はぁ……憂鬱」
思わずため息をついた、その時――
「ゆーめーっ!」
……来た。言ってるそばから来た。
声の主は、クラスの太陽みたいな存在――小林 流子。
名前からして流行り大好き人間って感じ。
つまり、私とは真逆の世界に生きている人、ってわけ。
それなのに、なぜか話が合うんだよな。
クラスで孤立している私と、中心にいる流子――
誰も想像しない組み合わせだろう。
「まったくー。ゆめってば、いっつも上の空!何考えてるか分かんないし」
「……? ごめん」
意味が頭に入ってこなかった。
上の空?そんな自覚ない。ただ、考え事をしてただけ。
「……で、何?」
「あーそうそう!最近さ、ドリコ流行ってんじゃん?」
「……ドリコ?」
初めて聞く単語。頭の中に、はてなマークが浮かぶ。
それを察したのか、流子は目を丸くした。
「もしかして知らない感じ?」
「うん」
「えー!!マジで?!ヤバっ!」
流子は笑いながらも、呆れたように肩を落とす。
そして勝手に前の席に座った。許可くらい取れ。
「あのねぇ、単刀直入に言うと――ドリームコアのこと!省略してドリコ!」
「……また略語?」
卵かけご飯がTKGになるように、ドリームコアもドリコ。なるほど。
「楽なんだよ、そっちのほうが!」
楽……ね。
「で、そのドリームコアって何?」
聞いたことくらいはある。でも、ちゃんとは知らない。
「えっ」
「?」
「そっから?!ほんとに何も知らないんだね、あんた!」
流子がじとっと睨んでくる。いいじゃん、別に。
知らなくても死なないし。
「ドリームコアってのは――夢で見たことがあるような、不思議な場所のこと!
なんか、懐かしいけど現実じゃない、みたいなやつ!」
「へぇ……」
「ウィアードコアに似てる感じ!」
(また知らない単語出てきた……)
「で、そのウィアードなんとかって?」
「はぁ……説明するの大変だなぁ」
流子が頭をかく。
その顔を見て、なんか笑いそうになった。
やっぱり、こいつと話すのは嫌いじゃない。
――キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴った瞬間、心の中でガッツポーズ。
ありがとう、チャイム。君は今日、私のヒーローだ。
「じゃ、またあとでねー!」
流子はひらひら手を振って自分の席に戻った。
周りの子たちも、それぞれ席へ。
「一時間目は……数学」
げ。よりによって一番嫌いなやつ。
累乗だの指数だの、私からすれば呪文にしか見えない。
しかも、眠気マシマシ。
朝から流子の長話に付き合ったせいだな。
(もう寝るしかないな……)
そう決めた瞬間――私は机に顔を伏せた。
まだ知らなかった。
このあと、本当に「夢」に飲み込まれることを。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!