テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【流行り】
どうやらクラスでは、最近「夢」が流行っているらしい。
皆で何を話しているのか耳を澄ませても、聞こえるのは決まって「夢、夢、夢」。
正直、よく飽きないなと思う。
なぜ流行りだしたのかは知らないけど――毎日見た夢を報告して、何が楽しいんだろう。
私には一生分からないだろうな。
「はぁ……憂鬱」
思わずため息をついた、その時――
「ゆーめーっ!」
……来た。言ってるそばから来た。
声の主は、クラスの太陽みたいな存在――小林 流子。
名前からして流行り大好き人間って感じ。
つまり、私とは真逆の世界に生きている人、ってわけ。
それなのに、なぜか話が合うんだよな。
クラスで孤立している私と、中心にいる流子――
誰も想像しない組み合わせだろう。
「まったくー。ゆめってば、いっつも上の空!何考えてるか分かんないし」
「……? ごめん」
意味が頭に入ってこなかった。
上の空?そんな自覚ない。ただ、考え事をしてただけ。
「……で、何?」
「あーそうそう!最近さ、ドリコ流行ってんじゃん?」
「……ドリコ?」
初めて聞く単語。頭の中に、はてなマークが浮かぶ。
それを察したのか、流子は目を丸くした。
「もしかして知らない感じ?」
「うん」
「えー!!マジで?!ヤバっ!」
流子は笑いながらも、呆れたように肩を落とす。
そして勝手に前の席に座った。許可くらい取れ。
「あのねぇ、単刀直入に言うと――ドリームコアのこと!省略してドリコ!」
「……また略語?」
卵かけご飯がTKGになるように、ドリームコアもドリコ。なるほど。
「楽なんだよ、そっちのほうが!」
楽……ね。
「で、そのドリームコアって何?」
聞いたことくらいはある。でも、ちゃんとは知らない。
「えっ」
「?」
「そっから?!ほんとに何も知らないんだね、あんた!」
流子がじとっと睨んでくる。いいじゃん、別に。
知らなくても死なないし。
「ドリームコアってのは――夢で見たことがあるような、不思議な場所のこと!
なんか、懐かしいけど現実じゃない、みたいなやつ!」
「へぇ……」
「ウィアードコアに似てる感じ!」
(また知らない単語出てきた……)
「で、そのウィアードなんとかって?」
「はぁ……説明するの大変だなぁ」
流子が頭をかく。
その顔を見て、なんか笑いそうになった。
やっぱり、こいつと話すのは嫌いじゃない。
――キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴った瞬間、心の中でガッツポーズ。
ありがとう、チャイム。君は今日、私のヒーローだ。
「じゃ、またあとでねー!」
流子はひらひら手を振って自分の席に戻った。
周りの子たちも、それぞれ席へ。
「一時間目は……数学」
げ。よりによって一番嫌いなやつ。
累乗だの指数だの、私からすれば呪文にしか見えない。
しかも、眠気マシマシ。
朝から流子の長話に付き合ったせいだな。
(もう寝るしかないな……)
そう決めた瞬間――私は机に顔を伏せた。
まだ知らなかった。
このあと、本当に「夢」に飲み込まれることを。