テラーノベル
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通知音が鳴らなくなって、三日目だった。
スマホを伏せたまま、画面を見ないようにする。
見たら、返したくなるから。
おんりーは机に向かっていた。
集中しているふりは得意だった。
昔から、そうやって感情を後回しにしてきた。
__忙しいんだろうな。
__邪魔したら、だめだよな。
頭では分かっている。
それでも、胸の奥が少しずつ冷えていくのを止められなかった。
おらふくんからの最後のメッセージは、短かった。
「ごめん、 今日は遅なる」
それだけ。
いつもなら、
「了解」「気をつけて」
それだけのやりとりが、今日はできなかった。
おんりーは、既読をつけなかった。
わざとだった。
試した、というより__
気づいてほしかった。
夜遅く、玄関の鍵が回る音がした。
足音は静かで、いつもより慎重だった。
「……ただいま」
返事をしない。
リビングにいても、気配だけで存在を伝える。
数秒の沈黙のあと、
おらふくんが言った。
「……まだ起きとったんや」
「うん」
それだけ。
近くにいるのに、目を合わせない。
その距離が、やけに遠く感じた。
「連絡、返ってこんかったから」
責めるでもなく、
ただ事実を並べる声。
「寝とるんか思った」
「……起きてたよ」
やっと、視線が合った。
一瞬だけ、
おらふくんの眉がわずかに動く。
「じゃあ、なんで」
その先を、言わせなかった。
「忙しそうだったから」
おんりーの声は、落ち着いていた。
自分でも驚くくらい、冷静だった。
「邪魔したら悪いかなって」
嘘ではなかった。
でも、全部でもなかった。
おらふくんは少し黙ってから、息を吐いた。
「……それ、俺が一番嫌なやつや」
「え?」
「勝手に決められること」
低い声だった。
怒っているというより、抑えている。
「返せへん日があっても」
「返してほしいって思われてるのは、嫌ちゃう」
その言葉に、胸が詰まる。
「……同じことされたら、嫌やろ」
静かに言われたその一言が、
思った以上に刺さった。
確かに、嫌だった。
既読もつかない画面を見つめる時間は、
想像するだけで落ち着かなかった。
「……ごめん」
小さく言うと、
おらふくんは首を横に振った。
「謝らんでええ」
そして、一歩距離を取る。
「今日はな」
「不安になる側、交代や」
その意味を考える前に、
おらふくんはリビングを出ていった。
扉が閉まる音は、驚くほど静かだった。
残されたおんりーは、
伏せていたスマホを手に取る。
画面には、
さっきまで無視していた名前。
__既読をつけるだけで、楽になるのに。
でも、それをしなかったのは、
自分だった。
胸の奥が、じわじわと痛む。
「……ばか」
誰に向けた言葉か、分からないまま。
その夜、おんりーはなかなか眠れなかった。
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