テラーノベル
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純白の扉を抜けた先、僕を待ち受けていたのは、肺の奥までべっとりと張り付くような「甘ったるい薬品」の匂いだった。
「っ……う…」
思わず袖で鼻を覆う。それは、かつて病室で嗅いだような清潔な消毒液の匂いではない。
何十種類の錠剤を一度に噛み砕いてぶちまけたような、脳を直接麻痺させる、毒々しく、執拗な甘さ。
視線を埋めつくしていたのは、整然と、けれど異様な密度で並べられた棺桶の列だった。
シャンデリアの光は弱く、煤けた影が床に長く伸びている。
甘ったるい薬の匂い意識を削られながら、僕は並び立つ棺桶の列を数分ほど歩き続けた。
コツ、コツ……。
自分の足音だけが、高い天井に虚しく吸い込まれていく。周囲の棺桶はどれもしっかり蓋が閉じられ、その上には「故人の幸せだった頃」を象徴するかのような、色褪せた写真やドライフラワーが手向けられていた。
けれど、外の煤けた世界とは対照的に、驚くほど真っ白で柔らかなベルベットが敷き詰められている。そこには、一束のモノクロの薔薇と、見た事ないほど複雑な紋様が刻まれた「銀の小瓶」が転がっていた。
(……なんだろう、これ。……救済に、必要なもの……?)
僕は無意識に、その小瓶へと手を伸ばした。吸い寄せられるように、上半身を棺桶の中へと沈める。ベルベットの微かな拒絶感と、鼻を突く強烈な薬品の匂い。
その時だった。
ーギィ、……バタンッ!!
「うわ……っ!?」
背後に誰の気配もなかったはずなのに。
強引に背中を押され、視点を反転する。受け身を取る間もなく、僕は冷たいベルベットの上に叩きつけられた。間髪入れずに、重い蓋が「ガチャン」という硬質な音を立てて噛み合う。
「……あはっ…あはははっ…!」
蓋の隙間から、壊れた蓄音機のような、ひどく耳障りな笑い声が漏れ聞こえてきた。暗闇。逃げ場のない、四角い絶望。ガリ、ガリ、ガリ……。すぐ耳元で、誰かが親指を噛み砕く、湿った音が響いている。まるで、棺桶の「外側」に誰かが張り付いているかのように。
「……いいな。そこなら誰からも見つからない。誰からも愛されない、自分と…同じ……」
僕の耳羽が、恐怖でピコピコと悲鳴を上げる。狭い空間に、先ほどの甘ったるい薬品の匂いが充満し始めた。
狭い。あまりにも狭い。両腕を伸ばしても、すぐに冷たい黒い壁に突き当たる。ベルベットの裏地は、まるで無数の指が這い回っているように僕の肌にまとわりつき、鼻を突くのは、外で嗅いだよりも何倍も濃密な「腐りかけの果実のような薬の匂い」だ。
ーコン、コン。
蓋のすぐ向こう側。誰かが指先で黒い木を軽く叩く音が聞こえる。
「いいでしょう…?そこ…特等席だ…。……自分が見つけて、自分が磨いて……誰も…入れてあげなかったのに」
ガリッ、とまたあの親指を噛む音が混ざる。
「……ねぇ、教えてよ。……神様の子。……真っ暗な箱の中で……独りぼっちで……誰にも見つけてもらえない気分は……どうですか?……あはっ、自分と…お揃いだ……」
暗闇の中、僕の耳羽が恐怖で震える。この棺桶の中で、ランタンの光が唯一の光だった。
「…あはっ、あははははっ!!!」
黒い蓋の向こう側で、狂ったような笑い声が弾けた。それは、欲しかった道具を手に入れた子供のような無邪気さと、他人の不幸を心底嘲笑う、救いようのない濁りに満ちていた。
「いいなぁ…すごくいい…。その…カタカタ震える音、自分のもそうだったんだ、…誰もいない暗闇で、自分の、歯の音だけを聞いていた」
ガリ、ボリ。親指を噛み砕く音が、最後の一際大きく響く。僕は必死に蓋を押し返そうとしたけれど、外側から重い鉄の閂を掛けられたような、びくともしない手応えしかなかった。
「……じゃあね……神様の子。……そこで、ゆっくり……骸骨になってください。……自分は……もう…あぁ……薬…足りないな……」
ふっと、棺桶の表面を撫でていた気配が遠のいた。執事服の裾が床を擦る、微かな音。
「……自分だけ、…認められないなんて…みんな…ずるい。……みんな…みんな…暗い箱に入っちゃえばいいんだ…」
独り言のように呟き、足音が遠ざかっていく。コツ、……コツ、……。静寂。あとに残されたのは、僕の荒い呼吸音と、棺桶の中に充満する「甘ったるい薬品」の残り香だけ。
(待って……行かないで……!)
叫ぼうとしたけれど、喉が焼けるように熱くて、声が出ない。耳羽が、絶望的な静寂の中でピコ……ピコ……と、力なく脈打っている。この広い葬儀屋の中に、僕という「存在」が、たった一つの黒い箱として閉じ込められ、忘れ去られていく恐怖。
(……っ、はぁ…はぁ……っ…!)
狭い棺桶の中、僕の呼吸は次第に浅く、激しくなっていく。
肺が熱い。遺していった甘ったるい薬の匂いと、自分自身の吐息が混ざり合い、逃げ場のない小箱の中に充満していく。その時だった。足元に置いていたランタンが、シュル……と音を立てて、今まで見たこともないほど「どす黒い白光」を放ち始めたのだ。普通なら酸素が薄れれば火は消える。けれど、このランタンは違う。僕が恐怖し、生存本能に突き動かされて吐き出す呼気に反応するように、火花がパチパチと爆ぜ、棺桶の内側を残酷なほど鮮明に照らし出した。
(光が……強すぎる……。耳羽が…痛い…)
強烈な光にさらされ、僕の耳羽は過敏に反応してピコピコと激しく痙攣する。けれど、その光のおかげで、僕は「それ」を見つけることができた。
黒い蓋の裏側。そこには、びっしりと「誰かの名前」が爪で掻きむしったような跡で刻まれていた。そして、その文字の隙間に、一箇所だけ「銀の小瓶」がちょうど嵌まるような、不自然な窪みがある。
(…これだ…アイツがわざと…ここに置いたんだ。…一体なんのために…?)
僕は震える手で、ベルベットの上に転がっていた銀の小瓶を掴んだ。ランタンの光がさらに膨れ上がり、棺桶が内側からミシミシと軋み始める。
銀の小瓶の蓋を窪みに押し込んだ瞬間、カチリ、と小さな機械音が響いた。
そこまでびくともしなかった蓋が、まるで誂えたかのように滑らかに数センチ浮き上がる。
(空いた……!)
僕は残った力を振り絞り、両手で重い木を押し上げた。
バタンッ、と蓋が跳ね上がり、棺桶の外側、冷たい空気が流れ込んでくる。
「……はぁっ、はぁ……はぁ…!」
新鮮な酸素を吸い込んだ瞬間、それまで白熱していたランタンの火が、ふっと小さく落ち着きを取り戻した。正気度が戻り、耳羽の痙攣も収まっていく。だが、安心したのも束の間。僕は周囲を立ち込める「さらに濃密になった甘い霧」に気づき、顔を歪めた。アイツが去り際に、部屋中の薬を散布したかのように、視界が白の靄で霞んでいる。
僕はふらつく足取りで、オーク材の扉へと駆け寄った。だが、ノブを回しても、体当たりをしても、扉は岩のように動かない。
「……っ、この、……あけろ……ッ!!」
僕は背負っていた斧を叩きつけた。
―ガギィィィンッ!!!
凄まじい火花が散り、純白の木肌に鋭い傷が刻まれる。けれど、扉はその傷を嘲笑うかのようにビクともしない。
(……傷がつくだけだ。……これじゃ、……ラチがあかない……)
肺の奥が、甘い毒でじわじわと痺れ始める。ランタンの光が、再び僕の荒い呼吸に反応してチリチリと輝きを増した。
(…斧がダメなら……!!)
僕は一歩下がり、軸足を強く踏み込んだ。そしてこの閉鎖空間への怒りをすべて右足に集める。
「……そこを、……どけぇぇっ!!!」
―ドォォォォォンッ!!!
渾身の蹴りが扉の中央を捉えた。
扉が弾け飛び、溜まっていた甘ったるい煙が、外の廊下へと一気に吐き出された。
「……ゲホッ、……はぁ、……はぁ……っ!!」僕は煙にむせながら、砕け散った木片を踏み越え、廊下へと這い出した。そこは、先ほどの葬儀会場とは一変して、壁一面に「誰かの幸せそうな写真」がびっしりと、画鋲で無数に打ち付けられた異様な空間だった。結婚式の笑顔、表彰される子供、手をつなぐ老夫婦……。そのすべてが、黒いマジックで執拗に塗りつぶされている。廊下の突き当たり。一脚の古びた椅子に深々と腰掛け、彼がまたあの音を立てていた。
「……あ…出てきちゃったんだ。……せっかく、静かに…孤独になれる場所を…あげたのに…」
彼は膝の上に、抱えきれないほどの「色とりどりの薬瓶」を載せ、まるで宝物でも愛でるように、その一つ一つに指を這わせている。右目の蝶たちが、僕の登場に呼応して、ざわざわと翅を震わせた。
「…その光…。目障りだな。……自分には一欠片も分けてもらえなかったのに…。神様は…やっぱり…ずるい」
彼は震える手で、一番大きな薬瓶の蓋を指で弾き飛ばした。
中からこぼれ落ちたのは、どろりとした黒い液体。
「…ねぇ、……君のその綺麗な「耳羽」。……自分が引きちぎってあげようか?……そうすれば…君も…僕と一緒になれるでしょ…?」
彼はフラリと立ち上がり、空の薬瓶を床に投げ捨てた。
パリンッ、という乾いた音が響き、彼の影が、嫉妬の炎に煽られるようにドロリと大きく伸びていく。割れた薬瓶から溢れ出した黒い液体が、生き物のように床を這い、僕の足元まで迫ってくる。
「っ…ふざけるな…!僕は…ただ救済しに来ただけだ…!」
僕は震える腕で斧を構え直した。ランタンの光が、僕の激しい鼓動に呼応して、パチパチと火花を散らす。だが、彼は僕の言葉など届いていないかのように、ふらふらと、踊るような足取りで距離を詰めてきた。
「……救済?…あはっ、面白いこと言うね。それ、『持ってる側』の”傲慢”だよ」
彼がゆっくりと顔を上げた。乱れた黒髪の間から、モノクロの蝶たちが一斉に羽ばたき、隠されていた「右目」が、真っ直ぐに僕を射抜いた。
(……あ…しまっ……!)
目を逸らそうとしたけれど、身体が金縛りにあったように動かない。彼の右目。それは瞳ではなく、底なしの泥沼のような、漆黒の虚無。その「目」と視線がぶつかった瞬間、僕の脳内に、焼きごてを押し当てられたような激痛が走った。
『死ね』
『お前なんて必要ない』
『お前は所詮神の道具だ』
『中身は空っぽのくせに』
『お前なんて大嫌いだ』
「っ……あ、…ああああああっ…!!!」
耳羽がちぎれそうなほど逆立ち、狂ったように悲鳴を上げる。視界が色反転し、壁に貼られた「塗りつぶされた写真」たちが一斉に僕を嘲笑い始めた。幻覚や幻聴だって分かっている。ただ、彼が長年溜め込んできた「呪詛」が僕の片目に憑依して脳に流れ込んで来ているのだ。
「ねぇ、痛いでしょ?苦しいでしょ?それが僕の毎日なんだ。……君にも、分けてあげるよ」
彼が冷たい指先で僕の頬を撫でようと手を伸ばす。その指には、まだ親指を噛み砕いた時の生々しい血がこびりついていた。
鉄錆と甘い薬が混ざったような指先が頬に触れる瞬間、世界から音が消えた。
視界を埋め尽くしていたモノクロの蝶も、執拗な呪詛の声も、ドロリとした廊下の闇も、すべてが一瞬で深い虚無へと吸い込まれていく。上下の感覚すら失った、完全なる静寂。
あまりの静けさに、引きちぎれそうだった耳羽が力なく垂れ下がる。
ふと、僕は導かれるように上を向いた。
そこには、天から差し込む一筋の透き通った白光があった。
雲の切れ端から覗く月よりも、さらに冷たく、けれど圧倒的な慈愛を湛えた眼差し。神が、音もなく僕を見下ろしていた。
『…慈愛を受け入れましょう。我が愛しき子よ…』
頭の中に直接響く、形のない声。
神の掌が、震えている僕の頬を優しく撫でる。
清らかな水で洗い流してくれるような、絶対的な肯定。
『……もういいのです。…あのような者の「嫉妬」に、耳を貸す必要はない。貴方はただ、そのランタンと私の光だけを見ていればいいのですよ』
(…父上……僕は…)
温かい。けれど、その温かさはどこか作り物のようで、僕の胸に刺さった「嫉妬の棘」を根本から抜いてはくれない。ふと、光の向こう側…現実の世界で、僕の頬を撫でているアイツの絶望に満ちた「右目」が脳裏をよぎった。
『…救済しなさい。貴方のその重い斧で、あの醜い執着を…断ち切ってあげるのです』
神の声が、優しく、けれど残酷な命令を下す。その瞬間、真っ暗な世界にヒビが入り、再びあの甘ったるい薬の匂いと、アイツの荒い吐息が流れ込んできた。
神の絶対的な肯定に包まれた瞬間、僕の心から迷いが消えた。いや、消されたのかもしれない。「……父上。……救済…します」
精神世界がガラスのように砕け散り、現実の「甘ったるい腐食臭」が鼻腔を突き抜ける。僕の頬に冷たい指が触れる、その刹那。
ーザシュゥゥゥゥッ!!
「……っ、が、……ぁ”…っ!?」
鈍い肉の裂ける音。僕は反射的に、手元にあった斧を最短距離で振り抜いていた。神の残り香のような白光を帯びた刃が、彼の胸元から肩にかけてを深く、容赦なく切り裂く。
「……はぁ、……はぁ、……っ!!」
憑依が解け、視界からモノクロの蝶が霧散する。彼は糸の切れた人形のように、力なく数メートル後ずさった。
「……あ、……あは。……痛い、……痛いな。……やっぱり……」
彼は切り裂かれた執事服の上から、溢れ出す黒い血を細い指で必死に押さえ込んだ。指の隙間からドロリとした液体が零れ落ち、廊下に貼られた「幸せな写真」を汚していく。
「……冷たい。……君の……その光……。……全然、……温かくなんて……ないじゃないか……」
彼は傷口の痛みに耐えるように、歯ぎしりをした。右目の蝶たちが、主の危機に呼応して、狂ったように羽ばたき始める。後ずさり、壁に背を預けた彼の瞳には、先ほどまでの「羨望」を塗りつぶすほどの、どす黒い「憎悪」が沸き上がっていた。
「……死ね。……死ね、死ね、死ね……!!……認めない。……君みたいな……神様に愛されてるだけの……人形なんて……ッ!!」
その瞬間、彼の右目につ覆尽くしていた無数のモノクロの蝶が、主の呼びに呼応して、一斉にその鋭い翅を広げた。
「……行け。……全部……奪って。……あの綺麗な……羽も……光も……全部……自分と同じ……ドブネズミの色に、……染めてしまえ……ッ!!」
ーバサササササササッ!!!
凄まじい羽音が廊下に反響する。数百、数千というモノクロの蝶が、まるで意思を持った「黒い津波」となって、僕を目掛けて一斉に襲いかかってきた。僕はそんな蝶達を斧を縦にしながら襲いかかろうとした瞬間にモノクロの綺麗な翅切り裂いた。
「…あ、……あはっ…嘘だ……。自分の……自分の蝶が……!?」
彼が絶望に顔を歪める。彼がこれまで溜め込んできた怨念の結晶、数千のモノクロの蝶たちが、僕の一振りの前にただの煤となって床に散っていく。
「……救済してあげるって、……言っただろ」
僕は光り輝くランタンを背に、灰の舞う廊下をに進んだ。一歩。また一歩。耳羽はもう、怯えて震えてなどいない。獲物を仕留めるために、鋭く、研ぎ澄まされた刃のようにピンと立ち上がっている。
「……嫌だ、……来ないで。……来ないでよ……!!」
後ずさり、壁に貼られた「塗りつぶされた写真」に背をぶつけた彼の喉元へ、僕は斧の切っ先を突きつけた。
「……ねぇ、……神様の子。……最後に……教えてよ」
彼は親指を血が出るほど噛み締めながら、涙でぐちゃぐちゃになった顔で笑った。
「……君に……自分のこの『惨めさ』が……一瞬でも……理解できた……?」
僕は答えない。ただ、父上の教えに従い、重い斧を天高く振りかぶった。その刃には、神の冷徹な光と、僕が吸い込んだ甘ったるい薬の毒が混ざり合い、禍々しくも美しい輝きを放っている。「……救済します」
―ザシュゥゥゥゥゥッ!!!
断末魔すら、許さなかった。振り下ろされた斧が彼の身体を真っ二つに断ち切った瞬間、彼の姿は肉の塊ではなく、粉々に砕け散る「黒い硝子」へと変わった。
ーカラン、カラン……。
砕け散った「嫉妬」の破片が、床に散らばる。右目を覆っていた蝶たちも、彼が執着した薬瓶も、すべてが砂のように崩れ落ち、あとに残ったのは、静まり返った葬儀屋の廃墟だけだった。僕は斧を静かに下ろし、深く息を吐いた。荒い呼吸に合わせて燃え上がっていたランタンの火が、ふっと穏やかな青白い灯火へと戻っていく。
「……おやすみなさい、出来損ないの処方箋」
背後を振り返ると、そこには再びあの純白の扉が、何事もなかったかのように立っていた。僕は一歩、また一歩と、自分の中に澱のように残った「嫉妬の余韻」を振り払うように歩き出す。
ーザァァァァァ……。
主人公が純白の扉の向こうへ消え、葬儀屋の静寂が戻った頃。砕け散った黒い硝子の破片が転がる床に、一足の足音と雨の音が響いた。
ーコツ、コツ……。
それはあの黒い湖で「赤い傘」を差していた青年だった。
彼は手に持った傘を閉じ、粉々になった「弟の成れの果て」の前に、力なく膝をついた。
「…あぁ。……やっぱり、こうなっちゃったか」
青年は、割れた薬瓶の破片の中に混じる、弟だったものの欠片を指先でそっと撫でた。
「……ごめんね。……やっぱり、自分から動くのは……面倒だったんだ。……君が壊れていくのを、ただ眺めていることしか……僕には、できなかった」
彼の瞳には、相変わらず救いようのない「怠惰」が宿っている。けれど、その瞳の端からは、一筋の透明な涙がこぼれ落ち、黒い硝子の破片を濡らした。
「……おやすみ。……今度は、……何にも欲しがらなくていい場所に……行けるといいね」
彼は再び赤い傘を差すと、崩壊していく葬儀屋の中に一人取り残されたまま、動くことをやめた。まるで、自分もまた石や硝子の一部になろうとしているかのように。
【”ENVY END/RELIFE”】
コメント
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They want you,They want you They want you as a new recruit !
自分の兄の愛魚よりもあっさり死んだ弟くんが可哀想に見えてきた。