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「そんで、今回は討伐は無しか」
「そんなしょっちゅう何か倒して来るように
言わないでください」
ジャンさんの言葉に、思わず反発する。
ユラン国の永久氷で封印された扉を、
グラキノスさんと共に解除して来てから数日後、
帰国した私は一応、事のあらましを説明するために
公都『ヤマト』の冒険者ギルド支部にいた。
「余の頼みを聞くどころか―――
ユラン国で新たな商売になるものまで
見つけて来てくれたらしいな。
まことにシン殿には頭が上がらん」
支部長室には魔王・マギア様が……
イスティールさんとオルディラさんを連れて
同席しており、
彼女たちもまた、その幼い外見の少年と共に
頭を下げる。
「しかし、新たな甘味ッスか?
メープルシュガーの商売敵というか、
競合相手にならないッスかねえ」
レイド君が当然の心配をするも、
「そこはアドベク王も言及されましたが、
選択肢を多く持つのはいい事なので。
もし何かの疫病とか気候変化で、
メープルシュガーが取れなくなる可能性も
考えて―――」
「自然の産物ですものね。
収穫量が変動する事もありますし……
連合を組んだ相手でもあるので、
そこまで神経質にならなくてもいいかも」
次いで彼の妻のミリアさんが、私の意見に
同調する。
「そういえば奥方様たちは、どちらへ?」
イスティールさんが妻たちの不在を見て
たずねる。
「ああ、ユラン国から食材を持ち帰ったので、
その調理を宿屋『クラン』で試しています。
一度向こうで調理してみましたし、簡単ですので
今頃はもうそれを使った料理が出ているかも」
「まだあんのかよ、お前さんの料理は。
でも甘味だろ?
メープルシュガーの代用で使っても―――」
ギルド長がアゴに手を付けて疑問を口にするが、
「いえ、野菜を使ったものです。
あ、オルディラさん。
今回持ってきたのは納豆にもピッタリの
ヤツですので」
「わかりましたすぐに参りましょう2人とも」
と、彼女は片手でマギア様を抱え、もう片方の手で
イスティールさんの手を握り―――
疾風を残して支部長室から退室した。
後に残されたのは、ギルドメンバーの三人と私。
しばらく茫然としていたが、
まずは褐色肌の青年から、
「本当に納豆の事となると目の色が
変わるッスねえ、あの人」
そして丸眼鏡をかけた女性が、
「でも、あの納豆に変化となると―――
見てみたい気もあります」
次いでアラフィフの白髪交じりの男が、
「ま、そろそろ昼だし……
俺たちも行くか」
そこで全員で彼女たちの後を追って、
宿屋『クラン』に向かう事になった。
「あ、シン!」
「おう、やっと来たか我が夫」
「ピュルルゥ」
目的地に到着すると、メルとアルテリーゼ、
ラッチ―――
家族が私たちを出迎えてくれた。
「どう? 評判の方は」
私の質問に、幼顔のアジアンチックな妻が、
「見ればわかるでしょ!」
「たったあれだけで、料理とは変わるものなの
だのう」
欧風モデルのような顔立ちの妻も、周囲に
視線を向けてメルの言う事を追認する。
ズルズル、ズズーッと、麺類をすする音が
あちこちから聞こえ、
「これ、うめぇな!」
「ああ、味わいが全然違う!」
すると、それを見たジャンさんが、
「うん?
見た感じ、ただのうどんやソバ、ラーメンを
食べているだけのようだが……」
「そうッスねえ」
「変わったものは見えませんけど。
強いて言えば麺類が多い……?」
と、レイド夫妻も特に何も、という感じで語る。
「取り敢えず食べてみましょう。
メルとアルテリーゼ、ラッチは何を
頼んだんだ?」
「私は天ぷらソバ!」
「我はチャーシューメン。
ラッチはきしめんじゃ」
「ピュイッ!」
それを聞いた面々は、
「じゃあ、私はザルソバで」
「俺は肉ソバを」
私とアラフィフの年長者組はソバを、
「俺はやっぱりミソチャーシューメンで!」
「アタシはチャーシューメンの醤油味かな」
レイド君とミリアさんはそれぞれ好みの
ラーメンを頼み、その到着を待った。
「うん? 何だこりゃ」
ソバは比較的早く調理され、私とジャンさんの
前に置かれる。
「ギルド長の肉ソバ、何か乗ってるッスが」
「あ、これがシンさんが言っていた新しい食材?」
レイド夫妻が指摘するも、ギルドメンバーはどこか
拍子抜けしたような顔で―――
「シン、これがお前がユラン国から持ってきた
ヤツか?」
「まあ、食べてみてください」
怪訝そうな顔をしながら、彼は一口それを食すと、
「……!
こ、こいつは!?
確かにう、旨い……!」
そしてそのままズルズルと口に入れて行く。
「じゃあ私も」
私の前に置かれたのはザルソバだが、
つゆの入った容器の他に、細かく輪切りにされた
白いものと、また溶けた氷のような物が別の容器に
入れられ、
それをつゆに浸し、ソバをすする。
「うん、やっぱり味が違いますね」
「でしょう!?」
と、いつの間にかオルディラさんが、その
漆黒の肌の顔を近付けてきた。
手には例の納豆を持って―――
「スゴイですよコレ!
革命ですよ!
納豆の革命ですさあどうぞ!!」
「えと……」
「見たところ、その二つが新しい食材の
ようですが」
次期ギルド長とその妻が、たしなめるように
魔族の彼女に質問する。
「『ヤクミ』と言うらしいのですが、
入れると入れないとで全然味が違います!
いえ、入れた方が断然美味しい!
これでわたくしの納豆はより完全にへぶっ!?」
そこでイスティールさんのチョップがさく裂。
そのまま引きずられるようにして、
オルディラさんは元の席へと戻った。
そう、追加された食材とは……
大根おろしに刻みネギ。
ユラン国で見つけた野菜の中に入っていて、
甜菜の加工技術を教えたのと引き換えに、
もらって来ていたのだ。
「この野菜は、ユラン国でしか採れねぇのか?」
ジャンさんがソバに入ったネギを箸で
つつきながら聞いてきて、
「寒さに強い品種ですけど、どこでも育つと
思いますよ。
あちらでは取り立てて珍しい野菜でも
何でもないらしいので、栽培もご自由に、
という事でした」
どうも主食である小麦や芋などを除いては、
あまり独占というか厳しい規則等は無いようだ。
というよりこの世界―――
食事が必須では無いためか、主食以外を育てるのは
よほど余裕があるところか物好きだけ……
という側面もある。
ただ今後は各国の取引きの中で、いろいろと
栽培・増産されていく事を期待したい。
こうして、大根おろし・刻みネギのお披露目は
終わり、料理に新たな流れが加わる事となった。
「よもや私どもに姿をお見せになられるとは、
感激の極みにございます!」
「こうして我らが人の姿になれたのも、
フェンリル様のおかげでございましょう。
これからも身命を賭して、忠誠に励む
所存であります!」
公都『ヤマト』の亜人・人外専用居住区で―――
大仰なあいさつで跪くのは、羽狐たちだ。
薬味を持ち帰ってから数日後……
チエゴ国からフェンリルのルクレセントさんが
来るのに合わせたかのように、
彼らは全員が人の姿に変身出来るように
なっていた。
その髪の色は、彼らが欲してやまなかった
白銀に染まり―――
人の姿になったルクレさんの前で、感極まって
泣いている者もいた。
それを見ていた切れ長の目をした女性は、
婚約者である黒髪の少年と一緒に、
羽狐たちに歩み寄る。
「あー……それなんやけど。
ウチ、お前たちに謝らなければならん
事がある」
「?? はい?」
男女合わせて五人、揃って彼らは頭を上げる。
「お前たちのシルバーの毛並みを褒め、
その一人を従者にしたんは確かだけど、
それは別に、シルバー以外は従者として
認めんという意味では無かったんよ」
その言葉に羽狐たちは困惑した表情になるが、
ルクレさんは隣りの少年を引き寄せ、
「ほら、ウチの夫となる予定のティーダ
だけどな?
普通に黒髪やろ?
だからあの時は格別に美しい銀の毛並みを
褒めはしたものの―――
それ以外はダメだと言ったつもりは
無かったのだ……」
「で、では我らは……」
「そ、そのような勘違いをしてしまって」
彼女は跪く彼らと目線を同じにするよう
片膝をついて、
「すまなかったな。
お前たちがどれだけウチを敬っているか、
そしてそんなウチの言葉が、どのような
意味を持つか―――
考えが足りなかった。
どうかこれからも、ウチに仕えてくれ」
すると羽狐たちは全員土下座せんばかりに、
額を地面にこすり付け、
「も、もったい無きお言葉……!!」
「全身全霊でお仕えさせて頂く所存に
ござります!!」
こうして、フェンリルと羽狐たちの会合は、
無事に終わったのだった。
「お疲れ様でした、ルクレさん」
「ホンマ、あの手の連中は固いんや。
まぁウチがうかつな事言ったのが悪いと
わかってはいるんやけどなぁ」
その後、公都で一泊するために、彼女と
ティーダ君を私の屋敷へと招き……
「まあ伝説の存在だもんねえ」
「実際に見てみれば、こんなものじゃがの」
「ピュイ~」
ドラゴンのアルテリーゼとは旧知の仲なので、
くだけた感じで家族は対応する。
「ティーダ君もお疲れ様です。
チエゴ国はどうですか?
何か、変わった事とかは」
私の言葉に、獣人族の少年は飲み物を置いて、
「暖かくなってきたので、いろいろな
動きがあるみたいですね。
ダシュト侯爵家を中心に、シンさんの言っていた
酪農というのを本格的に広げるとか。
牛と山羊の乳から作る乳製品を王家に献上
したところ、国家規模でやる事になった
みたいです」
それはなかなか明るいニュースだ。
酪農はウィンベル王国でもやり始めたけど、
各地で盛んになればそれだけ、供給先が
増えるからなあ。
「そういえばシン殿も、またいろいろと
作ったようだな?
メープルシュガーに匹敵する甘味、
それに調味料ではないが、料理をとても
美味にする野菜など……
ウチとティーダもちょっと食べたけど、
アレ、めっちゃうまい!
帰りに包んでくれ」
「うーん……
公都に持ってきたのはまだまだ少なくて、
大量には渡せないかと。
あれ、ユラン国産ですから―――
この機会に魔族領を通して、チエゴ国に
輸入してみてはどうでしょうか」
「そうやなー。
帰ったら国王に頼んでみるわ!」
国家同士の貿易の話が軽く交わされるが、
何かこのレベルにも慣れてきた自分が怖い。
「それはそうとルクレセント。
そなたの国に、封印されているものなど
無いであろうな?」
「ン? 何や?
藪から棒に」
ドラゴンとフェンリルの会話に、人間の妻が
横から入り、
「あーねー。
ウィンベル王国とユラン国で、そういう
話があったのよ。
シンが片付けたけど」
そうして、ここ最近あった―――
封印された扉や部屋について説明した。
「おー、そんな物があったんか。
まあ古い国だと、そういう事の一つや二つ
あるかもねー」
「中には何が入っていたんでしょうか?」
ルクレさんとティーダ君が、興味津々で
聞いてくるも、
「それは残念ながら、まだ。
何かわかったら伝えてくれるそうですけど」
次いでメルが、
「まーでも、すごい古そうだったし?
代々って言ってたから、少なくとも
100年くらい前のものじゃないかなあ」
「ン? そんなのつい最近じゃないの?」
ルクレさんの返しに、アルテリーゼが苦笑し、
「それは我らの寿命が長いからじゃ。
いい加減人間に合わせい」
「ピュウ」
人外の会話に、こちらも思わず苦笑いする。
「しかしまあ、長生きすると思わぬ過去も
出てくるものよ。
今回の羽狐どもがいい例ではないか、
ルクレセント」
「う、それは~……
だからウチが悪かったって。
そういえば最近、従者寄越さんなぁとは
気にはしていたんだけど」
ラッチが三十才で、まだまだ赤ちゃんだとすると、
二人とも数百年は平気で生きているだろうし。
その過去の中で、失敗の一つや二つはあるだろう。
スケールが違い過ぎるけど……
「ルクレさん、その羽狐さんたちですけど、
今後はどう付き合うんですか?」
私の問いに、彼女は両腕を組み、
「どーしよっかねえ~……
『仕えよ』とは言ったけどさあ、
人の姿にもなれるんだよね?
男はティーダがいるからいらないし、
女はティーダに近付けたくないし」
そんな理由で拒否される羽狐たちが、
何とも気の毒なのだが……
いらぬ誤解やトラブルを避けるというのは、
あながち間違ってもなく。
「でしたら、交代制というのはどうでしょうか?」
「交代?」
メルが首を傾げ聞き返してくる。
「羽狐さんたちはフェンリルである、
ルクレセントさんを崇めていますが、
その羽狐さんは獣人族に崇められて
いるんです。
この際、獣人の皆さんにも話をして―――
従者を1年間の交代制にしてみれば」
ふむふむ、とフェンリルと獣人のカップルが
うなずくも、
「確かに短期間で交代はアリだと思うが……
だけどそれでは、男女の問題が解決出来て
おらぬぞ、シン」
「ピュ!」
アルテリーゼの指摘に、私は答える。
「だから獣人族に協力をお願いするんです。
1年の交代制で、羽狐1人に獣人1人。
羽狐の従者が男性だったら獣人族は女性を、
従者が女性なら獣人族は男性を―――
男女一組にして仕えてもらえれば、
角が立たないのではないでしょうか」
「そやなあ。
それなら獣人族にご協力願おうか。
ティーダ、頼める?」
「もちろんです」
「私の方からも、ボーロさんたちに話を
通しておきますから―――」
こうして具体的に話を詰めていき、
従者の件は方針がまとまった。
「ん~……そろそろ寝るか、ティーダ」
「はい、ルクレセント様」
夜遅く、いくらかお酒が回ったところで、
客人である二人が就寝を告げる。
「ラッチもすっかり寝入ったしのう。
時にルクレセント、お主―――
ミマームを覚えておるか?」
「ん? ああ、グリフォンだっけ。
久しぶりに聞く名前だけど、アイツが
どうかしたの?」
フェンリルが聞き返すと、今度はメルが、
「何かねー、ライシェ国で宰相やってた。
もちろん人の姿で、だけど」
その説明に、同席していた少年は目を丸くするが、
「いやまあ、身内での話でお願いします。
ライシェ国はまだ公表していないようですし」
お酒が入ったせいか、さらりと国家レベルの
機密を暴露され、思わずフォローに入る。
「む? シン、ウィンベル王国の上層部は
知っておるのではないか?」
「そりゃ最恵国待遇を結んでいるからだよ。
彼女自身、使者として来たわけだし」
そう言ってアルテリーゼをたしなめる。
当人たちに取っては、ただの旧知、友だちの
関係なんだろうけど。
「グ、グリフォン様までルクレセント様は
お知り合いなのですか」
「そんなたいそうなモンじゃないって」
驚くティーダ君にルクレさんは軽く返すが、
急に真顔になって、
「しかし、1つ聞いておかなければならない
事が出来たねぇ?」
「え??」
「……何じゃ?」
フェンリルの言葉に、私の妻二人が構える。
私とメル、少年がゴクリとつばを
飲み込む音がして―――
ルクレさんに視線が集中する。
するとフェンリルは一歩進んでドラゴンに近付き、
「……アイツ結婚してた?
確か前会った時、まだ独身だったと
思うんだけど」
その質問に、人間&獣人組はずる、と片方の
肩を落とす。
「いや、特定の相手がいるとは聞いておらぬな。
我が再婚した事や相手はその目で確かめたで
あろうし―――
それで自分の事を話さぬのは不自然であろう」
それを聞いた彼女は、シャドーボクシングのように
何も無い空間にパンチを繰り出し、
「そっかそっかあ♪
アイツまだ独り身かあ♪
こりゃあ一度ご挨拶に行かなければ
ならないねぇ♪
もちろん愛するウチの夫(予定)と共に……♪」
「すいません止めてください。
あなたに取っては身内への嫌がらせ、もとい
報告でもこちらに取っては国際問題」
すっかり出来上がり、上機嫌になっている
彼女をなだめながら―――
それぞれ自分たちの寝室に向かった。
「場所はこの方角で合っていますか?」
「はい。
しかしよもや、ドラゴン様の運ぶ船に
乗せて頂く事になるとは……
フェンリル様との縁も再び繋いで頂き、
まことシン殿には頭が上がりませぬ」
数日後、私たちと羽狐さんたちはアルテリーゼの
『乗客箱』に乗り、上空にいた。
(ラッチは例によって児童預かり所)
あの後、ルクレさんとティーダ君はチエゴ国へと
帰って行き―――
また従者についての話し合いも獣人族と行われ、
今後、従者交代は公都『ヤマト』からチエゴ国へ、
という形になった。
それで方針はまとまったのだが……
これを機に羽狐さんたちは、正式に住処を
公都に移す事に決定。
その前に一度、それまで住んでいた故郷へ
別れを告げたいと申し出て来たので、
こちらの勧めで、『乗客箱』での移動と
なったのであった。
「ここも長かったですけど……
お別れですね」
「まこと、万感の思い」
「フェンリル様との会合を再び果たした今、
父祖たちも許してくれましょうぞ」
何か人型になってから、話し方が古風というか。
しかし中には涙を流している人もいるので、
邪魔をせずに彼らを見守る。
「少し、彼らだけにしてあげた方がいいかな?」
メルとアルテリーゼに聞いてみると、
「そだねー」
「何かあっても、我らがいれば何とか
なるしのう」
そう返された私は、周囲を見渡し、
「しかしまあ、本当に山の中だね。
……んん?」
と、ある木が目についた。
正確にはその木の幹についたキノコ。
これは―――
「キクラゲか?」
思わず目を細くして確認する。
地球のアウトドア時代は、よく採取して
野外料理にアクセントとして加えたものだ。
「メル、アルテリーゼ。
彼らをお願い出来るかな。
ちょっとあたりを見回ってくる」
「りょー」
「まあシンなら大丈夫であろう。
あまり遠くまで行くでないぞ」
妻二人の同意を得てから、私は直接それを
取ってくる事にした。
「うーん……確かにキクラゲだ。
おっ、あっちにあるのは舞茸か?」
一行から三十メートルも離れていない場所で、
私は視界に入る食材に目を輝かせる。
異世界に来たばかりの頃は万が一を考え、
野草も探し回っていたけど……
今じゃ集団行動ばかりで、なかなか個人的に
動ける機会が無いからなあ。
「キノコの素人判断は危険だけど―――
鑑定魔法を使うウォルドさんも公都にいるし。
万が一を考えて、パックさんに浄化して
もらえば安全か。
食べてみれば、味で本当にキクラゲか
舞茸かわかるだろうし」
久しぶりの食材だなあ、何て事を思いながら
足を踏み出すと、
『ヒャンッ』
と、何かの叫び声が聞こえ、そちらに振り向く。
「……?
気のせいか?」
そこには何もおらず、ただ落ち葉や小枝が
散乱している地面があるのみ。
「うーん……」
アウトドアをやっていると稀にだが、『罠』に
遭遇する事がある。
法律では『ここに罠がありますよー』と、
わかるように設置しなければならないのだが、
たまにそれを忘れている物があったり、
違法な場合だと最初から罠注意の警告が無いのだ。
そうでなくても、ヘビとか危険な生物がいる
場合がある。
そういう時は長い木の棒で地面を探るか、
「よっと」
私はそのへんにあった小石を、叫び声がしたで
あろうあたりを狙って投げてみた。
バクッ!!!
「!?!?」
それを見て私は思わず後ずさる。
急に横一直線に地面に裂け目が出来たかと
思うと―――
小石を喰らうかのように開き、飲み込んだからだ。
それが終わると裂け目はゆっくりと閉じていき、
そしてまた元の地面のように静まり返る。
「何だこりゃ……
生き物のようだが、こんな―――
ヘビでも無いようだし。
地面にも完全に擬態出来ている。
こんな生き物……
・・・・・
あり得ないでしょう」
思わずぼそっと『無効化』を宣言してしまう。
すると―――
「ギィェエ~エェエエン!!!」
と、海の物とも山の物ともつかない、獣のような
叫び声が山中に響き……
「何事!?」
「シン、何があったのじゃ!?」
まず妻二人が駆け付け、次いで、
「シン殿!」
「いったい何が……
む!?」
「こ、これは―――」
そこには、直径十メートルほどの、目と鼻と
口のある顔が地面にへばりついていた。
「こやつは地穴にござります。
地面に擬態し、小動物などを待ち伏せして
食す、獣とも妖とも取れぬもの。
言い伝えでは、我らが祖先の威を恐れ―――
この山からは姿を消したと聞いておりましたが」
地球でいうところのキノコか粘菌、それとも
植物か……
それらの魔物、と言った感じだろう。
彼らの説明を聞きながら、その巨大な顔を
触ったりつついたりしていると、
「ピャッ」
と、口からイタチのような動物が這い出て、
そのまま逃げ去った。
「我らが不在を知り……
再び山に入り込んだのでしょう。
この不届きものめが。
しかし、我らが祖先もこやつを追い払う事は
出来ても、倒せたとは聞いておりませぬ。
さすがはシン殿……!」
羽狐さんたちが自分を称賛する中、
「あのー、すいません。
ところでこのキノコとか、持っていっても
構いませんかね?」
キクラゲと舞茸を見せると彼らはポカンとして、
「は、はあ」
「すでにここは去ると決めた地。
それは一向に構いませんが……」
そこで私はドラゴンの方の妻に向き合い、
「アルテリーゼ。
悪いんだけど、この地穴とやらを折りたたんで
運べるようにしてくれないか?
パック夫妻にお土産として持っていきたい」
「わかったぞ」
そう答えると彼女は、絨毯でも丸めるようにして
獲物をくるくると巻いていき、
「メル、そっちは私と同じこのキノコを
集めてくれないかな」
「食べられるヤツ?
また何か見つけたの?」
「まあまだわからないけど」
その会話を聞いていた羽狐さんたちが、
「あ、あのシン殿?」
「ええと……私どもも何か手伝う事は」
まずい、無視したような感じになっていたか。
ラーメンや鍋に試してみたい気持ちがいっぱいで、
つい置いてきぼりにしてしまった。
私は今手に持っているキクラゲ・舞茸を彼らに
手渡し、
「じゃあこれを持っていてもらえますか?
あと少し集めたら、それで帰りましょう」
「わ、わかり申した」
こうして私はメルと一緒に三十分ほど採取を
続け、
その後、『乗客箱』で帰途に着いたのだった。