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「……はんちゃんは変わらへんな。ずっと、可愛いままや」
不意に伸びてきた指が、俺の口角に触れる。
……ん、ちょっと待って。その指、どこに持っていこうとしてるん。
「あかん! 俺、彼女ちゃうで! そんなん舐めたら彼女に顔向けできひんわ!」
勢いよく新の腕を掴んで止める。
ほんま、こういう無自覚なところは、くうちゃんと全然違う。新は、自分のやったことを人に指摘されてから、ようやく「あ、そうか」って気づくタイプや。
「あ、そうか。ごめんごめん」
新はケラケラ笑いながら、近くにあったナプキンで指を拭う。
……ほんま、くうちゃんが新みたいな天然じゃなくて良かった。
もし昨日、くうちゃんにあんなことされてたら、俺……。
あ、待てよ。
昨日、くうちゃんにアイスを拭いてもらった時。
もしかして、くうちゃんも俺のこと「可愛い」って思ってくれてたんかな。
その後に急に冷たくなって、トイレに逃げたのも……全部、照れ隠しやったとしたら。
いやいや、ええように考えすぎやろ。
あかん。ずっとくうちゃんのことしか考えられへん。
恋する乙女って、こんなにしんどいもんなんやな。
尊敬するわ。世界中の、恋する人間たちを。
♢♢♢
「はんちゃんは、どんなお願い事したん?」
「……大切な人たちと、一生隣で笑えてますように」
「……はんちゃんらしくてええな。俺は、『これからもずっと、はんちゃんと親友でおれますように』って」
「……いや、なんでやねん! そこは彼女を最優先にせなあかんやろ!」
「あ、ほんまや。はんちゃんと一緒におったから、はんちゃんのことしか考えてへんかったわ」
あはは、と笑いながら新の天然が爆発してる。
ほんまにもう。参拝の列に並んでる間、ずっとツッコミのオンパレードやったわ。
「……恋おみくじ、引いてもええ?」
「昨日、引かんかったん?」
「ん。あいつらの前で引くのは、さすがに恥ずかしかったし」
「確かに。絶対揶揄われるもんな」
新はいつも突っ込まれる側やから、俺の行動を茶化したりはせえへん。
頼りなさそうに見えて、実は頼れる。そういう兄貴みたいなところが、新にはある。
「恋みくじ、二枚お願いします」
「え、一人で二回も引くん?」
「俺のこと、どんだけアホやと思てんねん」
恋おみくじを奢ってもらうなんて、人生で最初で最後かもしれへん。
「ありがとうございます」と頭を下げて、もらった紙を同時に広げる。
「お、俺、『大吉』やったわ」
「……うそやろ。また『大凶』やった……」
「え、そんなん存在してたん? 初めて見たわ」
新がキラキラした目で、俺のハズレくじをまじまじと見つめてくる。
……そんな、宝石見つけたみたいな顔で見るんやめて。
「ん、ここ」
「昨日、結んだとこ?」
「うん。昨日はくうちゃんが抱っこして、持ち上げてくれてん」
「……それは、絶対に負けられへんな」
変な対抗心を燃やして頑張ってくれたけど、新は結局、俺のことを持ち上げられへんかった。
……すごいねんな、くうちゃんて。
今度、トレーニングしてるとこ見せてもらおかな。ついでに筋肉も……ってもう、無理!
想像しただけで恥ずかしくてたまらんわ。
「……やっぱ、空には敵わへんな。何一つ敵わへん。俺と空、結構似てるのに、何が違うんやろ」
いや、意外とガチでダメージ受けてんのやめて。
こっちも、どう声をかけてええかわからんようになるから。
「やっぱ……愛の深さ、ちゃう?」
はずかちい! 自分で言うといて、今のめっちゃはずかちい!
付き合ってるわけでもないのに、今の発言……恋人気取りみたいで恥ずかしすぎる!!
「ほんま、そうかもしれんな」
ほら、新が軽く流したやん。どうすんねん、この空気。
「あ、ほら! りんご飴奢ったるから元気出し。仲良く食べて帰ろう」
「え、ありがとう。普通に嬉しいわ」
ほんま、表情がコロコロ変わって子供みたいやな。
こういう時間も幸せやなって、改めて感じられたええ時間やった。
♢♢♢
正月休み中、ずっとくうちゃんのことばかり考えていた。
あんな断り方をしてしまったから、せっかくの休みも遊びに誘う勇気が湧かず……結局ダラダラと連絡も取れんまま、二月になってしまった。
二月といえば、バレンタイン!!
そういえば、毎年バレンタイン付近には、くうちゃんと遊んでたな。お互いお気に入りのデパ地下スイーツを選んで、一緒に食べて。
……なんて贅沢なバレンタイン過ごしてんねん、過去の俺!!
今年は違う。気持ちの込め方が。
でも、バレへんように。自分だけが感じられる「満足感」を、慎重に探し求めなあかん。
『今年はバレンタインどうする? どこのデパ地下がオススメ?』
くうちゃんがもう探してくれてる、という前提でLINEを送る。
ここで俺だけがノリノリなのがバレたら、「好き」が透けてまうからな。
『イベントいくつか探してるで! できれば全部まわりたい!』
『じゃあ、仕事終わりに集合で!』
ウッキウキで返事を返したものの。
バレンタイン前日、開口一番に告げられた言葉は、俺を地獄の底へと突き落とした。
「俺、彼氏できるかも。明日、初めて会うねん」
「これ見て」と笑顔で差し出されたスマホには、マッチングアプリの自己紹介欄。
……は?
なんで。くうちゃんほどの人が、なんでこんなしょうもない出会い方をせなあかんねん。
「くうちゃん、自分が何してるか分かってる……?」
「うん。初めて使ってみたけど、便利やなぁ。タイプを入力するだけで、一瞬で運命の人に出会えるんやもん」