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「徒花」
薄暗い地下室。
ぽたり、ぽたり——
どこかから、水の落ちる音が響いていた。
「……っ、は……ぁ……」
荒い息を漏らすレトルトは、 冷たい床に座り込んでいた。
両手首には、赤い痕。
逃げようとして擦れた跡だ。
目の前には—— キヨ。
いつもの、明るくて無邪気な笑顔じゃない。
ただ静かに
壊れたおもちゃを見るみたいな目で
レトルトを見下ろしていた。
「……どこ行ってたの?」
優しい声。
なのに、 背筋が凍る。
「し、仕事……やって……」
「嘘」
即答。
びく、と肩が揺れる。
キヨはしゃがみ込むと、
レトルトの頬を撫でた。
ぞわり、と鳥肌が立つ。
「俺、見てたもん」
にこり、と笑う。
「知らない男と笑ってた」
「ち、違……っ」
言い終わる前に、
喉元にひやりと冷たいものが触れた。
カッターの刃。
「ひっ……」
「ねえ」
キヨが うっとりした顔で首筋をなぞる。
「ここ、切ったら……レトさんは、 どんな声で鳴くの?」
「や……っ、やだ……!」
涙が滲む。
けれどキヨは
その涙すら愛おしそうに見つめる。
「その顔……かわいい」
ぺろ、と
零れた涙を舐め取った。
「怖い?」
こくこくと、
レトルトは震えながら頷く。
するとキヨは
ふっと笑って、刃を離した。
「大丈夫」
優しい声。
でも次の瞬間——
ざく。
「っああぁっ!!」
レトルトの耳元の髪が、
無造作に切り落とされる。
床に、はらりと落ちる髪。
「びっくりした?」
にやぁ、と笑う。
瞳が、狂ってる。
「殺したりなんて….しないよ」
「っ……!」
レトルトは這って逃げようとする。
でもすぐに
後ろから抱き締められた。
ぎゅう、と
苦しいくらい強く。
「逃げないで」
耳元で囁く声は、
甘いのに冷たい。
「レトさんが悪いんだよ?」
「俺以外見ようとするから」
「俺以外と話すから」
「俺以外で笑うから」
言葉がひとつ増えるたび、
腕の力が強くなる。
「や……っ、くるし……」
「……じゃあ約束して」
首筋にキスが落ちる。
何度も、何度も。
「俺だけのものになるって」
涙でぐしゃぐしゃの顔で、
レトは震える。
怖い。
怖いのに。
「……キヨ、くん……」
その名を呼ぶだけで、
キヨの呼吸が乱れた。
「あぁ……」
恍惚とした声。
「その声、好き……」
カッターが
今度は自分の手首に当てられる。
す、と薄く傷がつく。
血が滲む。
「キヨくん……!なにして……!」
「証拠」
狂った笑み。
「俺の痛みと、 レトさんの痛み、
一緒がいい」
そう言って
血のついた手で、
レトルトの頬を撫でる。
赤く、染まる。
「きれい」
レトルトは、
もう泣くことしかできなかった。
地下室に響くのは、
キヨの笑い声と——
壊れていく愛の音だけ。
徒花
咲いても身を結ばずに散る花
コメント
1件

メンヘラな🐈⬛の供給ありがとうございます、、