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「ここがお前の部屋な」


通されたのは、一人で住んでいた時よりも遥かに広い一室。玄関を入って、すぐ右側にある部屋だった。


部屋の中には、私のアパートから引っ越し業者が運んでくれた段ボールが積み重なっていた。


「湊さん、このベッドは?」


部屋にはベッドが一つ置いてあり、寝具も新品で準備されていた。


「お前の部屋に行った時、布団で寝ていたから買ってやった。俺の家で布団で寝てるとか、イメージが悪い」


言い方に難があったが、きっと私のことを考えて配慮してくれたからだとプラスの意味にとっておくことにした。

そんな言い方をしたら、日本全国、床に布団を敷いて寝ている方にケンカを売っているようなものだ。


「ありがとうございます」


「部屋の荷物が片付いたら、やってもらいたいことがあるから」


また嫌な予感がした。


「なんですか?やってもらいたいことって」


「とりあえず、洗濯物が溜まっている」


どのくらいの量なのだろう。


「ちょっと見せてくれませんか?」


洗濯機周辺に行くと、酷い有様だった。


「よく溜め込みましたね?」


タオル、洋服、下着がカゴの中いっぱいに積み重なっている。


「忙しいんだから、しょうがないだろ?そのためにお前がいるんだから」


「私の部屋を片付けている間に、洗濯が終わるようにもう洗濯機を回しちゃいます」


湊さんに、洗剤の場所や洗濯ネットの場所、乾燥機付きの洗濯機だったため、畳んだらどこにしまっておけばいいのか場所を聞いた。


引っ越してきて早々、たくさんやることがありそう。まぁ、雇われているんだからしょうがない。


以前雇っていた家政婦さんを断ってから、掃除もしていないんだろうと思い、掃除を始めようとした。


「すごい!この掃除機!」


乾燥機付きの洗濯機も私にとって魅力的だったが、掃除機も魅力的だった。吸引力が強く、ワイヤレスの掃除機に感動をしてしまう。


「なんでそんなことで驚いているんだ?」

湊さんは不思議そうにしていた。


洗濯と掃除が終わったら、もう夕食の時間だった。


「湊さん、何か食べたいものはありますか?」


リビングで何か資料を見つめている彼に問いかける。


「うーん。唐揚げ」


冷蔵庫を見ると、材料がほとんどなかった。


「湊さん、買い物行ってきてもいいですか?」


「あぁ。冷蔵庫、何もないだろ?俺も行く」


彼と一緒に行くとは思っていなかったので、動揺してしまう。


「一回、お前と買い物に行って俺の好きな物を覚えてもらわないとな」


ああ、そういうことか。

納得した。


湊さんが店長の姿に変装をした。

ウイッグとメガネだけでこんなに印象が変わるのか。彼が変装をするたびそう思う。


「さぁ、行くか?」


彼のマンション近くにスーパーがあった。

あまり安くはない。土地柄も関係していると思った。


高層マンションが多く、ブランドショップが並ぶこの街は、芸能人が何人も住んでいることで有名だった。


野菜コーナーを見ているが、以前住んでいたアパート近くのスーパーより、何十円も高い。

今度から成瀬書店のアルバイト帰りに、近くのスーパーに寄って帰ろう。


「今日は、唐揚げでいいんですよね?」


「ああ」


とりあえず、唐揚げに添えるキャベツと鶏肉を買う。

ムネ肉の方が安いが、湊さんはモモ肉の方が好みではないかと思い、カゴにモモ肉を入れる。


「お前、ちゃんと鶏肉状態から作れんのか?」


私が鶏肉をカゴに入れたのを見て、彼は驚いていた。

まさか、総菜コーナーにある唐揚げや冷凍食品の唐揚げをイメージしていたのだろうか。


「作れます。大丈夫です」


鶏肉状態という彼の言い方が面白い。


「すごいな」


彼は笑った。

そんなことで褒められても……。

悪い気はしないけれど。


「あと、俺、好きなものがあるんだ」


「なんですか?」


湊さんのアーティストとしてのプロフィールは一切公表されていない。もちろんそういったプライベートな部分もファンであったが知らなかった。


というか、湊さんって年齢はいくつなんだろう?


「その前に、湊さんって年齢いくつなんですか?」


「俺?二十七だけど……」


「えっ!二十代なんですか?」


思わず大きな声を出してしまった。


「おい、老けて見えるってことか?」


ご機嫌が悪くなってしまったらしい。


「いえ、あの……。しっかりしているからもっと年上かと思っていました」


私と四つしか違わないのに、背負っているものがかなり違う。尊敬してしまった。


「公式で公表してないもんな」


「すみません。話がそれてしまって。湊さんの好きな食べ物ってなんですか?」


「俺、見かけだけで甘い物嫌いだと決めつけられるんだけど、甘い物が好きで……。絶対食後はデザートをつけてほしい」


彼の言葉を聞いて、思わず、あはっと笑ってしまった。


「なんだよ。おかしいか?」


「いや、二十七歳って聞いて、自分と四つしか違わないのにいろいろすごいなって尊敬したんですけど、食後のデザートっていうこだわりのギャップが面白くて……」


「悪いかよ……」


なんだ、可愛いところもあるんだ。

「わかりました。じゃあ、食後は必ずデザートつけるようにしますね」


「あぁ。頼む」


まだ少し笑ってしまいそうだったが、なんとか堪えた。


「今日は何か食べたいものありますか……?」


「うーん。そうだな。今日はプリンが食べたい」


プリンを買い物カゴの中にいれる彼。


その場を通り過ぎようとすると


「おい、お前の分は?」


「えっ?そんな贅沢はできませんよ。ご飯をいただけるだけで私は有難いので……」


彼は不満そうな顔をしている。

「プリン、嫌いなのか?」


「いや、嫌いじゃないですよ?甘い物、私も大好きですし……」

嘘ではなく、甘い物は好きだった。


湊さんは、違う種類のプリンをもう一つカゴの中に入れた。


「俺、こっちも食べてみたいから、お前の分一口食べさせて?」


追加で入れたプリンは、私の分らしい。


「はい、わかりました。ありがとうございます」


お会計を済まし、買った物をレジ袋に入れる。

当然のように買った荷物を持とうとしたが、それを彼がパッと取り上げ、持ってくれた。


「湊さん、荷物持たせてください!一応、家政婦ですし……」


「お前、一応、女の子だろ?荷物くらい持たせろ」


やっぱり、彼は優しい。

口は悪いけど。


「ありがとうございます」


私の前を歩く、彼の背中に伝える。

荷物を持っていない方の手をあげ、彼は返事をしてくれた。



彼のマンションに帰る。


「じゃあ、私、夕ご飯の準備をしますね」


「おう。俺、ちょっと寝室で休んでるからできたら起こして?」


そういえばここのところ、ずっと資料や譜面を彼は見ていた。成瀬書店に来ても、二階で何かずっと調べていたし。


彼は寝室に入っていった。


よしっ、美味しい物を食べて元気を出してもらおう。そして、私が料理ができないと思っている彼をびっくりさせてやる。


私はエプロンをつけて、キッチンに立った。



料理ができたので、寝室をノックする。


「湊さん、ご飯できましたよ?」


返事はなし、音もしない。


「入りますよー?」


声をかけながら、寝室に入る。


私が倒れた時に使わせてもらったベッドで、彼はうつぶせの状態で枕を抱えながら寝ていた。


「湊さん、起きてください。ご飯できましたよ?」


ポンポンと肩を叩く。

それにしてもこうやって静かに寝ていると綺麗だな。思わず、髪の毛に触れてしまった。


「ん……」


「湊さん、起きてください。夕ご飯できました」


もう一度、肩をポンポンと叩く。

この間の寝起きは最悪だったが、今日は大丈夫かな?

この作品はいかがでしたか?

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コメント

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湊さん、めっちゃギャップある🥰

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