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#山中柔太朗
Freesia
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恋をしていると気づいてから、何かが劇的に変わったわけじゃなかった。
朝になれば仕事に行くし、メイクをされて、衣装に着替えて、カメラの前では笑う。五人で並んで、いつものようにくだらない話をして、スタッフに注意されて、それでもまた笑う。
昨日までと何も変わっていない。 変わってしまったのは、たぶん俺のほうだけだった。
「仁人、そこ俺の場所」
楽屋に入った勇斗が、ソファに座っていた俺を見て言った。
「別にいいじゃん。空いてたんだから」
「そこ俺がいつも座ってる」
「知らないよ」
「知ってるでしょ」
そう言いながら、勇斗は俺の隣に腰を下ろした。
肩が触れそうなくらい近い。 いつもなら何も思わない距離だった。 むしろ、勇斗が隣にいることに安心していたはずなのに、今はその近さが妙に怖い。
俺は少しだけ身体をずらした。 勇斗が、それを見ていた。
「……何?」
「いや」
勇斗はそれ以上何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ眉を寄せて、俺の横顔を見ていた。 その視線から逃げるように、俺はスマホを取り出した。
「今日の撮影、何時までだっけ」
「六時くらいちゃう?」
向かいに座っていた太智が答える。
「そのあと飯行こや」
「ええな」
舜太がまたすぐに乗っかる。
「柔太朗も行く?」
「行く。仁ちゃんも行くでしょ?」
「……俺はいいや」
気づけば、そんな言葉ばかり口にしていた。
「最近、仁ちゃんずっと帰ってない?」
柔太朗が何気なく言った。
「そう?」
「うん。前はもっと一緒にいた気がする」
「疲れてるだけ」
「ふーん」
柔太朗はそれ以上追及しなかった。 太智も何も言わない。 ただ、勇斗だけが黙っていた。
俺はその沈黙が嫌だった。 何かを見透かされるような気がして、わざと明るい声を出す。
「ほら、仕事あるんだから。早く準備しなよ」
「仁人に言われたくない」
勇斗が笑う。 俺も笑った。 たぶん、ちゃんと笑えていた。 少なくとも、周りから見れば。
*
撮影は順調だった。 五人で並んで笑い、 肩を組む。 勇斗がふざけて、俺がそれを止める。まるでアクセルとブレーキのように。 カメラが向いている間だけじゃない。 俺たちは昔から、そういう距離感だった。
「もっと寄ってくださーい」
スタッフの声に、勇斗が俺の肩を抱いた。 反射的に身体が固まった。
ほんの一瞬。 でも、勇斗には分かったらしい。 撮影が終わって手を離したあと、何も言わずに俺を見た。 俺は見ないふりをした。 こんなこと、今まで何度もあった。
なのに。 好きだと気づいた途端、全部が特別になってしまった。
肩に置かれた手の重さも。 耳元で聞こえる声も。 目が合ったときの笑い方も。 俺の名前を呼ぶ、その声さえ。
――こんなに近くにいたのに。
どうして今まで、何も知らなかったんだろう。
*
その日の帰り、結局俺は一人で帰った。 みんなが食事に行くのを断って、先に楽屋を出る。 廊下を歩いていると、後ろから足音が追いかけてきた。
「仁人」
振り返らなくても分かった。
「何?」
「一緒に帰ろ」
「……今日はいいよ」
「なんで?」
「なんでも」
歩く速度を少しだけ速める。 それでも勇斗はついてくる。
「仁人」
「なに」
「最近、俺のこと避けてる?」
足が止まった。
廊下の窓に、二人の姿が並んで映っている。 少し離れて立つ俺と、俺を見ている勇斗。
「……避けてないよ」
「嘘」
「嘘じゃない」
「じゃあ、なんで?」
答えられなかった。
好きだから。 そんなこと、言えるわけがない。
勇斗が好きだなんて言ったら、今まで積み上げてきたものが全部変わってしまう。
五人で笑うことも。 ステージの上で隣に立つことも。 何年後も同じようにくだらない話をしている未来も。 全部。
全部、失うかもしれない。
「……疲れてるだけだって」
やっとそれだけ言った。 勇斗はしばらく俺を見ていた。 やがて、小さく息を吐く。
「そっか」
それだけだった。 俺はほっとした。
これでいい。 気づかれなくていい。 このまま何もなかったことにすればいい。 そうすれば、俺たちは今まで通りでいられる。 五人でいられる。 それが一番いい。
勇斗が俺じゃない誰かを好きになっても、いつか結婚して、別の誰かと人生を歩くことになっても。 その隣に俺がいなくても。
それでも、五人で笑えるなら。 そう思った。 思おうとした。
けれど、隣を歩く勇斗が急に口を開いた。
「仁人」
「ん?」
「俺さ」
勇斗が何か言いかけて、やめた。
「……いや、なんでもない」
「何それ」
「忘れて」
笑った。 いつもの勇斗の笑い方だった。 俺も笑った。
けれど、その夜。 ベッドに入ってからも、あのときの勇斗の顔が頭から離れなかった。
何を言おうとしたんだろう。 考えても分からない。 分からないまま、目を閉じる。
そして、ふと気づいた。 もし勇斗も、俺と同じ気持ちだったら。 もし、あのとき言おうとしていたのが――。
そこまで考えて、俺は慌てて首を振った。
そんなはずない。 あるわけがない。 勇斗は俺の親友だ。 ずっと隣にいる、大切なメンバーだ。 それ以上なんて、あるはずがない。
そう言い聞かせて、目を閉じる。
けれど、同じ頃。 別の部屋で、勇斗もまた、眠れずにいた。
昼間の仁人の顔を思い出している。 自分から少しずつ離れていく、その背中を。 そして、言えなかった言葉を。
――俺、仁人に避けられるの、嫌なんだけど。
その理由を、自分でもまだ認めたくなかった。
ただの親友なら、 こんなに苦しくなるはずがないのに。
コメント
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第2話、読了したよ〜!!😭💕 仁人の視点で描かれる“好きだと気づいた瞬間から全部が特別になる”感覚、めっちゃわかるし刺さる……!いつも通りの距離感なのに、肩に置かれた手の重さや視線が全部違って見えるの、すごくリアルだった🥺 「五人で笑えるなら」って自分に言い聞かせるところと、勇斗の「避けられんの嫌なんだけど」が真逆の方向から同じ想いを抱えてそうで切なすぎる……!!😭❤️このすれ違い、どうなっちゃうの!?続きが気になりすぎて今夜眠れない〜!!✨