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鷹槻れん@コノカレコミカライズ

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猫塚ルイ
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宇津Q
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#シークレットベビー
『第六話 教室の窓際』
「で?」
悠真はコーヒーを置いた。
「学校の話って?」
──一週間後の土曜日。午後。
いつもの部屋。
いつものテーブル。
いつものピスカ。
違うのは、千夏が珍しく自分から話を切り出したことだった。
「面白い話じゃないですよ?」
「聞いてから決めるよ」
千夏は少し考える。
そして観念したように息を吐いた。
「私、友達が少ないんです」
「うん、そんな気はしてた」
「……否定してくださいよ」
「ごめんごめん」
「ひどいですっ」
可愛らしく頬を膨らませてみせたが、怒ってはいなかった。
むしろ少し安心したようだった。
「嫌われてるわけじゃないんです」
「うん」
「でも仲良くもないんです」
「なるほど」
その感覚は分かる気がした。
クラスにいる。
話もする。
だけど放課後に遊ぶほどではない。
そういう距離感の相手たち。
「中学までは違ったんです」
千夏は窓の外を見る。
「もっと普通でした」
「どこで変わった?」
「高校からです」
即答だった。
「皆すごいんです」
「すごい?」
「勉強もしてるし」
「うん」
「部活も頑張るし」
「うん」
「コミュニケーションも上手いし」
「うん」
「あと素敵です」
「最後だけ雑だな」
千夏は真顔でテーブルを軽く叩く。
「本当にそうなんですっ!」
続ける。
「入学した時に思ったんです」
「何を?」
「……場違いだなって」
その言葉に、悠真は少しだけ昔の自分を思い出した。
社会人になったばかり。
会議で発言もできなかった頃。
周りは皆優秀に見えた。
自分だけが取り残されている気がした。
「でもさ」
悠真は言う。
「皆そう思ってるかもしれないぞ」
「ないです」
「即否定か」
「絶対ないです」
千夏は真面目な顔になる。
「だって皆、自信ありそうですし」
「そう見えるだけ」
「そうですか?」
「俺もそう見えてたらしい」
千夏は目を丸くした。
「誰にですか」
「……新人の後輩」
しばらく沈黙。
そして。
「あはははっ!」
千夏は笑い転げた。
「無理ですっ」
「何が」
「お兄様が自信満々に見える世界が想像できません」
「失礼だな!」
「だって毎日失敗してるじゃないですか」
「そこだけ覚えてたのか」
二人で笑い合う。
寝ていたピスカが半分だけ目を開けた。
眠そうに、すぐ閉じた。
興味がないらしい。
「でも」
千夏はぽつりと言った。
「少し羨ましいです」
「何が?」
「お兄様って」
その声は静かだった。
「失敗しても平気そうだから」
「平気じゃないぞ」
「そうなんですか?」
「帰り道で一人反省会とかしてる」
「意外です」
「毎日やってる」
「え」
千夏は少し驚いていた。
たぶん。
大人という人は、もう完成していると思っていたのだろう。
「大人になったら」
千夏は言う。
「もっと楽になると思ってました」
悠真は苦笑した。
「ならないな」
「ならないんですか」
「全然」
「夢がないです」
「ごめんな」
また笑う。
夕方の光が部屋へ差し込む。
窓際でピスカが伸びをした。
「でも」
悠真は続ける。
「ひとつだけ違う」
「何ですか?」
「失敗しても終わりじゃないって分かった」
千夏が顔を上げる。
「高校の頃はさ」
悠真は窓の外を見る。
「一回のテストとか」
「うん」
「友達関係とか」
「うん」
「全部人生を決める気がしてた」
千夏は黙って聞いている。
「でも実際は、そんなことないんだよな」
風がカーテンを揺らした。
「失敗しても大丈夫」
「……」
「やり直せる」
千夏はしばらく何も言わなかった。
やがて。
本当に小さく笑った。
「その言葉」
「うん?」
「今度のテスト前に、もう一回言ってくださいね」
悠真はコーヒーを一口すすり。
「それは保証できないな」
「いじわるです」
「だったら今から勉強しろ」
「うわぁん」
部屋に笑い声が響く。
教室の窓際で感じている孤独も。
将来への不安も。
まだ消えない。
だけど。
千夏は少しだけ思った。
いつもは憂鬱だった次の月曜日が、
来てもいいかもしれない、と。
──続く
コメント
3件
千夏さん、すごーくわかるなぁ😌 周りの人を見ていると、みんながなんでも出来るすごい人に見えちゃいますよね……
ううん……この話、すごく沁みた🥀 千夏ちゃんの「場違いだな」って気持ち、わかるなあ。 私もそう思うこと、あるから。 でも悠真さんの「失敗しても終わりじゃない」って言葉が、 すごく優しくて、じんわり心に残った。 ピスカが寝てるところも可愛くて好きです🐱 次の月曜日が来てもいいかなって思えるラスト、 すごく温かかったです。 更新ありがとうございます、宇津Qさん☕