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「あ。お帰りなさいヤツカドさん。あ♪東雲さんが探してましたよ?」
「え!?。ヤバいヤバい。…あ、音々さん、ありがとうございます。」
「うふふふっ。どういたしまして♪」
生かしてやった徳元裕二とゆう強姦魔に、三つの約束を言いつけて、72万円入りの封筒を渡した俺は、煌々とした灯りを零す七月診療所へと戻ってきた。奴を車から降ろしたあとの、ご褒美をせがむカスミさんがエロ過ぎてかなり疲れてしまった。危うく車内で○○○をされるところだった。
迎えてくれたのは受け付けと看護師を兼任している黒咲音々《クロサキ・ネネ》さんだ。他にも三人ほどいるのだが、俺は『カスミさんの四天王』と呼んでいる。七月霞にとって、優れた助手であり良き相談相手なのだ。
「れーおーくーん?。わたしに何も言わないで…どこに行ってたの?」
「え〜と。…カスミさんと…ちょっと…野暮用に…(ううう…怒ってる…)」
「お出かけする時には必ず知らせるって言い出したのはレオくんよね?。守れない約束なら口にしないで。…それに、いつもカスミ先生カスミ先生って。…いっそわたしじゃなくて…カスミ先生と付き合ったら?。プイ…」
「いやいや、カスミさんのお陰で俺はココにいられるんだし、恋人のリンとは関係性が全然ちがうんだから無理だよ。…とにかく…ごめんなさい…」
俺は多分、リンの尻に敷かれるのだろう。とゆうより既に敷かれている。もしも、俺を無条件に溺愛してくれるカスミさんと、二日前に恋人になったばかりのリンに、全く同じ条件で叱られたとしたら…俺はどうしてもリンに弱くなってしまう。たとえカスミさんには謝らなくともリンには謝罪してしまうだろう。俺にとってはどちらも大切な存在なのだが。う〜む。
「…………レオくん。……本当に悪いと思ってる?」
「はい。反省してます。…次から必ず…知らせてから出掛けます…」
「…ホントね?。…それじゃあここに来て、わたしを抱きしめて…」
いつもの清潔な白いベッドの上で、薄桃色なネグリジェを着て身を起こしているリンが、桜色な頬をちょっとだけ膨らませて自分のすぐ横をぽんぽんと叩いて見せる。大きな猫目を少しだけ細めて見る彼女の表情に、俺はどうしたって逆らえない。腰を下ろして両腕を広げて、胸を寄せながらそっと抱き寄せた。なんとも言えないリンの甘い香りが鼻腔を擽ってくる。
「うん。………リン……ごめん。……不安にさせたね?」
「…はぁ♡。うふふっ♪…おっぱい…優しく揉んでくれたら許したげる♡」
「え!?。………じゃ…じゃあちょっとだけ。……こ…こんな…感じかな?。(うっ!…ノーブラだ。…ネグリジェの上からと言っても…ヤバいかも…)」
「うん♡。もっと…強くしても良いよ?。(んはぁあん♡。レオくんが触るとすっごく気持ちいいよぉ♡。…ああん♡。…腰が浮いちゃいそう♡)」
東雲鈴の右の乳房に当てる俺の利き手の手のひら。その手の平からちょっとだけはみ出す彼女の乳房の張りの良さにはいつも驚かされてしまう。その豊かな乳房を下から支えながら指先を軽く曲げると、リンは吐息を甘くして俺に抱きすがってきた。張り良い強めな押し返しに…理性がやばい。
通常なら何かしらの性的被害に遭った女性は…男を一切拒絶する。それは当然の防衛本能と当然の嫌悪反応からだ。傷つくのは身体だけではない。しかしシノノメ・リンとゆう被害者は、俺との性的な触れ合いを好んでいる様に思える。そこには彼女なりの理由や考えがある筈だ。尊重しよう。
「視聴者のみなさん…事件です。…本日未明、我がテレビ局に一本の電話がありました。…その内容があまりに衝撃的で…私たちはここで生中継することを決めました。…その匿名の電話は他局にも届いているそうで…」
「……………♪。♫。♬。」
「………………。」
「……………。(何でわたしのベッドの中にこの二人が?。カスミ先生なんてセクシーネグリジェだし、レオくんもジャージだし。…しかもお菓子や飲み物まで用意して。なに?これからここで、みんなでテレビを見るの?)」
わたしは今ひどく困惑している。現在午後9時の少し前。先ずはカスミ先生が両手いっぱいのお菓子を持ってきた。続くようにレオくんがグラスを三つと、いろんなジュースのペットボトルを抱えて来る。そして…入れ替わるように着替えてきてから、わたしのベッドに二人が潜り込んできた。
「その匿名の電話が予告、指定した時間は二十一時。そして…その時間にある人物が…えっ?タクシーが乗り付けた?。すぐ向かえ!カメラっ!」
最初から興奮気味だった中継キャスターが、カメラを従えて走り出した。大きく揺れている壁掛けテレビの画面に、タクシーの赤いテールランプだけが光っている。薄い街灯の明かりの下、後部座席のドアが開いて誰かが降りてきた。そこに駆け寄る男性アナウンサー。人影がコチラを向いた。
「!?。コイツよっ!!こいつがわたしをっ!!。卑怯者ーーーっ!!」
「……リン。これが約束した仇討ちだ。…しっかり見ておいてくれ。」
「あたしはぁ…三日後までに。だと思いますぅ。…レオちゃんはぁ?」
「…アイツのことだから今日中だよ。…もしかしたら10分保たないさ…」
「そうかなぁ?。ああゆう腐った生き物はぁ命にしがみつくでしょう?」
いよいよ始まったリンの為の復讐劇。それは国営放送に限らず、国内の民放にも映されているであろう特別番組だ。当然ネットでも流されているだろう。俺が指定した警察署の玄関口へと歩き出した人影は、向けられたマイクにも無言だった。そりゃあそうだろう、下手に喋れば命取りになる。
「レオくん?なに?。わたしの仇を討つって言ったよね?。生きてるわよっ!?アイツ!。…なんで生きてるのよっ!?。…なんで…まだ生きて…るのよ?。殺してよ!…あんなのが生きてるだけでわたしは!。ううぅ…」
俺の肩に凭れかかっていたリンが、身体を起こして激昂している。大きな眼に涙をいっぱいに溜めて俺を睨めつけた。俺は両手を伸ばして彼女に触れる。なにも説明していないのは現実として受け止めて欲しかったから。追い打つ事になりかねないが、俺は東雲鈴の…心の強さを信じたかった。
「あの徳元裕二って二足歩行の糞虫がね?傷付けたのはリンちゃんだけじゃないのよ。リンちゃんと同じ様に憎んでいる女の子が、他にも沢山いるのね?。そしてその子たちはぁ、この糞虫にまた襲われるんじゃないかと怖がってるの。だからね?みんなの前に晒す必要があったの。…解る?」
「…先ずは法で裁かせたいんだ。…ただ、コイツがそこまでたどり着けるのかは分からないけどね。…リン、残酷だと思う。でも、ちゃんと見ろ…」
「…ぐしゅ。すん。…わかった。…ちゃんと見る。…だから抱っこして…」
俺の伸ばされた手を拒んでいたリンが、腰に乗り上げるように身体を預けてくる。ダブルサイズのベッドに三人、俺を真ん中にして、リンもカスミさんも足を絡めつけ、身を重ねるようにしてテレビの画面に目をやった。
そこにあのデブっと肥った徳元の顔が映り込む。約束していた残りのカネを渡したのは、奴に最後の晩餐を与え、人界への未練を絶たせる為だ。しかし本当に来るとは思わなかった。あの『人間花火』が堪えたのだろう。
「貴方が電話で予告してきた人?。この時間にわざわざタクシーで来たんだからそうだよね?。……ひとこと貰えませんか?。…目的はなんです?」
「…………警察署の中で…話します。………ど…どいて下さい。…時間が…」
「ここでコメント下さいよお。…なんでここの警察署をしていしたんですか?。…それに貴方のお名前は?。…何かしら罪を犯したんですよね?」
「………今は…どいてくれ。……もうすぐ9時になるから。…どけよっ!」
「!?。…あんたそれ恫喝ですよ!?。あっ!?待って!待ってよ!?」
10人ほどのキャスターに囲まれていた丸い人影が、彼らを掻き分けながら警察署に向かっていく。約束した9時まであと7分だ。たぶん間に合うだろう。間に合わなければ俺との約束を破った事になる。ほら、急げよ?
「うふふふっ♪。あのブタ虫。すっごく焦ってますねぇ♪。ポリポリ…」
「そりゃそうだよ…なんせ約束だからね。…お?何とか間に合いそうだ。」
「…レオくん…撫でて。ちゃんと見てるから。…ぐすっ。…くじゅ…」
「……偉いぞ?リン。…よしよし。」
「ぐす…。レオくん…そこじゃないの。…もっとエッチなとこ撫でて…」
「あ。あたしも撫でて欲しいです♪。ご褒美♡まだもらってませんよ?」
「…体勢的に無理だよ。…右手にはカスミさんが、左手にはリンが乗ってるし。…む。ほらね?。…お、敷地に入ったぞ?。(さあここからだなぁ徳元裕二ぃ。鬼畜から人間に戻れるチャンスなんだから…根性見せろよ?)」
素敵な感触と女子ならではな良い香りに包まれながら、俺は画面に向かってほくそ笑んでしまった。俺と交わした絶対的な約束は三つだけだが、この人の皮を被ったブタには、少しばかりハードルが高いかも知れない。
1つ目は指定した警察署に午後9時までに出頭して、犯した罪の全てが入ったBSDを提出すること。2つ目は全ての罪を認める事。そして3つ目は絶対に嘘をつかないこと。改心し…本当に罪を償う気があれば簡単な事ばかりだ。しかもこの約束には幾つか穴がある。奴も気づいている筈だが…
「…君がトクモト…ユウジさん。ね?。…申し訳ないけど拘束するわ。…貴方が何の為にここに来るのか、匿名の電話があったの。マスコミは内容を知らないらしいから手錠はかけないけど…大人しく着いてきてくれる?」
「…僕は…コレを。…この封筒を渡してこいと言われただけだ…」
「…そう。自分はトクモト、ユウジではないと言うのね。わかったわ。じゃあ貴方にこのBSDを渡した人は誰?。…あ、このデータを開いてみて?匿名電話が正しかったら、徳元って男の悪事が全部入ってるらしいわ…」
「えっ!?。あ。…えっと。誰かは知らない。僕は…これで…帰るから…」
「…言ったわよ?拘束するって。警察としての建て前は任意だけど、匿名電話の内容から解放するわけにはいかないの。この三ヶ月で、性暴力を受けたって相談と被害届けが10件も出されてる。…犯人はまだ特定できていないけど、特徴や体型が貴方に似ている件もあるのよ。…解るわね?」
警察署の玄関に集っている報道陣の山。テレビ局や新聞社への予告電話が相当効いたらしい。ガラスの扉越しに映されている青いスーツの女性とトクモト。最近のマイクは高性能らしく、二人の会話は全てテレビのスピーカーから流れてくる。俺の耳には…奴がミスをした様に聴こえたのだが…
「…僕は…知らない。…か…帰りたいんだ!だから!。ひっ!?。腕が!」
「な!?。どうしたのその腕は!?。皮膚がボコボコ波打って…る?。誰か!?救急箱か包帯を持ってきて!。布を巻いて押さえてみましょう!」
そして全国に生中継される突然のグロ映像。画面の向こうに映る徳元裕二の肉体がボコボコと沸騰を始めた。やがて身体のあちこちから血が細く噴き出し始める。泣き叫びながら誰かに赦しを乞うのだが血は止まらない。
「ひっ!?ひぃいい!。や!やめてくださいっ!ぼっ!僕は約束を破っていません!。…助けて下さいっ!た!たたた!たしゅげ!!ぶっ!?。いだぁいいいっ!。やめで!たすげでっ!?ぼ!僕はまだっ!死にてゃくありましぇんっ!。うぁあっ!?おにぇぐっ?しにちゃぐ!ぼぐがっ!?」
「…………………え?」
対応していた女刑事が包帯らしき物で男の腕をグルグルと巻いている最中に、涙や鼻水やらでグシャグシャになっている男の顔面が突如爆発する。 飛び散る脳みそと肉と骨片と噴水にも似た血飛沫。膝から崩れたその身体は、まだボンボンと小さな破裂を続けている。その度に肉や骨が弾けた。
『ブシッ!。……ボンッ!…ボンボンッ!。……ブチャ!ブッ!ブシッ……』
「………な…何が起こったの?。……人間が……爆発した?…え?。なんで?」
今も眼の前で、ビクビクッと蠢いている徳元裕二の首なし遺体。ポンポンと鳴り、何度も何度も爆ぜながら、その肉体は原型を留められなくなってゆく。飛び散った肉片や骨片は、床に落ちるとどろりと溶けて、黒い塵になって消えてゆく。残されるの腐った生肉の臭いだけ。豚には相応しい。
『グチュ……グニュ……ブッブッ!。……しゅしゅぅぅ……ブシッ…じゅる…』
「…霧散してる?。すっ!すぐに鑑識班をここに回してっ!。…早くっ!」
対応していた女刑事がいきなり絶叫した。その声で我に返ったかのように周りが慌ただしく動き出す。それこそ報道関係者も収集などつかないだろう。曲がりなりにもひとりの男が爆死する場面を放送してしまったのだ。これで暫くは『ブタ人間、徳元裕二の死』が注目されること請け合いだ。
奴は少年院を経て社会に出ても、犯した罪の特異性から地元を追われる。碌な仕事につけないと世間を恨み、威嚇と虚勢を繰り返して生きる日々。
どの街にも落ち着けず点々と居を変えては、無垢な少女や若い女性を好んで傷つけてきた。鬼畜、徳元裕二42歳は、原型をまったく留めない黒い塵になってその生涯を終えた。死ぬ間際の激痛は犯した罪の分だけ重い。
奴は俺の名前を言わなかった。口止めもしていなければ、そんな事に触れもしていない。なのにブタ虫は言わなかった。『誰かは知らない。』奴は確かにそう言った。しかしその言葉は嘘にあたるのだ。あの鬼畜を車から降ろすまでにカスミさんと交わした会話の中に、俺の名前は何度も出ている。つまり誰かは知らなくとも『レオ』とゆう名前は言えたはずなのに。